アクティブラーニング
アクティブラーニングとは?
多様な価値観への対応、イノベーションを創出しやすい組織風土の構築など、企業が求める人材・組織のあり方は変化しつつあり、人材開発・育成の重要性が増しています。そうした中で、近年注目を浴びているのがアクティブラーニング。講師から受講者に向けて一方向的に指導する講義や研修の形式ではなく、受講者が積極的に参加し、主体となって学ぶ学習法です。
1.アクティブラーニングとは
アクティブラーニングとは、能動的に取り組む学習方法のことをいいます。従来からある、講師から受講者に向けて一方向的に指導する講義や研修の形式ではなく、受講者が積極的に参加し、主体となって学ぶ学習法の総称です。
もともとはアメリカの大学で始まった学習法で、その後、日本の大学でも取り入れられ、小・中・高校へと広がりました。現在では、人材育成のために企業研修で採用されることも増えています。
2012年8月の中央教育審議会(文部科学省)第82回総会では、アクティブラーニングが「認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る」ものと位置づけられました。さらに文部科学省はアクティブラーニングの意義として、「主体的・協同的に問題発見や解決の経験をすることで思考力・判断力・表現力が磨かれていく」ことを挙げています。
これらの能力の習得は、たんに知識を身につけるものとは一線を画します。アクティブラーニングはまさに企業が求める、柔軟な対応力を持つ人材の育成を期待できる学習法といえます。
2.アクティブラーニング導入の背景
アクティブラーニングが日本の教育現場や企業に導入された理由の一つとして、社会の変化に対応できる人材の創出が強く求められるようになったことが挙げられます。
高度成長期の大量生産の時代では標準化が一つの指標となっており、指示通りに業務を遂行できる人材が求められました。しかし、グローバル化が進んだ現代においては、決められた業務をこなすだけでは競争力を維持できません。また、情報化社会を生き抜くには自ら情報収集を行い、課題発見・解決する力も必要です。
このように、多様化する社会に対応できる思考力や判断力を持つ人材の必要性が認識され、アクティブラーニングが多くの教育現場、企業で取り入れられるようになりました。
3.企業におけるアクティブラーニングの有効性
アクティブラーニングが能動的な学習法といわれるのは、主体的に学ぼうとする姿勢を引き出すことをもっとも重視しているからです。そのため、子どもから社会人まで、アクティブラーニングにより多くの効果を得ることができます。
企業において期待される効果は、主に以下のものが挙げられます。
- 必要な情報を自分で選んで判断し、実際に行動する能力が身につく
- 問題の本質を捉え、解決に向けて考える力が身につく
- 自分の考えを相手に伝えることができるようになる
- 相手の意見を傾聴し、自分で考え、周りの人と協力する力が身につく
- 情報をわかりやすくまとめて発表することができる
- リーダーシップが身につく
いずれの力も現代社会を生き抜いていくために、必要不可欠なものといえます。
4.アクティブラーニングを取り入れるメリット
現在、企業に属する社会人の多くは、研修といえば受け身の形式で知識を積み上げる学習法に慣れています。アクティブラーニングを企業研修に取り入れることで、新たな気づきや思考方法を得られることが期待できます。
企業が享受できるメリットには、大きく分けて人材開発面と組織面の二つが挙げられます。
人材開発におけるメリット
(1)不測の事態への対応力
ビジネスでは、仕事を任せていた人が突然欠勤したり急な仕事が入ったりと、予測していなかったことが起きる場面が少なくありません。
アクティブラーニングでは、必要な情報を自分で判断・選択し、実際に行動に移すために必要なスキルを磨くことができます。不測の事態に遭遇しても、自分で考え乗り切れる人材育成を目指すことが可能です。
ここで大事なのは、ビジネスにおける不測の事態は、あらゆる階層の従業員に起こり得ることです。そのため、できるだけ多くの従業員が研修を受けられる体制をとっておくことが重要です。
(2)既存の型にとらわれない思考
新しい価値を創造できるかどうかは、企業が生き残っていくための重要なファクトになっています。しかし、イノベーションを創出するには、従来と同じ思考方法を繰り返すだけでは限界があります。
アクティブラーニングの研修では自分で問題点を考えて解決する思考方法を磨くため、既存のフレームワークに依存しない発想力を育てることができます。新規事業の開発はもとより、停滞している事業の再建などにもこうしたスキルが役立ちます。
優れた発想力や判断力を有する人材を新たに採用することは容易ではありません。研修を通じて人材開発をするメリットは大きいといえるでしょう。
(3)コミュニケーション能力
ビジネスで必要となるスキルは数多くありますが、多くの事業で基本となるのはコミュニケーション能力です。顧客とのコミュニケーションはもちろん、社内でのやり取りにおいても重要となるスキルです。
コミュニケーション能力は、研修や努力によって高めることが可能です。アクティブラーニングでは、相手の話を傾聴する、よく考える、周りの人と協力すると言ったステップでコミュニケーション能力を磨いていきます。
組織的なメリット
(1)マネジメント力の向上
アクティブラーニングは、優れたリーダーシップを持つ人材を育てます。
