労働者派遣法
労働者派遣法とは?
「労働者派遣法」は、労働力の適正な調整を図り、労働者派遣事業の適正な運営を確保することを目的に、派遣労働者の就業条件の整備や派遣先の労働現場における権利などを定めた法律です。1986年に施行され、世の中の情勢から何度も改正が行われましたが、近年では派遣労働者の保護と雇用の安定、キャリア形成などに重きを置いた法改正が行われています。
- 1.労働者派遣法の歴史と近年の動向
- 1986年:人材派遣に対する社会的なニーズが高まる中「労働者派遣法」が初めて施行される
- 1996年:規制緩和により、専門性の高い業務を中心に、適用対象業務が16業務から26業務へと拡大
- 1999年:対象業務が原則自由化となる(ネガティブリスト化)
- 2000年:「紹介予定派遣」が解禁となる
- 2004年:製造業務への労働者派遣が解禁となる
- 2006年:医療関係の一部で派遣が解禁となる
- 2007年:製造業務の派遣受入期間が、最長3年へと延長される
- 2008年:リーマンショック後、「派遣切り」「年越し派遣村」などが社会問題となり、「日雇派遣指針」が制定
- 2012年:規制緩和から規制強化へ。派遣労働者の「権利保護」を目的とした法改正が施行される
- 2015年:派遣元・派遣先が講じる措置を拡充。正社員化に向けた「3年ルール・2018年問題」が注目される
- 2020年(予定):待遇差を解消するための「同一労働同一賃金」が求められることに
- 2.労働者派遣における対応実務
- 3.近年の法改正に伴う派遣元企業の対応実務
- 4.労働者派遣の留意点
- 5.課題と今後の展開
1.労働者派遣法の歴史と近年の動向
まずは、労働者派遣法の歴史を見てみましょう。労働者派遣法は派遣に対するニーズや評価に合わせて、さまざまな改正が行われてきました。
1986年 | ・「労働者派遣法」が施行される。専門知識等を必要とする13業務が対象、派遣受入期間は1年間 ・施行後、政令で定める3業務が追加され、16業務となる(対象業務を指定するポジティブリスト化) |
1996年 | ・行政の規制緩和により、正社員に代替できない専門性の高い業務を中心に適用対象業務が16業務から26業務へと拡大 |
1999年 | ・対象業務の原則自由化(禁止業務のみを指定するネガティブリスト化) ・派遣期間は専門業務3年、自由化業務2年 |
2000年 | ・「紹介予定派遣」が解禁 |
2004年 | ・製造業務への労働者派遣が解禁 ・派遣受入期間の上限が、最大3年まで延長 ・派遣労働者への労働契約の申し込み義務が創設 |
2006年 | ・医療関係業務の一部で派遣解禁 |
2007年 | ・製造業務の派遣受入期間が延長(原則1年から最長3年) |
2008年 | ・「派遣切り」「年越し派遣村」などが社会問題となり、「日雇派遣指針」が制定 |
2012年 | ・規制強化のため、労働者派遣法が改正。日雇派遣の原則禁止、グループ派遣の禁止、離職者の規制、派遣労働者の保護・待遇改善強化(無期雇用への転換推進措置の努力義務化等)などが制定 |
2015年 | ・派遣事業の適切な運営のため、特定労働者派遣事業(届出制)と一般労働者派遣事業(許可制)の区別を廃止し、全ての労働者派遣事業を許可制に ・派遣元に、派遣労働者の雇用安定とキャリアアップを義務付け ・26業務を廃止し「事業所単位」「個人単位」で期間制限をする制度への変更。全ての業務で派遣期間が原則上限3年間に(正社員化に向けた3年ルール→派遣社員の雇止めによる2018年問題) ・派遣労働者と派遣先の労働者の均衡待遇確保のための措置を強化。義務違反に対しては、許可の取り消しを含めて厳しく指導 ・労働契約申込みみなし制度の導入 |
2020年 (予定) |
・「派遣労働者の同一労働同一賃金」により、派遣先に雇用される通常の労働者との不合理な待遇差の解消を目指す ・「派遣先均等・均衡方式」「労使協定方式」により、派遣労働者の待遇確保を義務化 ・派遣労働者への待遇に関する説明義務の強化 ・派遣労働者に関するトラブルの早期解決を図るため、裁判外紛争解決手続き(行政ADR)の規定の整備 |
1986年:人材派遣に対する社会的なニーズが高まる中「労働者派遣法」が初めて施行される
