男女間賃金格差(差異)
【ダンジョカンチンギンカクササイ】男女間賃金格差(差異)とは、男女の賃金水準にどの程度の違いがあるかを示す概念です。 一般的には、男性労働者の平均賃金に対する女性労働者の平均賃金の割合、またはその差が用いられています。日本では、女性活躍推進法の改正により、一定規模以上の企業に対して「男女の賃金の差異」の情報公表が義務化されています。本記事では、厚生労働省のガイドラインなどに基づき、格差の現状、発生要因、企業が取り組むべき解消策について解説します。

男女間賃金格差(差異)とは
定義と計算方法
「男女間賃金差異」とは、一般的に男性労働者の平均賃金を「100」とした場合の、女性労働者の平均賃金の数値を指します。女性活躍推進法に基づく情報公表では、以下の計算式で求められたパーセンテージ(%)が用いられます。
(女性の平均年間賃金 ÷ 男性の平均年間賃金)× 100
この数値が100に近いほど格差が小さく、数値が低いほど男性に比べて女性の賃金が低いことを意味します。
より詳細な計算手順は以下の通りです。
- 労働者を男性・女性、また、正規・非正規で4種類にする
- それぞれの一の事業年度の※総賃金と人員数を算出
- それぞれの平均年間賃金額を算出
- 正規・非正規の総賃金・人員数を利用し、全ての労働者の平均賃金額を男女別に算出
- 全ての区分ごとの(女性の平均年間賃金)÷(男性の平均年間賃金額)により割合(%)を算出
日本における現状
厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、一般労働者(短時間労働者を除く)の男性の平均賃金水準を100としたとき、女性の平均賃金水準は74.8でした。長期的には縮小傾向にあるものの、G7(主要7ヵ国)をはじめとする先進諸外国と比較すると、日本の男女間賃金差異は依然として大きい状況にあります。
企業に求められる法的義務(女性活躍推進法)
女性の個性と能力が十分に発揮できる社会を実現するため、2022年(令和4年)7月より、女性活躍推進法に基づく情報公表のルールが変更されました。
常時雇用する労働者数が301人以上の事業主は、以下の①の区分から男女の賃金の差異を含めた2項目以上、②の区分から1項目以上を選択して、3項目以上を公表する必要があります。常時雇用する労働者数300人以下の事業主は、①と②の全項目から1項目以上選択して公表する必要があります。
必ずしも全ての項目を公表しなければならないものではありませんが、公表範囲そのものが事業主の女性の活躍推進に対する姿勢を表すものとして、求職者の企業選択の要素となることに留意する必要があります。
情報公表は、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」や自社ホームページなどで行うことが推奨されています。
また、法改正により、2026年4月からは「男女の賃金の差異」などの公表が、101人以上の企業に対しても義務化されます。
なぜ男女間賃金格差(差異)が起きるのか
制度上は男女同一賃金であっても、実態として平均賃金に差が生じる主な要因は以下の通りです。
(1)管理職比率の違い
日本において、男女間賃金格差(差異)の大きな要因となっているのが「職階(役職)」の違いです。管理職に占める女性の割合は上昇傾向にあるものの、国際的に見ると依然として低水準です。部長級・課長級といった高位の役職に男性が多く、女性が少ないという構造が、平均賃金の差を広げています。
(2)勤続年数の差異
「勤続年数」の男女差も大きな要因です。女性の平均勤続年数は延びていますが、男性と比較するとまだ短いのが現状です。日本型雇用慣行において、勤続年数が賃金上昇に直結しやすい賃金体系である場合、この差異が賃金格差に直接影響します。
(3)雇用管理区分の運用実態
「総合職」「一般職」といったコース別雇用管理や、配置・育成の機会における運用上の偏りも要因として挙げられます。過去の雇用管理の名残や、固定的な性別役割分担意識によって、事実上の差異が生じているケースがあります。
格差解消に向けた三つの視点とガイドライン
厚生労働省が策定した「男女間賃金格差解消に向けた労使の取組支援のためのガイドライン」では、企業が賃金・雇用管理を見直すための具体的な視点として、以下の三つを提示しています。
視点1:公正・明確かつ客観的な制度設計と透明性
賃金や評価の決定基準が曖昧な場合、無意識のバイアスが入り込む余地が生じます。例えば、以下に取り組むことが必要です。
