唯一無二の「クリエイター・エージェンシー」として
事業を拡大
ドキュメンタリー番組も、事業も、必要なのは
「勇気・希望・愛・感動」
株式会社クリーク・アンド・リバー社 代表取締役社長
井川幸広さん
「勇気・希望・愛・感動」、そしてハッピーエンドであること
2016年8月に、東証一部上場を果たされました。それを受けての動きなどはあるのでしょうか。
私たちのビジネスには、工場のような大規模な設備投資は必要ありません。また、現在は低金利が続いているので、必要な資金は借り入れでまかなったほうがコスト的に有利な状況でもあります。ですから資金調達のために上場したというよりは、関わってくださる多くのクリエイターやプロフェッショナルの方々に、より信頼していただける土台ができた効果のほうが大きいと考えています。ただ、関連会社で伸ばしていきたいビジネスはいくつもありますので、IPOで得た資金はそういった企業に投資していくことになるでしょうね。
具体的に今後積極的に投資していきたい対象などあれば、お教えいただけますか。
「VR(ヴァーチュアル・リアリティ=仮想現実)」ですね。当社はハードを開発した中国メーカー「アイデアレンズ社」と合弁で、VR Japan(ブイアール・ジャパン)という販売代理店を設立しました。アイデアレンズ社のヘッドマウントディスプレイ(HMD)「IDEALENS K2(アイデアレンズ・ケーツー)」は、それだけですべてが完結するスタンドアロン(一体)型。Wi-Fiなどですべてのコンテンツが取り込めます。中国は国全体でWi-Fi技術が進んでいるので、それを活かした製品が出てきます。VRではソニー・インタラクティブエンタテインメントの「PlayStation®VR(プレイステーション・ブイアール)」やHTCの「Vive(バイブ)」などが有名ですが、いずれもHMDとゲーム機やパソコンをつなぐ必要がある。それに対して「IDEALENS K2」は、ケーブルがないので自由に動ける良さがあります。現在、TSUTAYAの協力を得てテストマーケティングを行っていますが、ユーザーの評価も高いですね。
アイデアレンズ用のプラットホームには、私たちが得意とするゲームや映像などのコンテンツを載せていきます。アイデアレンズ社のハードはアメリカでも普及しつつあるので、コンテンツをダイレクトに世界に発信できる。課金の仕組みも取り入れますから、日本にいながらにして世界から評価され、大きな収益を上げるクリエイターが出ることも夢ではありません。アップルやグーグル、サムスンなど、しっかりしたプラットホームを作っているところには優れたコンテンツが集まります。われわれもコンテンツだけを作るのではなく、まずプラットホームという「舞台」を用意した上で、クリエイターを支援していきたいと考えています。
クリエイター、プロフェッショナルを取り巻く市場の今後をどうお考えでしょうか。
「VR」もそうですが、新しいデバイスが続々と生まれていますよね。テレビ業界そのものは縮小傾向と言われますが、チャンネル数の増加や動画配信サービスなども含めて考えれば、クリエイティブが求められるシーンはむしろ拡大している。コミュニケーションのネットワークが複雑になればなるほど、求められるクリエイティブは質・量ともに増えていくと思います。
また、日本人には独特の感性があります。海外のクリエイティブはどうしても宗教と強く結びついているものも多いですが、日本にはとらわれずに考えられる土壌があります。仏教もキリスト教も神道も、それぞれの良いところを受け入れるこの感性は、まさに日本人ならではのもの。海外でチャレンジできるインフラさえあれば、日本のクリエイティブは必ず世界で評価されると思います。
その中で当社が果たすべき役割は、まずはクリエイターに仕事を提供していくこと。国内だけでなく海外の舞台を用意することも含まれます。同時にクリエイターの能力を高めていくこと。これまでペンで2次元(2D)の絵だけを描いていた人が、パソコンを使って3次元(3D)の作品を描けるようになれば活躍の場はもっと広がりますし、それにつれてギャランティも上がっていきます。一人ひとりのスキルを高めていく教育や研修への取り組みも、われわれに求められているものだと思っています。
「プロフェッショナル・エージェンシー」という新しいビジネスを生み出されたことは、一つのイノベーションだと思いますが、イノベーションを生む秘訣は何かあるのでしょうか。
私は当社を、イノベーションを起こしたいと思ってつくったわけではありません。ただ、ディレクターとして番組をつくる上で、こうすれば視聴率がとれるという自分の中でのルールは持っていました。それはどんなドキュメンタリーでも、最終的に「勇気・希望・愛・感動」の四つの要素が不可欠だということ。そこに集約されていくのが良い番組だと思います。
それを事業に当てはめると、いろいろなクリエイターや専門家の方々が、人生の終わりに「ああ、いい人生だったな」と思ってもらえる、その手助けを「職業」という側面を通してやっていきたい。その思いだけでしたね。たとえば医療の分野では、既存の医局制度では目標が達成できないドクターがいた。そうであれば、われわれがドクターにかわって医療機関などと交渉し、新しい道を開拓していきますよ、と「民間医局」のサービスを生みだしました。ドクターだけでなく、さまざまなプロフェッショナルの「志」を応援していきたいという気持ち、それがイノベーションといえばイノベーションにつながったのかもしれないですね。
最後に後進の若い皆さんに、メッセージをいただけますでしょうか。
私は会社を立ち上げる前のフリーランスの時から、「こんな世界をつくりたい」と理想を思い描いていました。ディレクター時代はそれを映像で表現することを考え、事業を起こしてからはビジネスを通して実現していくことに注力してきました。自分の目的をひたすら研ぎ澄ましていけば、それが仕事に向かう勇気やエネルギーになっていくと思います。「自分のビジネスでこれだけの人が豊かになるんだ」ということを実感できたら、それはものすごく励みになる。そして、また新たな情熱につながっていく。そういう経験ができれば、仕事の苦労は苦労ではなくなると思います。
社名 | 株式会社クリーク・アンド・リバー社 CREEK & RIVER Co., Ltd. |
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本社所在地 | 東京都千代田区麹町2丁目10番9号C&Rグループビル |
事業内容 | ・エージェンシー事業(エージェント業務、プロデュース業務、アウトソーシング業務、コンサルティング業務) ・教育事業 ・ライツ事業(著作権及びコンテンツの管理・流通業務) |
設立 | 1990年3月 |
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。