人材派遣とは、派遣元企業で雇用している労働者を求めに応じて他社(派遣先企業)に派遣し、そこでの指揮命令の下、働かせる形態です。しかし、もともとは事業として自由に行われるものではありませんでした。「職業安定法第44条」において、「労働者供給」という禁止事業の中に人材派遣は含まれていたのです。しかし高度成長期後の経済社会の成熟とともに、失業者に対する就業機会の増化への期待、多様な人材を活用したい企業の要望など、人材派遣に対するニーズが高まっていき、1985年に労働者派遣法が成立、翌年に施行されることになりました。
同法が施行される前には、マンパワー・ジャパンやテンプスタッフ(現パーソルテンプスタッフ)など、大手人材派遣会社が「業務請負」という形で人材派遣に似たサービスを行っていました。1980年代に入ると、そういったサービスが一定の評価を得たこともあって、禁止事業であった人材派遣を「合法化」して適切な管理を行ったほうが労働者保護につながるという考え方が主流となり、労働者派遣法が成立したのです。
ただしこのときは、専門的な13業務に限って派遣を認めるという限定的な内容でした。その後、機械設計などを加えて16業務となりましたが、それでも限られた専門業務に止まっていました(対象業務のみを指定するポジティブリスト化)。しかし、これでは業務請負時代からニーズの高かったオフィスでの一般事務が派遣できないため、折衷案として一般事務をファイリングや事務用機器操作(OA事務)といった専門業務として派遣する、といった手法が取られていました。
当初対象となった13業務 | ソフトウエア開発、事務用機器操作、通訳・翻訳・速記、秘書、ファイリング、調査、財務処理、取引文書作成、デモンストレーション、添乗、案内・受付・駐車場管理など、建築物清掃、建設設備運転・点検・整備 |
追加された3業務 | 機械設計、放送機器等操作、放送番組など演出 |
1996年:規制緩和により、専門性の高い業務を中心に、適用対象業務が16業務から26業務へと拡大
その後、バブル景気の影響もあり、人材派遣市場は順調に伸びていきましたが、1990年代に入るとバブル経済が崩壊。日本経済は低成長期に入ります。すると産業界から、固定費である直接雇用(正社員)の人件費を変動費である人材派遣に置き換えようとする動きが出てきました。また、規制緩和によって民間企業の活力を引き出そうという政府の基本方針もあり、1996年には専門性の高い業務を中心に、適用対象業務が16業務から26業務へと拡大されました。
追加された10業務 | 研究開発、事業の実施体制の企画・立案、書籍などの制作・編集、広告デザイン、インテリアコーディネーター、アナウンサー、OAインストラクション、セールスエンジニアの営業、放送番組などにおける大道具・小道具、テレマーケティングの営業 |
1999年:対象業務が原則自由化となる(ネガティブリスト化)
規制緩和の波はさらに強く押し寄せ、適用対象業務の原則自由化(禁止業務のみを指定するネガティブリスト化)が実現。一方で、建設、港湾運送、警備、医療、物の製造業務が禁止業務とされます。また、新たに対象となった26業務以外の業務(自由化業務)については、派遣受入期間が「上限1年」に制限されます(専門業務は上限3年)。いずにしても人材派遣業界に追い風が吹いたのは確か。これらの措置により、企業の人材派遣に対するニーズは大きく拡大し、人材派遣業者が大きく増えていくことになります。
2000年:「紹介予定派遣」が解禁となる
許可基準の改正により、「紹介予定派遣」が解禁されました。「紹介予定派遣」とは、派遣契約期間が終了した時点で、派遣労働者が「この会社で働きたい」、派遣先企業が「この人に働いてもらいたい」と相互に思いが一致した場合、直接雇用へと切り替えるシステム。「紹介予定派遣」では、お互いに見極めるための一定期間があるので、採用ミスマッチを防ぐことが期待されます。
2004年:製造業務への労働者派遣が解禁となる
以前からニーズの高かった、製造現場への派遣が解禁されました。雇用形態の多様化が進み、人材派遣をはじめとした外部人材の調達が経営戦略に組み込まれるなど、経営側の要請に対応した形で、労働者派遣が進展していきます。
2006年:医療関係の一部で派遣が解禁となる
原則禁止されていた医療関係業務への派遣が、医師の確保が困難な離島や過疎地域などの医師不足の解消と、医療従事者の仕事と家庭の両立支援の観点から、解禁されました。