- 賃金・昇進基準の明確化:何を満たせば昇給・昇格するのかを可視化する
- 手当の見直し:家族手当や住宅手当などが、世帯主(多くの場合は男性)に偏って支給される仕組みになっていないかを点検する
- 評価者研修:評価者が公正な評価を行えるよう研修を実施し、フィードバックを徹底する。評価プロセスに女性を含めた多様な視点が入る体制整備も有効
視点2:運用の見直し(配置・育成・評価)
制度自体に問題がなくても、運用面で男女差が生じている場合があります。例えば、以下を確認することが必要です。
- 配置・育成:難易度の高い職務や能力開発の機会が、男性に偏っていないか(女性を補助的業務に固定していないか)
- コース別管理:転勤要件などを理由に、事実上の男女別コースになっていないか
- アンコンシャス・バイアス:「子育て中の女性には負担の重い仕事は無理だ」といった思い込みで、成長機会を奪っていないか
視点3:ポジティブアクション(積極的改善措置)
過去の経緯や固定的役割分担意識によって生じている「事実上の格差」を解消するためには、例えば、以下のような取り組みが必要です。
- 女性に対する研修の積極実施により、管理職候補者を増やす
- 女性の採用拡大、昇進や評価につながる業務への配置・ローテーションの見直し、管理職登用の拡大を行う
人事部門が最初に取り組むべき「見える化」
格差解消の第一歩は、自社の実態を数値で把握する「見える化」です。厚生労働省は以下のツールを提供しており、これらを活用してPDCAを回すことが推奨されます。
男女間賃金差異分析ツール
自社の賃金データを入力することで、男女間賃金差異の状況を可視化できるExcelツールです。同業種・同規模の企業平均データと比較し、自社の立ち位置を把握したり、役職別、勤続年数別、雇用形態別などの詳細な分析により、「どこに課題があるか(例:採用段階か、管理職登用段階か)」を特定したりすることができます。以下のページの「お役立ちツール」からダウンロードできます。
行動計画策定支援マニュアル
女性活躍推進法に基づく行動計画の策定にあたっては、「一般事業主行動計画策定支援マニュアル」(以下、「行動計画策定支援マニュアル」)を活用できます。行動計画策定のための取り組み例などが豊富に掲載されています。「Step1現状把握」「Step2課題分析・目標設定・取組内容の決定」について、四つの基礎項目の把握により、女性の活躍に関する状況を六つのタイプに分け、そこから推奨する選択項目の把握、課題・取組内容を提案しています。男女の賃金差異に関する要因分析・取り組み以外の女性活躍に関する課題、行動計画についても、幅広く紹介しています。
実態調査票と意識調査
厚生労働省の「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン」には、定量データだけでなく定性的な意識を把握するためのツールも付属しています。「実態調査票」は、採用倍率、配置、昇進率、評価分布などを男女別に指標化し、構造的な課題を洗い出すものです。「社員意識調査アンケート」は、「評価は公正か」「性別による役割分担意識はないか」など、統計データには表れない社員の意識や納得感を調査するものです。
格差解消のための企業の取り組み(『日本の人事部 人事白書』調査結果より)
男女間賃金格差解消のために企業は取り組みを行っているのでしょうか。『日本の人事部 人事白書2024』の調査結果を紹介します。
男女間の賃金格差の解消に「積極的に取り組んでいる」「ある程度取り組んでいる」「あまり取り組んでいない」と回答した方を対象に、格差解消のための具体的な取り組み内容を、複数回答で聞きました。
格差解消のための具体的な取り組みとして、最も多かった回答は 「評価の公平性や明確性の確保」(43.4%)、次いで「出産・育児などがハンデにならない業務・評価 の仕組みの構築」(40.8%)でした。「業務の割り振りの調整」「ポジティブアクション(重要な部署や 役割、業務への優先的な女性の配置など)」は、それぞれ約2割にとどまっています。
男女間賃金格差(差異)の公表事例
男女間賃金格差(差異)を公表している企業の事例を紹介します。
メルカリ
女性や外国人など、多様な人材が活躍しているメルカリ。採用・登用候補者プールにKPIを設けて数値で管理し、多様性を確保するうえでの課題を特定して組織横断的なアクションプランを策定・実行するなど、ダイバーシティ&インクルージョンの推進に注力しています。管理職における女性比率20.4%、男性の育児休業取得率91.4%、男性の育休取得日数平均80.4日など、着実に取り組みの効果が表れています。
