合理的配慮とハラスメント〜その線引きと職場に求められる対応
近年、職場における「合理的配慮」と「ハラスメント」の境界線が注目されています。
障害者差別解消法をはじめとする法制度の整備により、企業には社員一人ひとりの状況に応じた配慮を行う責任が求められています。
一方で、過度な配慮や不適切な関わり方は、かえって他の社員との不公平感や人間関係の摩擦を生み、ハラスメントと捉えられる可能性もあります。
本記事では、企業の人事総務担当者・コンプライアンス部門担当者の皆さまに向けて、「合理的配慮とハラスメントの関係性」「なぜ線引きが難しいのか」「未然に防ぐために役職者が学ぶべきこと」を整理します。
●合理的配慮とは何か
「合理的配慮」とは、障害のある社員や特定の事情を抱える社員が、他の社員と同等に就業機会を得られるよう、必要かつ適切な変更・調整を行うことを指します。
たとえば、
・発達障害を持つ社員に対して業務の手順を明確に示す
・心身の不調がある社員に配慮し、勤務時間を調整する
・身体障害のある社員にバリアフリー環境を整える
といった対応が合理的配慮に当たります。
企業には「できる限りの配慮を行う努力義務」があり、合理的配慮を怠ることは差別につながりかねません。
●合理的配慮が「ハラスメント」と捉えられるリスク
合理的配慮は善意から行われるものですが、配慮の仕方や周囲への伝え方を誤ると、次のようなリスクが生じます。
1. 特別扱いと見なされる
ある社員に柔軟な勤務を認める一方で、他の社員が「自分たちは認めてもらえない」と不公平感を抱くことがあります。この不満が積み重なると、「逆差別だ」「職場環境が不公平だ」といった声につながります。
2. 配慮が過剰になる
本人の希望を過度に尊重しすぎて業務の公平性が損なわれたり、他の社員の負担が増える場合があります。結果的に、チーム内で軋轢が生じ、ハラスメントと受け止められる可能性があります。
3. 意図せぬラベリング
「あなたは特別だから」「配慮が必要だから」といった言葉は、無意識のうちに本人を“弱者”とラベリングしてしまいます。本人が「自分だけ特別扱いされている」と感じ、心理的に追い込まれるケースもあります。
●線引きが難しい理由
合理的配慮とハラスメントの境界線が難しいのは、絶対的な基準が存在しないからです。
「これは合理的配慮」「これはハラスメント」と一刀両断できるケースは少なく、多くは状況や人間関係によって解釈が変わります。
たとえば、
叱責が「必要な指導」か「パワハラ」かは、言葉の内容だけでなく伝え方や受け手の状態に左右される
業務負担の調整が「配慮」か「えこひいき」かは、周囲の理解度や説明不足によって認識が変わる
つまり、合理的配慮とハラスメントは紙一重の関係にあり、役職者には高度な判断力とコミュニケーション力が求められるのです。
●未然に防ぐために必要な視点
合理的配慮とハラスメントを正しく理解し、トラブルを未然に防ぐためには、以下の3つの視点が欠かせません。
1. 役職者自身のセルフケア力
上司が自分のストレスを抱え込んでいると、冷静な判断が難しくなります。
「心の便秘」という考え方を取り入れ、自分の感情を適切に整理しながら、余裕を持った対応をすることが合理的配慮の第一歩です。
2. 部下との信頼関係
配慮が行き過ぎても、足りなくても問題は起きます。大切なのは、本人と信頼関係を築いたうえで「どのような配慮が本当に必要か」を話し合える関係性を持つことです。
そのためには、「課題の分離」や「クッション言葉」「サンドイッチパターン」「感謝の伝え方」といったスキルが役立ちます。
3. 職場全体への周知と説明
本人への配慮だけでなく、周囲の理解も欠かせません。合理的配慮の目的を正しく説明し、他の社員が不公平感を持たないようにすることで、ハラスメントリスクを減らせます。
●研修で学ぶべきこと
弊社の「ハラスメント&メンタルヘルス研修(120分〜150分)」では、合理的配慮とハラスメントの関係性についても具体的に取り上げています。
プログラムの中では、
・代表的なハラスメントの種類と誤解されやすい事例
・ハラスメントとメンタルヘルスの相互関連性
・役職者が自分のメンタルを整える3ステップ
・信頼関係を築くための3つの具体的スキル
・ハラスメント発生時の基本的な対応方針
を体系的に学びます。
合理的配慮とハラスメントの線引きを考える際、知識だけでなく「自分を整える力」と「人間関係を築く力」が必須です。
本研修では講義とグループワークを組み合わせ、実践的に身につけることができます。
弊社のハラスメント×メンタルヘルス研修の一般的なプログラム例を紹介しますので、必要に応じて参考にしてみてください。
●合理的配慮とハラスメントの境界を確認するチェックリスト
以下の項目をチェックすることで、合理的配慮とハラスメントの境界が曖昧になっていないかを確認できます。
・配慮の内容は本人と話し合い、合意形成を行っているか
・ 配慮の目的(業務を遂行しやすくするため)が周囲に適切に説明されているか
・ 特定の社員だけが「特別扱い」と見なされないよう、チーム全体の理解を得ているか
・ 配慮が過剰になり、他の社員の業務負担が増えていないか
・ 本人への言葉がけが「支援」ではなく「ラベリング」になっていないか
・ 役職者自身の心身に余裕があり、冷静に対応できているか
・ 配慮が形骸化せず、定期的に見直しを行っているか
これらのチェックを定期的に行うことで、合理的配慮がハラスメントに誤解されるリスクを減らし、健全な職場環境づくりにつながります。
●まとめ
合理的配慮とハラスメントは紙一重の課題です。
だからこそ、役職者が「自分のメンタルを整える力」と「信頼関係を築くスキル」を持ち、職場全体で理解を深めることが必要不可欠です。
チェックリストを活用しつつ、実践的に学べる研修を導入することで、御社の職場に安心と信頼を育むことができます。
そしてハラスメントを未然に防止するには「セルフケア」「信頼関係」「職場全体への説明」が不可欠です。
企業での研修を通じて、役職者が冷静かつ適切な判断と対応を行えるようになることが重要になります。
もし御社で「合理的配慮をどう実施すべきか迷っている」「ハラスメント防止研修は効果が薄いと感じている」といった課題をお持ちであれば、ぜひ今回の記事を踏まえて対策を検討してみてください。
このコラムを書いたプロフェッショナル
伊庭 和高
株式会社マイルートプラス代表取締役
「若手社員の休職・離職」「管理職のメンタル不調」「自律社員の育成」「カスハラ・クレーム対策」「パワハラ対策」…これらすべて、7,000名以上のお客様をサポートする中で導き出した自力でメンタルを立て直す3ステップで解決できます。
伊庭 和高
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得意分野 | モチベーション・組織活性化、安全衛生・メンタルヘルス、マネジメント、コーチング・ファシリテーション、コミュニケーション |
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