2007年:製造業務の派遣受入期間が、最長3年へと延長される
2004年に解禁された製造業務への人材派遣は、派遣期間について最長1年間という制限がありましたが、現場からのニーズから、2007年から最長3年と延長されました。
2008年:リーマンショック後、「派遣切り」「年越し派遣村」などが社会問題となり、「日雇派遣指針」が制定
2008年のリーマンショックにより、人材派遣業界を取り巻く状況が一変。製造業を中心に派遣切り、雇止めなどが大きくマスメディアなどで報道され、社会問題化する現象を巻き起こしました。ワーキングプアが喧伝され、このような事態を招いたことの一因に人材派遣という働き方があるのではという議論が起こり、それまでの規制緩和の流れがストップ。その結果、「日雇派遣指針」が制定されることになりました。同指針では、日々、または30日以内の期間を定めて派遣元に雇用される者に対して、派遣元と派遣先は、労働者派遣契約を締結する前に互いに就業条件をよく確認すること、協力して雇用契約期間を長くすることなどを定めています。
2012年:規制緩和から規制強化へ。派遣労働者の「権利保護」を目的とした法改正が施行される
2012年に施行された改正派遣法では、日雇い派遣の原則禁止、専ら派遣の規制強化、離職後1年以内の人材を派遣スタッフとして元の職場で働かせることの禁止など、それまでの規制緩和から一転して、規制を強化する流れに転化しました。法律の正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」と変更され、派遣労働者の「権利保護」を目的とした法改正が行われることになりました。
大きな特徴として、派遣先企業の社員との賃金面など、均衡に向けた配慮が求められたことが挙げられます。派遣労働者の賃金を決定する際、派遣先企業で同種の仕事に従事する社員の水準や、経権労働者の職務の内容、成果、意欲、能力、経験などが配慮されることになりました。さらに、教育訓練や福利厚生についても、均等待遇を図ることを求めています。そして、有期雇用から無期雇用へ転換する機会の提供。本人の希望に応じて、派遣会社は有期雇用の派遣労働者の希望に添えるよう、努力する義務が課せられることになりました。
2015年:派遣元・派遣先が講じる措置を拡充。正社員化に向けた「3年ルール・2018年問題」が注目される
2015年に改正された労働者派遣法のポイントは、大きく四つあります。
一つ目は「特定労働者派遣事業(届出制)と一般労働者派遣事業(許可制)の区別を廃止し、全ての労働者派遣事業を許可制とする」としたこと。派遣事業の健全化を目指し「許可制」としたわけです。
二つ目は「派遣労働者の雇用安定とキャリアアップ」。派遣会社に対して、「派遣労働者に対する計画的な教育訓練や、希望者へのキャリア・コンサルティングを派遣元に義務付け」「派遣期間終了時の派遣労働者の雇用安定措置(雇用を継続するための措置)を派遣元に義務付け(3年経過時は義務、1年以上3年未満は努力義務)」を求めています。
三つ目は「派遣期間規制の見直し」。それまでは専門業務等のいわゆる「26業務」には期間制限がかからず、その他の業務には最長3年の期間制限がかかっていましたが、それを廃止して新たに以下のような「3年ルール」が設けられました。
事業所単位の期間制限 | 派遣先の同一の事業所における派遣労働者の受け入れは、3年を上限とする。それを超えて受け入れるためには過半数労働組合等からの意見聴取が必要。意見があった場合には、対応方針等の説明義務を課す |
個人単位の期間制限 | 派遣先の同一の組織単位(課)における同一の派遣労働者の受け入れは、3年を上限とする |
現行では26業務及び業務単位での期間制限だったのが、見直し後は26業務か否かに関わりなく適用される「共通ルール」となりました。そのため、派遣先企業は「3年超契約が継続する可能性の高い職場についてはなるべく無期雇用(正社員)派遣を利用する」「26業務の派遣については雇用契約を調べ、有期雇用は無期雇用への転換を派遣会社に依頼するか、そもそも無期雇用の派遣会社と入れ替える」といった点を考えた対応が求められます。
四つ目が、「派遣元と派遣先双方において、派遣労働者と派遣先の労働者の均衡待遇確保のための措置を強化する」。義務違反に対しては、許可の取り消しを含めて厳しく指導されます。
