パワーハラスメント(パワハラ)対策の難しさは、当事者にその意識がなくても結果的にハラスメントになってしまうケースが多いことにあります。そこで注目されるのが、管理職がパワハラを引き起こすリスクを客観的に測定できる管理職教育用Web適性検査「パワハラ振り返りシート」。2018年より同検査を導入しているNTT東日本・総務人事部・能力開発推進担当課長の真下実輪子さんと主査の栗原健一さんに、導入の狙い、これまで行っていた取り組みとの違い、実施後の社内での反響などについて詳しくうかがいました。
管理職に不可欠なコミュニケーションへの理解
パワハラのリスクを測定できる管理職教育用Web適性検査「パワハラ振り返りシート」を導入するにあたり、どのような課題を意識されていたのでしょうか。
管理職教育にはいろいろな切り口があります。特に昨今、管理職に求められるのはコミュニケーション能力です。コミュニケーションが不足していたり一方的だったりすると、相互の理解不足を招き、組織にとって好ましくない問題の原因になっていきます。弊社ではさまざまな切り口で教育施策を展開していますが、社員のコミュニケーション能力が向上することで、「CSR」「ダイバーシティ」「部下の育成」「人権啓発」といった分野での会社としての取り組みの理解や浸透にもつながると考えています。管理職教育用Web適性検査「パワハラ振り返りシート」は、予防に限らず、コミュニケーションを中心としたマネジメントスキルの向上にも役立ちますし、自分自身の振り返りにも役立つので導入しました。
社員の誰もが気持ちよく働ける、ハラスメントのないクリーンな職場づくりは常に意識し、会社としてこれまでもいろいろな取り組みを行ってきましたが、パワハラに関する相談件数はゼロにはなりません。むしろ、ハラスメントへの意識が高まったことで、以前は出てこなかったようなケースでも相談があり、可視化されるようになりました。そういう今まで見えなかった事例も含めて、対処していかなくてはならないと考えています。部下を持つ管理職であれば誰でも「パワハラ」と言われてしまうリスクがあるため、個々の管理職に注意喚起を促す意味でも「パワハラ振り返りシート」は活用できます。
これまでは、どのような取り組みを行われてきたのでしょうか。
予防の観点からは、管理職に「職場におけるハラスメント対応マニュアル」を配布して意識づけを行っています。管理職研修では、「どういうケースがハラスメントになるのか」を具体的に理解してもらうため、講師の話だけでなく、プロの役者数名をキャスティングした寸劇を交えて、言い回しや声のトーン、間の取り方などを本格的に再現し、「こういう言い方をしたら相手はどう感じるのか」を体感できるような工夫をしていました。
全社員を対象とするものとしては、職場単位でさまざまなケーススタディーを用いたディスカッションを行い、上司と部下がそれぞれ相手の立場になって考える取り組みなどを行っています。パワハラに対する認識を高めるとともに、お互いのコミュニケーションを充実させることも大きな目的です。また、従業員満足度調査やメンタルヘルス調査でも、職場に何か問題はないかを探るために、アンケートを実施し、何か兆候があればさらに精査し、個別には産業医も関わり、必要に応じてフォローしていくようにしています。
さまざまな取り組みを行われてきたわけですが、さらに管理職教育用Web適性検査「パワハラ振り返りシート」を導入されたきっかけは何だったのでしょうか。
パワハラもそうですし、管理職になるにあたって不可欠なコミュニケーションについての認識を「自分事」とし、当事者として受け止めてもらうために、自らを客観視できる適性検査を探していました。いくら研修やミーティングを行っても、「自分は大丈夫」という思い込みがあると効果は薄れてしまうからです。ちょうどそのタイミングで、個人のコミュニケーションの傾向を分析できるツールとして管理職教育用Web適性検査「パワハラ振り返りシート」を知り、ぜひ試してみたいと思いました。
「新任課長」全員を対象に本年度から毎年定期的に実施
管理職教育用Web適性検査「パワハラ振り返りシート」は、2018年11月から導入されたのですね。