メルカリが2023年9月に発表したレポートの中で、男女間の賃金差異について「説明できない格差」が発生していると公表。具体的には、男女の平均賃金に37.5%の格差があり、同じ職種・等級(グレード)の男女でも7%の差が生じているとしました。メルカリはこの格差が生じた理由について、一般的に女性の方が男性よりも賃金が低い社会的な構造を、中途採用時の給与オファーの際にそのまま取り入れてしまったためと分析。個別に報酬調整を行い、格差を2.5%まで縮小させています。
その他の企業事例
厚生労働省のWebサイトでは、男女の賃金の差異の情報公表をしている企業の好事例・インタビュー動画を紹介しています。
有識者の声
人事データ活用の重要性を啓発し続ける、早稲田大学政治経済学術院 教授の大湾秀雄さんは『日本の人事部』のインタビュー記事(2022年11月11日掲載)で以下のように語っています(一部抜粋)。
まずは大前提を整える必要があります。有効なアクションプランを策定する上で最も重要なのは、経営陣のコミットメント。経営陣が真剣にならなければ、どのような施策を打ち出しても結果につながりません。
経営陣のコミットメントを示すためには、統合報告書やCSR報告書などを通じて、経営陣が主体的に提案していることが分かるようにすべきだと考えます。あるいは経営陣の報酬制度の評価項目に男女賃金差の縮小を盛り込むことも効果的でしょう。また、女性活躍推進の部署を作って経営陣の直下におくことも、本気度を表すことにつながると思います。
その上で取り組んでほしいのは、性別職域分離をなくしていくためのアクション。有給休暇や育児休業などの取得率を比較し、「女性が働きやすい部門」や「男性が働きやすい部門」の現状を可視化することが重要です。
また、現状でも多くの企業が取り組んでいるように、管理職に一定割合の女性を置くという目標を定めることは非常に重要だと考えます。その際には働きやすさだけでなく、女性が育成や配置で差別されないようにモニタリングしていくことも必要です。
よく「オールド・ボーイズ・ネットワーク」という言葉が聞かれます。管理職を目指す女性の前に立ちはだかる情報格差の問題を表した言葉です。いわゆる従来の男性管理職は、飲み会や喫煙所などの場で独自の情報網を築いてきました。しかしこうした情報網から外されがちな女性には、経営陣や管理職の考えていることがなかなか伝わりません。
女性もこうした重要な情報を得るためのネットワークに参加しやすいよう、体制と機会を整えていくべきではないでしょうか。現場単位では、シニアマネジメント層が女性管理職候補のメンターになるといった取り組みも効果的でしょう。
調査機関・シンクタンクによる提言
マーサージャパン株式会社は、男女間賃金格差(差異)に対する考え方とこれに沿った報酬サーベイ分析結果を以下の記事で紹介しています。
リクルートワークス研究所は、同じ役職についていても男女間の年収には差があることを解説しています。
まとめ:情報公表を「選ばれる企業」へのチャンスに
男女間賃金格差(差異)の解消は、単なる法令順守(コンプライアンス)の問題にとどまりません。
労働力人口が減少する日本において、性別にかかわらず能力を発揮できる環境を整備することは、優秀な人材の確保や定着、ひいては企業の競争力強化に直結します。
「男女の賃金の差異」の数値を単に公表するだけでなく、その背景にある要因(例えば、女性管理職比率が低い、勤続年数に差があるなど)を分析し、説明欄を用いて自社の現状と改善に向けた取り組みをセットで発信することが重要です。これにより、求職者やステークホルダーに対して、女性活躍推進に対する真摯(しんし)な姿勢を示すことができます。
まずは「見える化」支援ツールを活用して自社の現状を把握し、課題に応じた具体的なアクションプラン(一般事業主行動計画)の策定・実行へとつなげていくことが求められます。
※本記事は主に、厚生労働省「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン」を参考にして執筆しました。
監修者からのコメント
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人事が向き合うべきなのは、個々人の判断に注意を促すことだけではなく、判断のばらつきや偏りが生じにくい仕組みを整えることです。評価基準や昇進要件の明確化、配置や育成状況の定期的な点検などを通じて、男女間賃金格差の要因を可視化し、継続的に見直していくことが重要です。