この中でも、特に注目が集まったのが三つ目の正社員化に向けた「3年ルール」で、いわゆる「2018年問題」と呼ばれるもの。2012年の労働契約法改正と合わせ、パートタイマーや派遣社員の有期雇用契約者を対象に、2018年に無期雇用への対応が求められることになったわけです。労働者にとっては雇用の安定性が増す仕組みのため、希望者が多く出ると推測されました。その結果、企業にはコストが増大する可能性があるため、雇止めが行われ、大量の失業者が出てしまのではないかと懸念されたのが「2018年問題」です。実際に適用が進んでいないケースが少なくなかったことから、厚生労働省が警告を出し、注意を呼びかけました。
2020年(予定):待遇差を解消するための「同一労働同一賃金」が求められることに
2020年に改正が予定されている労働者派遣法では、派遣先に雇用される通常の労働者と、派遣労働者との間における不合理な待遇差を解消することを目指すために、「同一労働同一賃金」が求められることとなりました。派遣労働者の就業先は派遣先であり、待遇に関する派遣労働者の納得感を考慮するため、派遣先の労働者との均等(差別的な取り扱いをしないこと)、均衡(不合理な待遇格差を禁止すること)は重要なポイントです。
しかし、派遣先が変わるごとに賃金水準が変わるため、所得が不安定になることが想定されます。また、賃金水準は従業員規模で格差があることが多く、派遣労働者が行う仕事の難易度は同種の業務であっても、大企業ほど高度であるとは限りません。そのため、派遣労働者の段階的、体系的なキャリアアップ支援と不整合な事態を招くことが予想されます。このような状況を踏まえ、派遣労働者の待遇について、「派遣先均等・均衡方式:派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇」もしくは「労使協定方式:一定の要件を満たす労使協定による待遇」のいずれかを確保することが、派遣元に義務付けられました。
賃金などの待遇は労使の話し合いによって決定されるのが基本ですが、派遣労働者の場合、雇用関係にある派遣元と指揮命令関係にある派遣先とが存在するという、特殊性があります。そのため、これらの関係者が不合理と認められる待遇の相違の解消に向けて、認識を共有することが必要です。
また、派遣労働者に対する「説明義務」を強化している点が見逃せません。派遣労働者が不合理な待遇差を感じることのないよう、雇入れ時、派遣時、派遣労働者から求めがあった場合の派遣労働者への待遇に関する説明義務を強化しています。
2.労働者派遣における対応実務
派遣先企業の対応実務~派遣労働者受け入れのポイント
派遣先企業が、派遣労働者を受け入れて契約更新・終了するまでの契約の内容として、確認すべき事項は以下のように整理することができます。
(1)派遣元会社の選定と発注
まず、派遣スタッフ利用計画の立案。事前に社内で、派遣スタッフに頼みたい業務、人数、期間などを決めておきます。必要なスキル、経験、資格などを明確にし、派遣で禁止されていない業務であるかどうかを確認します。
次に、派遣先会社のサーチとチェックです。インターネットを利用して候補となる会社をピックアップ。実績や規模、評判などをチェックし、求める業務分野を得意としているかなどを、確認します。
絞り込みが済んだ後、営業担当者との打ち合わせを行い、自社の状況、依頼する業務内容、人数、期間などを伝えた上で、見積もりを出してもらいます。その際、営業担当者の担当が迅速か、仕事ぶりは丁寧か、オーダーの確認をしっかりと行っているか、フォロー体制は十分かなども確認しておくことが大切です。
(2)契約の締結
派遣元会社が決まったら、法律で義務付けられている派遣スタッフを受け入れる事業所(派遣先)の責任者、指揮命令者を選出します(兼任も可)。そして、労働者派遣契約の締結。商取引として必要となる「人材派遣基本契約書」と、法律で締結が義務付けられている「人材派遣個別契約書」を結びます。
(3)受け入れ準備
派遣スタッフのデスク、備品などの準備・手配。また、派遣スタッフ受け入れに対する社内への周知の徹底を行い、仕事をする上でのルールを取り決めます。
(4)稼働後
派遣先では就業終了後、3年間の「派遣先管理台帳」の保管が義務付けられています。実際の作成は、派遣元会社が行います。直接雇用の労働者と同じく、「労働基準法」など「労働法」を順守して働かせる義務があるのは言うまでもありません。