最初は、本社総務人事部の管理職50名強を対象としました。個人別の結果報告書「パワハラ振り返りシート」をもとにいろいろなコミュニケーションができました。「けっこう当たっているので気をつけます」という人もいるなど、一人ひとりに気づきがあったのは間違いありません。
リスクが高いという結果が出た人に対して、個別対応や研修などは実施されたのでしょうか。
研修という形ではありませんが、検査の結果をオープンにして、部長・部門長も交えて話し合ってもらいました。この検査はリスクが高いという結果が出たからといって、それが絶対にパワハラにつながるというものではありません。自分のコミュニケーションの傾向を自覚するとともに、相互に言いあえる関係をつくることで、リスクそのものの低減につなげていくためのツールです。リスクが高かった人には、周囲が「ちゃんとコントロールできてる?」と冗談半分で話しかけることもあり、率直に話せる空気が生まれました。職場の雰囲気は確実によくなったと思います。実は、私自身もパワハラのリスクが高いと出たので気にとめるようにしているんです。シートが手元に残るので定期的に見て、自分で振り返りができるのも良い点だと思います。
その次のステップとして、2019年1月にNTT東日本グループ各社の総務部長を対象に受検してもらいました。このときは約35名で、自分自身を振り返る研修の一環として、コミュニケーションに対する意識を高めてもらいました。
最新の取り組みは、2019年9月からの「新任課長」全員を対象とするものです。グループ全社が対象なので一気に280名まで増えました。この層に受けてもらったのは、今までと違う環境に置かれることになるからです。立場が変わって周囲との接し方も変わりますし、地域や組織が変わる人もいます。いちばんコミュニケーションに悩むタイミングではないかと考えたのです。そういうときに自分の特性がわかれば、自らのマネジメントスタイルをつくっていく上で役に立つことが多いだろうという期待から実施しました。
今後はさらに対象を広げて受検してもらう可能性もあるのでしょうか。
新任課長に対する管理者教育の一環としては、来年度以降も続けていく予定です。これまで受検してもらった人たちの反応やアンケート結果などを分析・検討しながら、対象を拡大していきます。
適性検査の結果の有効活用を促す「社内講師」育成の重要性
検査結果の新任課長へのフィードバックはどのように行われているのでしょうか。
管理職教育用Web適性検査「パワハラ振り返りシート」の開発元であるグローイングさんに研修や個別の受検者にフィードバックをしてもらうこともできますが、弊社では私も含めた育成担当者2名が社内講師として、結果の読み取り方などを研修で伝えたり、個別の受検者にフィードバックしています。
「パワハラ振り返りシート」の社内講師には専門的な知識が必要になるのでしょうか。
この検査は、リスクの高い人を発見して何かをしようというものではなく、あくまでも受検者に自身の特性やリスクを自覚してもらい、注意喚起するための教育用ツールです。そういう検査の目的や数値の読み方などを間違って理解してしまうと逆効果になりかねません。そのため、私たちもグローイングさんによる導入企業のための「社内講師育成講座」を受けて、正しい理解のもと社内研修やフィードバックを行うようにしています。
社内講師が受検者に研修や個別のフィードバックをする意味としては、業務や組織を理解しているので具体的な話ができることが大きいですね。先日も新任課長への研修の冒頭に「良かった上司、嫌だった上司」というテーマで話をしたのですが、具体的にイメージがしやすい分、非常に盛り上がりました。イメージしやすい分、「自分も気をつけよう」と自分自身の「パワハラ振り返りシート」の結果も踏まえ感じてもらえたのではないかと思います。また、総務人事部以外の部門から問い合わせがあったときにも、「社内講師育成講座」を受けていれば、その都度、開発元に問い合わせなくても、その場できちんと説明することができます。
今後は自社の平均値とグローイングさんが提供してくださる全企業の平均値との比較などをもとに、弊社ならではの傾向・特性の分析を行い、職場の誰もが気持ちよく働ける、ハラスメントのないクリーンな職場づくりにより役立てていきたいと考えています。