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【ヨミ】プランドハップンスタンス プランド・ハップンスタンス

プランド・ハップンスタンス(Planned Happenstance)は、日本語で「意図された偶然」や「計画された偶発性理論」と訳される、比較的新しいキャリア論です。

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1.プランド・ハップンスタンスとは

プランド・ハップンスタンスの概要

プランド・ハップンスタンスは、20世紀末にスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提唱した理論で、これまでになかった偶発性とキャリア形成の関係を示すものとして注目を集めました。プランド・ハップンスタンス理論のポイントは、以下の三つです。

  • 変化の激しい現代において、キャリアの8割は偶然の出来事によって形成される
  • 偶然の出来事を利用して、キャリア形成に役立てる
  • 自ら偶然の出来事を引き寄せるよう働きかけ、積極的にキャリア形成の機会を創出する

エンジニアの例を挙げて説明しましょう。これまで学んできた技術が使えないプロジェクトに参加することになり、必要に迫られて新しい技術を覚えたというエンジニアは意外に多くいます。ところが、これがきっかけとなり、予想していなかった方向にキャリア転換でき、成功したといった例も多く存在します。

めまぐるしく変化する時代において、当初計画していたキャリアステップとは異なる方向に進んだというケースは珍しくありません。これを意図的にキャリア形成に活かしていこうとするのが、プランド・ハップンスタンス理論の考え方です。

プランド・ハップンスタンスが生まれた背景

それまでのキャリア論では、目指すゴールを定めてキャリアステップを具体化し、それに向けて経験を積み重ねていく、という考え方が主流でした。しかし、クランボルツ教授らが米国・社会人に行った調査によると、18歳時点でなりたいと思っていた職業についた人の割合は、わずか2%であることがわかりました。これは、自分自身で計画し実行するという従来のキャリア論の限界を示すものであると、クランボルツ教授は語っています。

変化の激しい現代においては、予期していなかった事態に対応しなければならない状況が多く発生します。自分の描いた計画通りに進まないことも多いでしょう。そうした中、変化への対応を前提とするプランド・ハップンスタンス理論が注目を集めるようになっているのです。

2.キャリア・アンカー理論の限界とプランド・ハップンスタンスの可能性

キャリア・アンカー理論とは

キャリア形成における考え方としてよく知られているのが、キャリア・アンカー理論です。1978年に米国のエドガー・H・シャイン博士が提唱したもので、キャリアを選択する際の意思決定における概念を示しています。

キャリア・アンカー理論では、どうしても譲れない価値観や欲求を船のアンカー(いかり)に例え、生涯にわたってキャリア選択に大きな影響を与えるものとしています。以下の八つに分類されています。

  1. 経営管理コンピタンス:経営にコミットし、責任ある立場になりたい
  2. 専門コンピタンス:自分の専門分野を極めたい
  3. 自律:安定した環境で落ち着いてじっくり取り組みたい
  4. 創造性:新しいものを産み出したい、創造性を発揮したい
  5. 安定:マイペースでいたい、自分のペースを乱されたくない
  6. 社会への貢献:自分の仕事を通して社会に貢献したい
  7. チャレンジ:自分の限界を超えたい、新しいことをどんどん試したい
  8. 全体性と調和:ワーク・ライフ・バランスの取れた状態にしたい

これらの価値観・欲求は職種や環境にかかわらず、キャリアを選択するときの指針となるものです。自身の「核」となる価値観や欲求を知り、キャリアプランに生かそうというのがキャリア・アンカーの考え方です。また、企業にとっても社員のキャリア・アンカーを知ることで、より効果的な適材適所の配置が可能になります。

キャリア・アンカー理論の限界

自分自身の核となる価値観や欲求に沿ってキャリアプランを描くキャリア・アンカーという考え方には、適性を活かせるというメリットがあります。しかし一方で、変化への対応力が求められるビジネス環境においては、自身の価値観を軸においたキャリアプランが非現実的なものになる状況に多く遭遇します。

例えば、社内の組織改革が行われ、これまでとは違った仕事や望んでいないポジションに就かなくてはならないケースもあるでしょう。このときに自分の欲求には合わないからと避けてしまうと、可能性を狭めてしまう可能性があります。

このように、状況によってはキャリア・アンカー理論がマイナスに働くことがあります。また、価値観や欲求に固執しすぎてしまうと、行動や考えが硬直化してしまうことも懸念されます。これを補うものとしてプランド・ハップンスタンスへの期待が高まっていると考えられます。