(5)契約更新・終了
更新、終了に関する連絡は、派遣元会社の営業担当者に一本化します。更新を申し込むタイミングは1ヵ月前が一般的。終了する場合も同様です。なお、途中解約は原則的に不可となります。
派遣元企業の対応実務
次に、派遣元が講ずべき措置および対応として、以下のような事項が挙げられます。
(1)社会保険・労働保険の適用
登録型の派遣スタッフでも、社会保険(健康保険・厚生年金)、労働保険(雇用保険・労災保険)の適用基準を満たす場合は、保険に加入させる必要があります。
(2)キャリアアップ措置の実施
教育訓練、キャリア・コンサルティングの相談窓口など、キャリア形成支援を行います。
(3)均等待遇の配慮
賃金や教育訓練・福利厚生など、派遣スタッフの労働条件について、派遣先の労働者との均等待遇に配慮します。
(4)派遣元責任者の選任
事業所ごと、派遣スタッフ100人につき1人以上、専属の者を選任しなくてはなりません。
(5)派遣元管理台帳の作成と保存
派遣スタッフの雇用管理のために、派遣元会社が作成します。
(6)労働関係の法律の適用
派遣スタッフに、「労働基準法」「労働安全衛生法」など、労働関係の法律を適用します。
(7)休日・休暇についての法律の適用
派遣スタッフに対しても、「労働基準法」の休暇規定(年次有給休暇、産前産後休暇)を守らなくてはなりません。
3.近年の法改正に伴う派遣元企業の対応実務
公開が義務付けられた派遣元企業の「報告内容」
派遣元企業は、以下の情報を事業所ごとに公開することが義務づけられています(労働者派遣法第23条5項、施行規則第18条の2第3項)。
- 派遣労働者の数
- 派遣先の数
- マージン率
- 教育訓練に関する事項
- 労働者派遣に関する料金の平均額
- 派遣労働者の賃金の平均額
- その他参考になると認められる事項
マージン率とは、派遣先企業から受け取る派遣料金に占める派遣料金と派遣労働者に支払う賃金の差額の割合のこと。2012年の改正労働者派遣法の施行により、公開が義務付けられました。この場合、マージン率の小さい会社の方が良いとは限りません。社会保険や労働保険に加入し、福利厚生や教育訓練に力を入れている派遣元企業は、そうでないところと比べて、マージン率が高くなる可能性があるからです。マージン率の高い・低いだけで派遣元企業を選ぶのではなく、その他の情報と組み合わせ、総合的に判断することが肝心です。
「3年ルール」で求められる、派遣元企業の生涯に渡る「キャリア形成支援」
法的な対応実務の観点で言うと、2015年の法改正で求められることになった「3年ルール(個人単位の派遣期間の上限が3年という期間制限)」への取り組みが、派遣元企業にとって非常に重要です。派遣元企業は、3年経つごとに各人に対して雇用安定化に向けた措置を行わなければなりません。その際、同じ会社の中で、その都度職場を替えて対応していけばいいのではないかという意見もありますが、今回の改正ではそのようなことは許さず、厳格な運用が求められています。
今後、3年を超える有期雇用派遣は、正社員派遣へと置き換わっていくことになります。そして、正社員派遣となると、今度は生涯に渡るキャリア形成支援が義務付けられます。つまり、派遣社員の生涯にわたるキャリア形成を支援できる会社でないと正社員派遣は難しい、ということになるわけです。その結果、派遣会社の中でキャリア形成支援を実現できる仕組み(段階的・体系的な教育訓練)を持つ会社が、人材派遣マーケットの中で有利となるポジションを取ることが予想されます。
「同一労働同一賃金」へ、いかに対応するか
2020年から「同一労働同一賃金」への対応が求められていますが、厚生労働省では「ガイドライン」を設け、通常の労働者と派遣労働者との間で待遇差が存在する場合、どのような待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理ではないか、原則となる考え方と具体例を示しています。「派遣先均等・均衡方式」の場合、賃金関連・福利厚生について、以下のような例示がなされています。
