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『日本の人事部』特別インタビュー 働き方改革の先にある「働きがい」向上とは

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「働き方改革」の旗印のもと、企業では残業削減や休暇の充実、リモートワークの推進など、さまざまな施策が進められるようになりました。それらの施策によって、従業員の「働きやすさ」の向上が期待されるところですが、時として、現場の実情や実態を無視した働き方改革に疑問を持つ人も少なくないのではないでしょうか。「働きがいのある会社ランキング」で知られるGreat Place to Work ® Institute Japan代表の岡元利奈子さんは、「働きやすさの向上は重要な課題だが、その目的が曖昧な状態で施策のみを推進すれば、従業員の『働きがい』を阻害してしまうこともある」と言います。「働きがい」を高めながら働き方改革を進めていくためには、何が必要なのか、岡元さんにお話をうかがいました。

Great Place to Work (R) Institute Japan 岡元利奈子さん プロフィールPhoto
Great Place to Work ® Institute Japan
株式会社働きがいのある会社研究所 代表
岡元 利奈子さん
おかもと・りなこ/人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)にて、人事コンサルタントとして人事制度設計や従業員意識調査などを行う。その後、海外現地法人のコンサルティングビジネスの立ち上げ支援などを経験し、2014年より現職。

働く時間が短くなれば社員は喜ぶのか?

昨今の時流に沿って、働き方改革を進めている企業は多いと思いますが、「働きがい」との関係をどのようにとらえていますか。

今や働き方改革は、企業にとって「必ずやらなければいけない」テーマになっています。多くの企業では何らかの施策を進めていて、実際に労働時間が減少したり、有給休暇取得率などの数値が改善したりするなど、成果も上がっているようです。しかし、中には形だけの取り組みになってしまっているケースや、施策そのものが目的化しているケースもあります。そのような状況が続けば、従業員の「働きがい」は下がってしまいますし、実際にそうした事例も報告されています。労働時間の削減や休日を増やすことだけではなく、従業員の「働きがい」を高めていくことこそが働き方改革の本来の目的ではないかと思います。

働きやすさは向上しているはずなのに「働きがい」は低下している、ということですね。なぜそのようなことが起きるのでしょうか。

ひとことで言うと、「働きやすさ」を高めることと「働きがい」を高めることは、似ているようで異なる概念であるからです。

このことを考える上で参考になるのが、アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した「二要因理論(動機付け理論)」です。従業員が仕事に満足を感じる要因を「動機付け要因」、逆に整っていないと不満につながる要因を「衛生要因」に分けています。「衛生要因」は、不満が解消されれば、それ以上に向上させたところで満足の向上につながるわけではない、という特性を持っています。「動機付け要因」に分類されるのは、仕事の達成感や責任範囲の拡大、能力向上や自己成長、チャレンジングな仕事などです。これらは、あればあるほどやる気やモチベーションにつながります。一方の「衛生要因」には、会社の方針や管理方法、労働環境、給与・時間・役職などの作業条件が含まれます。これらは従業員の不満を解消するために必要ですが、それ自体が必ずしも満足につながるわけではありません(図1参照)

図表1:「『働き方改革』と『働きがい』」Great Place to Workオフィシャルブログより

▲ 図1:『働き方改革』と『働きがい』

働きやすさを高めるための働き方改革で力を入れて進められているのは、労働時間の削減、休暇取得の促進、雇用や給与制度の整備など、「衛生要因」に関するものがほとんどです。もちろん一定レベルまで整えることは大切ですが、そればかりに手をうっても意味がありません。

「働きがい」を高めるためには「働きやすさ」を整えるだけでは不十分だということでしょうか。

その通りです。ただし、「動機付け要因」は目に見えにくく、手を打ちづらいのも事実です。特に従業員個人の達成感や自己成長の認識は数値化しにくい。しかし、本質的にはこれらを見据えながら働き方改革に取り組むことが必要だと思います。働く時間が短くなれば、それだけで社員は喜ぶかというと、必ずしもそうではありません。もし仮に、それによって仕事を通じた成長感や達成感までそがれてしまっては、「動機付け要因」は低下します。よって、簡単には目に見えにくい「動機付け要因」の現状を「見える化」することが必要なのです。私たちが提供している調査は、衛生要因と動機付け要因の両側面から見た「働きがい」の現状を「見える化」するためのものです。

「働きがい」を高めるために必要なアクションとは

Great Place to Work ® Institute Japanでは、「働きがいのある会社」をどのように定義しているのでしょうか。

私たちは、二つの視点から「働きがいのある会社」を定義しています。一つは従業員からの視点で、「従業員が会社や経営者、管理者を信頼し、自分の仕事に誇りを持ち、一緒に働いている人たちと連帯感を持てる会社」としています(図2参照)

図表2:「従業員からみた『働きがいのある会社』」Great Place to Workオフィシャルブログより

▲ 図2:従業員からみた『働きがいのある会社』

信頼を構成する要素の一つとして「尊敬」があります。これは「従業員がマネジメントを尊敬できているか」ではなく、「従業員が『上司や会社が自分を尊敬し、尊重してくれている』と感じられているか」を意味します。一般的な働き方改革の多くの施策は、ここで言う「尊敬」に含まれます。

もう一つはマネジメント(経営)からの視点で、「『信頼』に満ちた環境で、ひとつのチームや家族のように働きながら、個人の能力を最大に発揮して、組織目標を達成できる職場」であると定義しています。

そのような職場を作るために、マネジメント上で重要な場面や機会を、私たちは「9つのエリア」に分けて定めています(図3参照)