プランド・ハップンスタンスが提示するキャリア形成

不確実性の高いビジネス環境においてキャリアを形成するには、どのような行動が求められるのでしょうか。プランド・ハップンスタンスでは、偶発性を受け入れると同時に、自ら偶然の出来事を引き寄せるアプローチが重要としています。実践ポイントとして、次の五つの行動指針が挙げられています。

  1. 好奇心
    興味関心のある分野にとどまらず、普段から視野を広げるよう努めること。アンテナを鋭敏にしておくことで、新しいことに挑戦したい意欲が湧くこともあります。
  2. 持続性
    失敗してもあきらめず向き合うこと。困難を避けたり苦手意識を持ったりすると、その先にある可能性が閉ざされてしまうことがあります。
  3. 柔軟性
    こだわりや理想にとらわれて、行動や思考を狭めないこと。常にフレキシブルな姿勢で臨機応変な対応を心がけます。
  4. 楽観性
    失敗や困難もポジティブに捉えること。何が起きても良い方向に行くと信じる態度は、自分自身をプラスの方向に運びます。
  5. 冒険心
    リスクを恐れず行動すること。不確実性の高い環境において失敗はつきものです。ある程度のリスクは引き受ける心構えが大切です。

プランド・ハップンスタンスで重要なのは、偶然の出来事や出会いをキャリアアップにつながる機会と捉えること。計画通りのキャリアステップでなかったとしても、まずは挑戦してみようというスタンスが次の扉を開くことがあります。偶然の機会を積極的に増やすよう行動することで、キャリアが広がっていく可能性が高まることをプランド・ハップンスタンスは示しています。

プランド・ハップンスタンスのケーススタディ

プランド・ハップンスタンス理論の提唱者であるクランボルツ教授自身のケースです。クランボルツ教授が心理学の教授になったのは、まったくの偶然だったといいます。大学時代、テニスに明け暮れていた彼は、進路を決めかねてテニス部の顧問をしていた教授に相談します。この教授が心理学者だったことがきっかけで、彼は心理学を専攻することに決めます。つまり、現在のクランボルツ教授があるのは、この偶然の出会いが始まりだったわけです。

振り返ってみると、人生に大きな影響を与えた偶然の出会いがあったという人は多いでしょう。しかし同時に、気づかずにやり過ごしてしまっている出会いや機会もあるといえます。例えば、膨大な情報の中でも、興味関心がある分野の情報には自然に目が留まります。同じように、普段からさまざまな分野に視野を広げていれば、偶然の出来事をキャッチする機会を増やすことができるでしょう。

偶然を好機につなげるには、未知の領域に臆せず、好奇心を持って向き合う姿勢が必要であることを示す事例です。

3.日本企業におけるプランド・ハップンスタンスの有用性

プランド・ハップンスタンスを活用するために

日本企業では、社員自身がキャリアデザインを描き、会社はそれをサポートするというスタンスをとっているところが増えています。しかし実際には、職務やポジションを決めるのは会社側であり、社員が望む通りに進むわけではありません。

変化に対応するべく組織変革を行う企業も多い中、キャリア・アンカーに重点を置いた人材育成や配置では、組織ニーズへの対応が難しいという現状があります。こうしたビジネス環境においては、偶発性を活かすプランド・ハップンスタンスの考え方は有効に働くと考えられます。

例えば、本人が希望していない部署に配属した場合、モチベーションを維持するのは困難です。しかし、その時点では不本意でも、キャリア形成に役立つという説明ができれば納得感を醸成することができるでしょう。

社員の立場から見た場合は、自分の価値観や欲求を満たすキャリア設計と、組織ニーズに対応しなければならないという2軸の中で困難にぶつかります。プランド・ハップンスタンスの考え方や行動を取り入れれば、新たなキャリアを拓くチャンスが生まれるというメリットを享受できます。

つまり、企業にとっても社員にとっても、適性によるキャリア形成と偶発性を活かすキャリア展開の双方を必要に応じて使い分けていくことが重要になってくると考えられます。

企業がプランド・ハップンスタンスを取り入れる上で重要なのは、社員の意識改革です。キャリアの方向性を定めるのは重要ですが、描いたキャリアステップと現実とのギャップにとらわれないことが大切です。まずは挑戦してみるというオープンマインドが、キャリアアップの機会を創出することを理解してもらうようにする必要があります。

プランド・ハップンスタンスは、変化の激しいビジネス環境でのキャリア形成を、ポジティブなものへと転換させるキャリア論です。組織の活性化や社員の能力・モチベーション向上に活かしてください。

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