ペルソナ
ペルソナとは?
ペルソナとは、サービスや商品を利用するユーザーを表現するために作成する架空の人物像のことです。マーケティングでは、「ユーザーはどのようなサービス・商品が欲しいと思っているのか」「どのようなことに不満を抱えているのか」など、対象者のニーズを明確にする必要があります。あらかじめ象徴的となる顧客モデルを決定できれば、ニーズに応じたユーザー体験(ユーザー・エクスペリエンス、UX)をデザインできるため、サービス・商品の方向性や販売戦略を定めることが可能になります。
元々はマーケティングで用いられる概念でしたが、近年ではHRの領域でも用いられています。採用で対象の人物像を具体化するために用いるほか、既に働いている従業員が企業内でどのような体験をするのかを具体化するために、ペルソナの概念を用いることもあります。
※ペルソナは、ラテン語で「人格」「位格」を表し、ギリシャの古典劇で演者が身につける「仮面」の意味でした。そこから役者が演じる「役割」という意味で使われるようになったと言われています。1921年スイスの心理学者であるカール・グスタフ・ユングは、ペルソナを「人間の外的側面(人間世界において、周囲に見せる自分の姿)」という意味で用いています。
1. ペルソナとセグメント、ターゲットの違い
ペルソナに似ている用語に、「セグメント」や「ターゲット」があります。混同しやすい言葉ですが、意味が異なるため注意が必要です。
セグメント(segment)とは、直訳すると「区分」「部分」という意味で、集団を特定の条件や属性で分類したグループのことを指します。次にターゲット(target)とは、「的」「標的」という意味を持ち、属性ごとに分類したグループのうち、特に狙いたい対象グループのことを指します。集団を「セグメント」に分けたうえで「ターゲット」を定める、という流れがわかりやすいでしょう。
一方、ペルソナとはターゲットをさらに絞り込んでいくことを指します。例えば、ユーザーの背景や嗜好、生活スタイルまで詳細に設計し、「一人の理想となる人物像」を完成させていきます。そのため、セグメントは登録データや統計情報などから設定するのに対して、ペルソナはインタビューやアンケートを活用し、より深く個人を特性することがポイントとなります。
●営業職採用のターゲット例- 33歳・男性
- 都内在住
- 妻と2歳の子供の3人暮らし
- 趣味は体を動かすこと
- 営業経験8年(有形商材3年、無形商材5年)
- 現在はベンチャー企業で自社サービスの営業をしている
- 年収600万円
- 過去1回全社MVP受賞
- 子供の誕生をきっかけにワーク・ライフ・バランスが実現できる企業への転職を考えている。また年齢を考えて、責任あるポジションへのステップアップを検討している
2. HR分野においてペルソナ設定が重要な理由
現代は多様化するライフスタイルの中で、顧客特性や行動が複雑化しています。また、顧客側も選択肢が広がったことで、これまでのように属性ごとにまとめて考えるだけでは、具体的な施策を打つことができなくなりました。個人にフォーカスすることで、より細かく不満や欲求を把握でき、最適な改善策を実行できるようになります。
最近では商品・サービス開発やマーケティングだけではなく、人事分野でもペルソナ設定が注目されるようになってきました。しかし、なぜセグメンテーションだけではなく、ペルソナ設計をする必要があるのでしょうか。
採用したい人物像の具体化
人手不足が深刻化し、人材獲得競争が過熱しています。競合企業と差別化するためには、採用したい人物像を具体化・可視化し、より適切に企業で働く魅力を伝えていかなければなりません。ペルソナ設定をすることで、属性だけでは読み取れなかった、仕事のスタンスや考え方、共感の接点まで認識をそろえることが可能になります。
エンゲージメント向上施策に必要
現在はフリーランスやスポットワークなど働き方が多様であり、1社に留まるケースは少なくなってきました。そのため、優秀な人材確保のためにも「企業で働く意義」を提供しなければなりません。ペルソナを設定し、従業員の要望を把握した上で、適したエンゲージメント向上施策を行うことが重要です。
ペルソナを設定するメリット
●社内認識のずれをなくし、認識を共通化しやすい
ペルソナを設定することで、関係各所全員が共通の人物像をイメージすることができます。個人の思い込みや勘違いなどを排除できるため、認識のずれをなくすことが可能になります。メンバーの多様性が高い場合は特に認識を合わせることが難しいため、ペルソナを設定することで、効率よく施策を実行できます。
●適切なフローを設計でき、工数や費用を抑えられる
ペルソナを設定する場合は、人物像を詳細に想定していく必要があります。そのため、ペルソナとなる人物像が、就職・転職、企業や仕事に何を求めるのかを正確に捉えられるようになり、最適な施策を企画・実行することができます。施策のコンセプト、方向性を決定する軸になる点もメリットです。
●入社後のミスマッチを防ぐ
採用活動では、自社が求めるペルソナを明確に定めておけば、自社のビジョンに共感し、価値観にあった人材を採用することが可能になります。あらかじめ候補者が知りたい情報を事前に提供できれば、入社後のミスマッチがなくなり、離職率の低下を防止することも可能です。
●従業員理解を深め、パフォーマンス向上やリテンション向上につながる