判断の自発化・スピード化によって円滑なマネジメントが行われるようになれば、企業の成長につながります。また、会議を短くして費用対効果を高める、プロジェクトを迅速に進めることができるなど、利益に直結するメリットも期待されます。
(2)部署間の連携
横断プロジェクトのスムーズ化など、部署間連携は課題の一つに挙げられることが多くあります。アクティブラーニングの研修は、他部署同士のコミュニケーション機会を創出するため、部署間の隔たりをなくすうえでも有効に働きます。
個々のコミュニケーションスキルを磨くだけでなく、部署間の活発な交流により、共通の目標に向かう一体感を生み出すメリットを期待できます。
5.アクティブラーニングの実践方法
学習法といっても、アクティブラーニングにはとくに定められた方法はありません。企業の研修でアクティブラーニングを取り入れる際は、従業員の階層や業務内容などに合わせて目的を明確にしたうえで、有効な方法を選択する必要があります。
また、研修を受ける従業員には、主体的に学ぼうとする姿勢や、考えの異なる人とも積極的に議論しながら問題を解決するスタンスで臨むよう指導が必要です。
代表的なメソッドを二つ紹介します。
フィールドメソッド
フィールドメソッドは、主に屋外で行うアクティブラーニングの方法です。現場に出向き、体験と発見を通して課題を解決する力を養います。
たとえば、実際の店舗に出向いて消費者の行動を観察し、問題点は何か、解決するにはどうしたらよいかなどを考えます。フィールドメソッドには、主に次のようなものがあります。
- 発見学習(研修)
自らの発見によって習熟できるように導いていく方法 - 問題解決学習(研修)
自ら問題点を発見し、解決できるようにする方法 - 体験学習(研修)
ボランティアや異なる職場・部署などでの体験を通して習熟していく方法 - 調査学習(研修)
さまざまなことを自ら調査し、課題発見から解決までのプロセスを考えさせる方法
ケースメソッド
ケースメソッドは、主に屋内で行うアクティブラーニングの方法です。研修資料をもとに、自分で考え判断する力を養います。たとえば、研修を受けるメンバーに課題を与え、意見を出し合って解決方法を考えていきます。ケースメソッドの方法には、主に次のようなものがあります。
- グループ・ディスカッション
研修を受ける者同士で討論をさせて、結論を出す方法 - ディベート
研修を受ける者が肯定側・否定側に分かれて討議し、課題の解決策を考える方法 - グループ・ワーク
研修を受ける者同士がグループになって調査や討論、作業を行い、課題の解決策を考える方法
6.アクティブラーニング導入時の課題
アクティブラーニングは、企業にとってさまざまなメリットが期待される学習法です。一方で、アクティブラーニングの歴史はまだ浅く、いくつかの問題点が存在します。多くの場合、学習法そのものではなく、導入する際の体制に課題が生じています。
目的が曖昧になりやすい
導入時に起こりやすい課題として、研修目的が明確に示されていないケースが挙げられます。アクティブラーニングでは、受講者の主体的な取り組みと学ぶ姿勢が重視されます。しかし、目的やゴールが不明瞭なままでは、能動的に何を学ぶべきかというもっとも重要なポイントが抜け落ちてしまいます。
アクティブラーニングの主役はあくまで受講者ですが、講師は受講者をしっかり導く必要があります。研修に必要な基礎知識の指導を行いながら、効果的に学べる場となるように誘導することが大切です。
また、研修を重ねるうちに、アクティブラーニングを行うこと自体が目的化してしまい、本来の意味での人材開発の意識が薄れてしまうケースもあります。アクティブラーニングで学んだことがどのようなことに生かされているのか、研修効果の測定やフィードバックの仕組みを整えておくことも大切です。
講師に高いスキルが求められる
アクティブラーニングは定期的に行うことで、その有効性を発揮します。しかし、アクティブラーニングの講師には、ファシリテーションスキルやコーチングスキルが必要になるほか、研修内容によっては専門的な知識を要する場合があります。
講師は外部に依頼する方法と、自社の社員から募るケースがあります。社内から選出された講師には、トレーニングを行うなどして、事前に必要なスキルを身につけておくことが求められます。
主体性が低い受講者がいる
アクティブラーニングでは、受講者が主体的に参加しなければ期待された効果を得ることができません。参加意欲が低いなど、モチベーションに課題がある受講者がいる場合は、講師や運営側が積極的に働きかけることが必要となります。事前に研修目的と意義を説明し、十分な理解を得ておくなどの工夫も必要です。
7.アクティブラーニングで得られる三つの力
変化の激しいビジネス環境下では、指示を待つのではなく自ら考え行動できる、さらに他者と協同して成果を出せる人材が必要不可欠です。
アクティブラーニングで得られる力は、大きく三つのステージに分けることができます。
- 知識を身につけ課題を発見する力
- 思考力・判断力を身につけ課題を解決する力
- コミュニケーション力を身につけ協同して成果を出す力
このように、アクティブラーニングは、実践に役立つ本質的な力を磨く学習法と捉えることができます。人材開発に求められる要件が高まるなか、今後さらに注目を集めていく手法といえるでしょう。
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