【ヨミ】ソウハツ 創発
(2012/8/27掲載)
「全体が部分の総和を超える」という「創発」現象は、もともと自然科学の複雑系理論のコンセプトであり、たとえば人間の脳の働きにその典型例をみることができるでしょう。脳という器官を構成する神経細胞一つひとつをみると、比較的単純なふるまいをしていることがわかっていますが、脳の全体はそれらの相互作用によって驚くべき知能に目覚め、極めて高度かつ複雑な能力を発現しています。
経済・産業面でいえば、世界のIT産業を牽引する米・シリコンバレーでも、あるいは日本のものづくりを支えている東京・大田区や東大阪市などの中小企業群でも、数多くの企業が密集ししのぎを削り合う中で、高度な技術や先進的なイノベーションが繰り返し生み出され、結果、個々の能力の総和を超えるような業界全体の躍進をもたらしました。そして全体の発展がまた企業間の触発を生み、それぞれの技術開発力をさらに磨きあげていったのです。これも、ビジネスにおける創発の事例といえるでしょう。
全体を構成する個別要素の相互作用によって思いもよらない全体的な特性が現れる――最近ではこうした創発現象を、自社の組織内において意図的・戦略的に起こすための環境整備や仕掛けづくりに取り組む企業も少なくありません。社員一人ひとりの知恵や発想を最大限に引き出しながら、活発なコミュニケーションを通じてそれらを組み合わせ、創造的な成果へと結びつける。脳の神経細胞がつながって知能が芽生えるように、1+1=2ではなく、1+1を3にも4にもしようとする試みです。
具体的な策としては、クロスファンクショナルチームやナレッジマネジメントシステムの導入、組織のフラット化、社内ベンチャー制度の設置、ソーシャルネットワークの活用など。部署や上下関係にとらわれず、多くの人材が自由かつ活発に交流できる場や機会を拡充し、組織の活性化を図ることで創発の可能性を高めています。
もちろん体制だけを整えても、肝心のメンバーが受け身に回っていては、創発は促されません。一人ひとりが自発的に知識や情報を収集し、それを組織へと還元して成果につなげていく意識を高める必要があります。創発という現象は、仕事中や会議、研修の時間にのみ起こるわけではなく、休憩中や仕事を離れたたわいもない雑談の中にもその可能性の“芽”が潜んでいるのです。
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