人は育てるのではなく、自ら成長するもの
人が育つ風土づくりを極め、さらなる飛躍のステージへ
株式会社日本能率協会マネジメントセンター 代表取締役社長
長谷川隆さん
能率手帳も“聖域”ではない――歴史と伝統の殻を破るために
JMAMは2013年秋、代名詞である手帳ブランド「能率手帳」を「NOLTY」へと変更しました。先ほど“第2創業”という話も出ましたが、1949年に発表された歴史あるブランドの刷新も、第2創業へ向けた変革の一環ということですか。
「強いものが生き残るのではなく、変化に対応したものだけが生き残れる」とよく言われますが、現代ほど、環境変化のスピードが速く、しかもそれに対応できるか否かで、優勝劣敗が大きく分かれる時代はかつてなかったでしょう。だとすれば、われわれも当然変わらなければいけない。そのためにまず、一番大事な部分から変えていこう、一番大きな石から動かそうと考えました。当社にとっては、それが「能率手帳」というブランドだったのです。「そこに手をつけてはいけないのではないか」という空気が、ありましたので。だからこそ“聖域なき改革”というか、ブランド一新で能率手帳の歴史と伝統の殻を破り、当社が本当に変わろうとしていることを社内外に示したかった。それが一番のねらいでした。能率手帳さえリブランディングしたのだから、自分たちも本気で変わっていかなければいけない。時代は想像以上に速く、激しく動いているんだと、社員はもちろん、弊社パートナーのみなさんにも実感してほしかったのです。
また、当社の調査では、能率手帳は認知度が高く、品質でも高い評価を得ていました。しかし実際に使うかどうかをたずねると、若い層からは「自分が使う手帳ではない」という答えが多く返ってくる。能率手帳の良さを認識しながら、実際の利用につながらないのは、ブランドの“歴史と伝統”がかえって阻害要因になっているからだと痛感しました。それも、大胆なリブランディングに踏み切った理由の一つです。
たしかに企業にとっては、歴史や伝統がときに変革の妨げとなることもあります。
強みでもあり、弱みでもあるというか、表裏一体なんです。たとえば、歴史がある分、当社はたくさんのお客様と長くお付き合いさせていただいていますが、そのこと自体が、自分たちを変えられない“言い訳”になりやすい。「うちは歴史があるんだから」とか「そこを変えたらお客様が……」とか、そういう言い方で変化やチャレンジを避けてしまうようなところがあるのです。そもそもお客様に恵まれているのは、先輩たちがその時々に努力してきたからであって、その資産でただ食いつないでいるだけでは、当社の未来はありません。さらに新しい資産を増やしていくためには、われわれはいまのお客様から本当に必要とされているのか、もしかすると日本能率協会グループやJMAMの存在価値は自分たちが思っているよりも劣化したり、陳腐化したりしているのではないかということを、たえず問い直し、勇気をもって、変革を進めていかなければならないのです。
もちろん、歴史と伝統に裏付けられた“看板”の価値は伊達ではありません。弊社から独立して講師やコンサルタントになった人たちに聞くと、「日本能率協会なんて古い看板だと思っていたけれど、それだけで食べていけるぐらいの力がある」と言いますから。外に出て初めて実感する強みなのでしょうが、いずれにせよ、それにあぐらをかいているようではいけません。当社は昨年、10年住み慣れた汐留を離れ、ここ日本橋に移転してきました。最新のタワービルに一番乗りで入居を決めたのも、移転を機に、いま一度えりを正して事業に取り組み、さらなる飛躍を目指したいという思いがあったからです。
東京・日本橋といえば、昔も今も商売の原点。ステータスは高いし、交通の便もいうことはありません。これほどいい場所でビジネスができるわけですから、ワンランク、いや、ツーランクは成長しなければいけない。身の引き締まる思いです。社員のモチベーション向上も期待しています。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。