図表3:「マネジメントからみた『働きがいのある会社』」Great Place to Workオフィシャルブログより

▲ 図3:マネジメントからみた『働きがいのある会社』

私たちはこれらの定義に従い、従業員と会社の双方に対するアンケートなどを実施して、「働きがい」を評価しています。両側面から見ることで、「人事部門が注力している施策が全然響いていない」といった会社側の施策と従業員側の認識のギャップを把握することもできます。

「9つのエリア」にはどのようなものがありますか。また、具体的な取組例としてはどんなものがありますか。

例えば、経営者がビジョンや方針を丁寧に伝えていく「語りかける」や、従業員の声に耳を傾け、意見を吸い上げる「傾聴する」といったエリアがあります。

具体例を挙げると、2017年のランキングで上位に入っている大手企業の場合、年に何十回も、社長自ら各拠点に赴き、ビジョンや経営方針を直接社員に語りかける場を設けています。一方的な語りかけではなく、従業員が内容に納得感を得られるよう、毎回質問を募り、その一つひとつに答えています。このように、経営者が自ら丁寧なコミュニケーションを行っているのは、ランキング上位の企業に共通している特徴です。

会社としてのフィロソフィーや考え方がはっきりしていて、それが末端まで浸透していることは、マネジメントへの「信用」につながり、「働きがいのある会社」を目指す上で重要なポイントです。

ダイバーシティが進む時代に求められること

「働きがいのある会社」調査を行うことで、こうした具体的なアクションの必要性や方向性が見えてくるのでしょうか。

はい。私たちが提供する調査結果レポートでは、先ほどご説明した「働きがいのある会社の定義」にある「信頼」「誇り」「連帯感」の現状を把握できます。また、ベストカンパニーと呼ばれるランキングに入っている企業と比較して、自社のどのあたりに成長の機会があるのかも分析することができます。結果的にベストカンパニーになることができれば、社内外への大きなアピールにもなるでしょう。

Great Place to Work (R) Institute Japan 岡元利奈子さん

ただ、実際のところ私たちは、ランキングに載るかどうかは結果論であって、本質的な目的ではないとも考えています。従業員が「働きがい」を感じられるようになり、企業が持続的に成長し続けていくために何が必要かを考えることこそが重要だととらえているのです。

こうした調査・分析を積み重ねて、定点観測していくことも重要ですね。

そうですね。私たちは企業の取り組みの結果、組織のカルチャーとなって定着しているかどうかまで追いかけることが大切だと考えています。カルチャーとは、「組織共通の価値観に基づく行動様式」です。マネジメント側からの働きかけがなくても、望ましい行動様式が根付いている状態。ここまで持っていくために私たちは活動しています。

調査やサーベイの結果は、1年や2年で簡単に変わるものではありません。よくも悪くも、一度カルチャーができあがると簡単には変わっていかないのです。「働きがい」があるカルチャーを維持・創造していくことは、企業経営にとって大きなプラスとなって働くはずです。

Great Place to Work ® は世界約50ヵ国での調査を行っているそうですが、日本企業と海外企業を比べると、どのような特徴があるのでしょうか。

調査結果のポイント全体を見ると、日本企業は相対的に低いという現状があります。その中でも特に気になるのは、経営や管理者層への「信用」に関するポイントが低い点です。

考えられることとしては、経営者や中間管理職が組織のビジョンを語り、メンバーをまとめていくことに慣れていない、という側面があるのではないでしょうか。日本は単一民族の男性正社員を中心として、発展を続けてきた歴史があります。経営や管理者が細かく指示しなくても、組織を動かすことができました。その点は、多民族国家で多様な人材をまとめ上げるためにビジョンやミッションを浸透させてきた外資系企業に比べると、弱みだと言えるかもしれませんね。実際に日本企業の現場でビジョンの重要性がこれほど語られるようになったのは、ここ十数年のように思います。

日本の生産年齢人口は、低下の一途にあります。それに伴って、女性やシニア、外国人労働者などはますます増え、ダイバーシティがさらに進んでいくでしょう。私たちはそれに合わせて、マネジメントレベルも進化させていく必要があります。経営者が自社の文化や風土を明らかにし、ビジョンや価値観を伝えていくことで、組織を一つにまとめていく努力をしなければ、従業員の「働きがい」は高まりにくくなると言えます。特にグローバル規模で勝負しようと考えている企業は、「働きがい」を高めることに注力すべきだと思います。

最後に、働き方改革や「働きがい」を高めることに対して課題を感じている人事担当者へメッセージをいただけますか。

働き方改革そのものを目的とすることや、「衛生要因」だけに目を向けるのではなく、「働き方改革をなぜ進めるのか」「従業員には何を期待するのか」「会社は何を実現したいのか」といった働き方改革の先を見据えて、もう一度自社なりの考え方を整理することが重要です。

また、会社の目指す方向性を明らかにした上で、「働きがい」にもつながる働き方改革を進めていくには、自社の状態を客観的にとらえることができる調査を行うことも有効な手段です。

なお、調査を実施する際は、「実行後のフィードバック」や「成果の見える化」も欠かせません。さまざまな調整を経て新たな調査を導入しても、詳細な分析結果や次の打ち手が見えてこなければ意味がないからです。

従来はなかなか見ることができなかった「働きがい」という指標を意識することで、働き方改革はより実効性を持った取り組みとして機能していくはずです。

Great Place to Work (R) Institute Japan 岡元利奈子さん
協賛企業
Great Place to Work ® Institute Japanは、株式会社働きがいのある会社研究所がGreat Place to Work ® Instituteよりライセンスを受け運営している調査機関です。
※Great Place to Work ® は、「働きがい」に関する調査・分析を行い、一定の水準に達していると認められた会社や組織を各国の有力なメディアで発表する活動を世界約50カ国で実施している専門機関です。

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