多様化するライフスタイルに合わせた福利厚生制度になっているか、キャリアアップを考えたときに必要な研修や昇進制度があるかなど、多様な従業員の悩み・課題に対して、解決策を検討するには、ペルソナによる従業員の人物像の具体化が必要です。人事施策の関係者でペルソナを共有すれば、一つだけの観点ではなく、採用・育成・福利厚生など、さまざまな観点から対策ができるようになります。
3.ペルソナの設定方法
ペルソナ設定にはさまざまな工程があるため、時間や工数、作業コストがかかります。なぜペルソナ設定を行うのかを明確化した上で、タスクを整理して進行することが重要です。
ペルソナを設定するためのステップ
ステップ(1):自社の人事課題を明確化する
まず、人事部門においてなぜペルソナ設定を行うのか、理由を明らかにします。理由がないままペルソナ設定をしてしまうと、曖昧で軸の無い人物像になってしまう可能性があります。自社にどのような課題があるのか、ゴールはどこに設定するのかをはっきりさせておくことが大事です。
ステップ(2):人材要件を整理する
募集しているポジションや、活躍している人材の要件を整理していきます。どういう人材を必要としているのかを可視化しなければ、具体的な人物像へと深掘りすることができません。この段階で経営陣や部門長などにヒアリングを行うことも有効です。
ステップ(3):自社で活躍する人材を固めるために、情報収集を行う
次に、その人物の深掘りを行います。ターゲットを決定しても、現状の悩みや不満は何かを理解していないと、自社にその人物をひきつけることはできません。リアリティ・納得感があるペルソナ設定には、多くの情報源から収集を行うことが大切です。アンケートなどの定量的なデータ、インタビューの定性的なデータの両方を用いて情報を集めるとよいでしょう。
- セグメント別にインタビュー/アンケートの実施
- 面接官や上司などへのインタビュー/アンケートの実施
- 従業員サーベイの実施
- 公的機関による調査データの収集
- SNSの投稿や口コミの収集
- エージェントなどの人材紹介会社へのインタビュー/アンケートの実施
- 退職者へのインタビュー/アンケートの実施
ステップ(4):情報をまとめて、人物像を作成・可視化する
ステップ(2)(3)で収集した内容を整理しながら、具体的な人物像を設定していきます。ペルソナの設定が目的化して、必要のない項目まで定めてしまわないよう、情報の取捨選択を行いながらバランスの良いペルソナを作成していきます。収集した内容を全て使わないことがポイントです。
ペルソナを作成するときには、設計シートなどを活用すると、客観性を担保しながらわかりやすくまとめることができます。項目を入力する際に、「なぜこの項目を設定する必要があるのか」「このようにした理由は何か、説明できるのか」など、理由を考えながら進めていくと、より納得感のあるペルソナに仕上がっていきます。
- 【参考】
- 採用に使えるペルソナシート|日本の人事部
作成したペルソナは必ず関係者に共有し、ユーザーの特徴を捉えたものになっているか、矛盾や足りない部分などはないかを確認してもらい、完成度を高めていきます。可能であれば、実際の対象者に確認してもらうのもおすすめです。
ペルソナ設定にあたっての構成要素や条件
できるだけリアリティある人物像を設定するには、細かく要素を設定することが望ましいでしょう。人事部門でペルソナを設定するときには、プロフィールや仕事だけでなく、行動や性格も丁寧に洗い出していきます。以下は一例ですが、すべてを埋める必要はありません。自社課題を解決するために必要な要素をピックアップすることが重要です。どのような人物像なのか、誰が見てもイメージできるようにすれば問題ないでしょう。
年齢
性別
居住地
家族構成
最終学歴
職業
役職
収入
保有スキルや資格
経歴
入社後の理想
キャリアステップ
起床/就寝時間
休日の過ごし方
一日のスケジュール
趣味
利用するSNSやアプリ
利用する店やサービス
交友関係
日課や習慣
性格
現在の不満や悩み
仕事に関するマインド
将来の夢や目標
価値観
ペルソナ設定のポイント
活用できるペルソナを設定するためには、以下のポイントが重要です。
自社の強み・魅力を理解する
SWOT分析や3C分析などを活用し、あらかじめ自社の強みや訴求できるポイントを把握しておくことが大切です。
SWOT分析では、「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」という四つの要素で要因を分析します。3C分析は、「Customer(市場)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」という三つの要素に沿って、自社の立ち位置を整理します。いずれも他社と比較しながら自社を捉えることのできるフレームワークです。
他社と比較した強み・弱みを理解していないと、ペルソナを細かく作っても適切に訴求できず、的外れになってしまいます。ペルソナに対して何が提供できるのか、ペルソナにとって自社の立場はどういう状況なのかを冷静に分析するためにも、自社分析で失敗しないことが重要です。
場合によって複数のペルソナを設定する
