時季指定権
時季指定権とは?
「時季指定権」とは、労働者が年次有給休暇をいつ取得するか、その時季を指定できる権利のことです。日本では労働基準法に基づき、従業員に時季指定権が付与されています。したがって従業員が本権利を行使して年次有給休暇を請求する場合、使用者は原則として従業員の指定する時季に有給休暇を与えなければなりません。ただし指定された時季に休暇を与えると、事業の正常な運営が妨げられる場合に限っては、使用者に従業員の有給休暇取得の時季を変更できる権利が認められています。これを「時季変更権」といいます。
社員から申し出るしくみでは休みにくい
ヨーロッパでは企業が有給休暇の取得日を指定
日本では法律上、労働者が休みたい日に年次有給休暇を取ることが認められています。休暇を取る時季を決められる「時季指定権」が、原則として企業側ではなく、労働者側に与えられているためですが、実際の職場は誰もが休みたい日に休めるような柔軟な環境ではないのが現実です。
厚生労働省『就労条件総合調査』によると、日本人の有給休暇の取得日数は2012年時点で平均8.6日。有給休暇の付与日数が平均で18.3日ですから、取得率は50%にも達していません。有給取得率は1980年代末から90年代にかけて50~60%程度で推移していましたが、2000年代に入るとさらに低下し、近年は50%を下回る状況が続いています。いくら時季指定権が労働者にあっても、権利を行使する以前に、休暇そのものが取れないのでは絵に描いた餅といわざるを得ないでしょう。
対照的に欧米、特にヨーロッパ諸国では、有給休暇をフルに取得するのが当たり前。企業に勤める労働者にとって、長期のバカンスは毎年の恒例行事となっています。ところが彼らは、時季指定権をもっていません。ヨーロッパの場合、じつは企業側に時季指定権があるのです。ヨーロッパの企業では、従業員の誰がいつ長期休暇を取得するかを年初に決めておくのが慣例になっていて、その際、休暇が特定の時期に重ならないよう、企業側に取得時季を従業員に指定できる権利が認められています。これに基づき、労使で協議・調整しながら、あらかじめ各社員の休暇スケジュールを決定。バックアップ体制も事前に整備できるので、予定の時季がくれば、労働者は当然の権利として長いバカンスを楽しむことができるわけです。
一方、時季指定権が労働者側にあり、社員から有給休暇の取得を申し出る日本の現行のしくみでは、かえって職場への遠慮が働き、休みをとりにくい雰囲気が醸成されやすいといわれます。厚生労働省の『労働時間等の設定の改善の促進を通じた仕事と生活の調和に関する意識調査』では、働く人の約66%が有給休暇を取得する際にためらいを感じています。その理由の最多は「みんなに迷惑がかかるから」(71.6%)、「職場の雰囲気で取得しづらい」という回答も3割強に上りました。
こうした中、厚生労働省は企業に対して社員の有給休暇の消化を義務づける一方、時季の指定については企業側ができるよう、労基法改正の検討を進めています。社員の希望も踏まえ、数日分の有給休暇の取得日を企業側から指定するというしくみで、同省では、来年1月召集の通常国会に提出する労基法改正案に盛り込み、早ければ16年春施行を目指す方針です。時季指定権を一部移行し、使用者の権利と責任において休暇を指定する改革が、働く人の職場への遠慮を払しょくし、日本人の有給休暇の取得率向上につながるかどうか――。今後の議論の行方が注目されます。
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