基本給 | ・基本給が、労働者の能力・経験に応じて支払うもの、業績・成果に応じて支払うもの、勤続年数(派遣就業期間)に応じて支払うものなど、それぞれの趣旨・性格に照らして、派遣先の通常の労働者と実態が同一であれば同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければなりません。 ・昇給であって、労働者の勤続(派遣就業の継続)による能力の向上に応じて行うものについては、派遣先の通常の労働者と勤続による能力の向上が同一であれば同一の、違いがあれば違いに応じた昇給を行わなければなりません。 |
賞与 | ・ボーナス(賞与)であって、役職の内容に対して支給するものについては、派遣先の通常の労働者と役職の内容が同一であれば同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならなりません。 |
各種手当 | ・役職手当であって、役職の内容に対して支給するものについては、派遣先の通常の労働者と役職の内容が同一であれば同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければなりません。 ・その他、派遣先の通常の労働者との間で、業務の危険度または作業環境が同一の場合の特殊作業手当、交替制勤務などの勤務形態が同一の場合の特殊勤務手当、業務の内容が同一の場合の精皆勤手当、派遣先の通常の労働者が所定労働時間を超えて同一の時間外労働を行った場合に支給される時間外労働手当の割増率、同一の深夜・休日労働を行った場合に支給される深夜・休日労働手当の割増率、通勤手当・出張旅費、労働時間の途中に食事のための休憩時間がある際の食事手当、同一の支給要件を満たす場合の単身赴任手当、特定の地域で働く労働者に対する補償として支給する地域手当等については、同一の支給を行わなければなりません。 |
福利厚生 | ・食堂、休憩室、更衣室といった福利厚生施設の利用、転勤の有無などの要件が同一の場合の転勤者用社宅、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給保障については、同一の利用・付与を行わなければなりません。 ・病気休職については、無期雇用の短時間労働者には正社員と同一の、有期雇用労働者にも労働契約が終了するまでの期間を踏まえて、同一の付与を行わなければなりません。 ・法定外の有給休暇その他の休暇であって、勤続期間に応じて認めているものについては、同一の勤続期間であれば同一の付与を行わなければなりません。特に、有期労働契約を更新している場合には、当初の契約期間から通算して、勤続期間を評価することを要します。 ・教育訓練であって、現在の職務に必要な技能・知識を習得するために実施するものについては、同一の職務内容であれば同一の、違いがあれば違いに応じた実施を行わなければなりません。 |
4.労働者派遣の留意点
ここでは労働者派遣を行う際、留意すべき事項について紹介します。
抵触日
事業所単位で設けられる派遣期間には、制限があります。派遣先企業の事業所が派遣スタッフを受け入れられる期間は最長で3年と定められており、その期間を過ぎる最初の日を「抵触日」と言います。事業所単位での抵触日を迎えると、個人単位での抵触日まで間がある派遣スタッフであってもその事業所で働くことができないので、注意が必要です。
禁止業務
労働者派遣のできない業務(適用除外業務)について、以下のように定められています。
(1)港湾運送業務
港湾における、船内荷役・はしけ運送・湾岸荷役やいかだ運送、船積貨物の鑑定・検量などの業務。
(2)建設業務
土木、建設その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊もしくは解体の作業、、またはこれらの準備の作業に関わる業務。
(3)警備業務
事務所、住宅、興行場、駐車場、遊園などにおける、または運搬中の現金などに関わる盗難などや、雑踏での負傷などの事故の発生を警戒し、防止する業務。
(4)病院・診療所等における医療関連業務
医師、歯科医師、薬剤師の調剤、保健婦、助産婦、看護師・准看護師、栄養士等の業務。ただし、以下の場合は派遣可能。
- 紹介予定派遣
- 病院・診療所等以外の施設で行われる業務
- 産前産後休業・育児休業・介護休業中の労働者の代替業務
- 就業の場所がへき地・離島の病院等および地域医療の確保のため都道府県が必要と認めた病院などにおける医師の業務