一人の理想となる人物像を定めることがペルソナ設定ですが、複数のペルソナを設定してはいけないわけではありません。例えば事業や職種によってスキルや経験、思考方法など、必ずしも一つに設定できない場合もあります。その場合は、部門ごと、職種ごとにペルソナを設定することをおすすめします。人事部門において複数人のペルソナを作る場合は、採用や人事制度におけるコンセプトとなる「共通となるポイント(思考や考え方、価値観など)」を必ず明確にします。項目に優先順位をつけることも重要です。
複雑なペルソナにせずに、ある程度の余裕を持たせる
気をつけたいのは、ペルソナ設定に意気込むあまり、複雑で完璧な人物像が完成してしまうことです。いくら理想の人物像と言っても、こだわりすぎて該当する人物がいなくなってしまっては意味がありません。むしろ皆で考えられるような余白を残しておき、シンプルで誰が見てもわかりやすいことが大切です。作成の際には、「実際にいるかどうか」を常に意識して作成することが大事です。
4.ペルソナの活用方法
作成したペルソナはどのように活用すればよいのか、実際の活用事例を見ていきます。いずれの活用方法でも、迷ったときは必ずペルソナに立ち返り、ペルソナの視点に立って物事を考えることが重要です。ペルソナはチームの共通言語として定着させるようにしましょう。
●カスタマージャーニーマップやエンプロイージャーニーマップ作成のベースにする
ジャーニーマップとは、対象者の行動や思考などを具体的に理解するためのツールです。採用においては候補者、社内においては従業員を対象者と設定して作成します。適切なペルソナを設定した上でこのツールを活用すれば、対象者に対してより満足な体験を提供ができるでしょう。
- 【参考】
- エンプロイージャーニーとは|日本の人事部
●ペルソナに基づいた採用プロモーションやブランディングの実施
ペルソナを用いれば、採用活動をより効果的に行うことが可能です。例えば、対象者のライフスタイルを考えることで、効率的にリーチできる広告媒体を選定することができます。また、ホームページやスカウトメールなどでは、ペルソナが設定されていれば、よりニーズを踏まえた魅力的な内容を訴求することが可能です。選考過程においても、面接官の選定や話す内容の調整、内定後の面談設定などを行い、動機形成のための選考体験を組み立てることができます。
- 【参考】
- 採用マーケティングとは|日本の人事部
●ペルソナに基づいた社内制度改革、評価基準改定への活用
従業員の考え方が多様化する中、リテンションを目的とした施策実行にもペルソナを活用することができます。ペルソナの働き方やキャリアについての思考をおさえられるため、「どのような制度や研修が必要なのか」「どのような評価制度であれば納得性が高まるのか」など、従業員の抱える不満や要望に対して、適切な改善提案を実施することが可能になります。
- 【参考】
- リテンションとは|日本の人事部
5.ペルソナ設定・活用の注意点
●定性データ・定量データのどちらかに偏ることなく、バランスよくペルソナを設定する
ペルソナを設定する際に重要なのは、客観性です。作成者が理想や主観、感覚にとらわれてしまうと、現実離れした人物像を作り上げてしまうことになります。非現実なペルソナをもとにした施策では、良い効果は得られません。そこで、正確なデータや根拠に基づいた情報、実際のヒアリング内容をもとにして、現実的なペルソナ設定を行うことが重要となるのです。
●設定したペルソナに固執せず、定期的な分析・見直しを行う
ペルソナは一度作れば終わりではありません。市場の変化や企業の成長に合わせて、対象となる人物像は変化し、考え方や行動、心情も変わっていくと考えられます。一回作成したペルソナを長い間変えずにいると、施策がずれてしまい意味がなくなってしまう可能性が出てくるのです。ペルソナ設定の結果、想定した成果が得られているかを分析・観察しながら、時流にあったペルソナになるように修正することが大切です。
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行動観察シート
チームメンバー(部下)の「行動評価」や「行動開発(能力開発)」をするためのデータの基本となるものです。
行動評価、行動開発の基本は「行動観察」です。
行動観察は2ヶ月くらい毎日、訓練しないとなかなか習得できません。
メンバーの行動開発のみならず、リーダー(管理者)自身の行動開発も可能となります。
パソコンに向かって仕事をしている姿が一般的になったチームリーダー(管理者)は、個人の成果は上がるかもしれませんが、チームのマネジメントができません。
チームのマネジメントやリーダーシップの発揮は、チームメンバーひとりひとりを良く観ることから始まります。
このシートを使い、2ヶ月間地道に観察を続けていると「大きな気づき」を得ること間違い無しです。
有限会社ライフデザイン研究所
目標設定(定量・定性)のエクセサイズシート
4月〜5月にかけて各会社では目標設定の時期になります。
4月に新入社員になったり、管理職になったりとあらたな立場で、定量目標と定性目標を作成しなければなりません。
しかし、目標管理、定量目標、定性目標を正しく理解しなければ適切な目標設定はできません。
そのためのエクセサイズシートです。
内容を確認し自社の考え方と適合していればどうぞ、考え方の説明用としてお使いください。
1on1記録シート
1on1記録シートです。1on1を記録するときにご利用ください。