(5)弁護士・社会保険労務士等の「士」業務
弁護士、外国法事務弁護士、司法書士、土地家屋調査士の業務や、建築士事務所の管理建設士の業務(公認会計士、税理士、弁理士、社会保険労務士、行政書士等の業務では、一部で労働者派遣は可能)。
雇用制限の禁止
派遣元企業は、雇用する派遣労働者との間で、正当な理由がなく、その者が派遣先企業との雇用関係の終了後、雇用されることを禁ずる旨の契約を締結してはなりません。例えば「退職後、6ヵ月間は派遣先に雇用されないこと」といった契約を結ぶことは、原則できません。
「3年ルール」に対応するために留意すべき事項
2015年の改正では、「2018年問題」を引き起こした「3年ルール」が大きな注目を集めました。以下、留意すべき代表的な事項を紹介します。
受入れ期間制限ルール | 全ての業務において、「事業所単位」「個人単位」の期間制限が適用されます。派遣先は、同一の事業所において、派遣可能期間(3年)を超えて、派遣を受け入れることはできません。また、事業所単位の派遣可能期間を延長した場合でも、派遣先の事業所における同一の組織単位(課など)で、3年を超えて同一の派遣労働者を受け入れることはできません。 |
無許可派遣を行う事業主からの受け入れ禁止 | 派遣事業の健全化を目指し、労働者派遣は許可制へと一本化されました。許可を受けていない派遣会社から継続して派遣労働者を受け入れると法違反となり、労働局からの指導の対象となる他、事業主名の公表の対象となります。 |
労働契約申込みみなし制度 | 違法な労働者派遣を受け入れた場合、派遣先がその派遣労働者に対して「労働契約」の申し込みをしたとみなされる場合があるため、留意が必要です。 |
派遣労働者への募集情報の提供 | 派遣先において、派遣労働者に対して「募集情報」を提供することが義務付けられました。通常の労働者(正社員)を募集する場合、1年以上受け入れている派遣労働者がいる場合、その派遣労働者に対して正社員として就職する機会が得られるよう、募集情報を周知しなければなりません。また正社員に限らず労働者を募集する場合、派遣先の同一の組織単位の業務に継続して3年間受け入れる見込みがある派遣労働者がいる場合、派遣元からの雇用安定措置として、この派遣労働者に対して直接雇用で就職する機会が得られるよう、募集情報を周知しなければなりません。 |
雇用安定措置(派遣終了後の雇用を継続させるための措置)への対応 | 派遣労働者の直接雇用に向けて、真摯な検討を行うなど、適切な対応を求めています。例えば、派遣元から、同一の業務に1年以上継続して従事する派遣労働者の直接雇用の依頼を受けた場合、派遣終了後に引き続き同一の業務に従事させるために労働者を雇用する際には、 受け入れていた派遣労働者を雇用するよう努めなければなりません。 |
5.課題と今後の展開
雇用形態が多様化する中、「同一労働同一賃金」が持つ意味
雇用形態が多様化する中、労働者派遣の課題と今後の展開を考えた場合、2020年に施行される「同一労働同一賃金」が重要な意味を持ちます。同法は、雇用形態により労働者の待遇や雇用の安定性について格差が存在し、それらを是正することを目的に制定されたもの。これにより、パートタイマー、有期雇用労働者、派遣労働者など、正規社員以外の人が正規社員と同じ仕事内容を行っている場合、同じ仕事内容を行っている範囲において、同一の賃金を支給することがルールとなります。まさに「同一労働同一賃金」のルールは、まさに仕事の内容や処遇事態に対するルールであり、近年進められている「働き方改革」の根本を成す考え方と言えます。こうしたルールが、派遣労働者など外部人材に適用されたことに大きな意味があります。
育児休業、介護休業への対応
派遣労働者には女性が多いため、育児休業、介護休業に対する対応も重要です。派遣労働者のように、期間の定めのある雇用契約で働く人は、「同一の派遣会社で雇用期間が1年以上あること」を条件に、育児休業、介護休業を取得することができます。「働き方改革」では女性活躍が求められていますが、労働力不足が顕在化してきた昨今、育児休業、介護休業を取りやすくすることが女性を中心とした派遣労働者の活躍推進に、大きくつながっていくことが期待されます。
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