2025年、グローバル契約労働法の最新動向と企業への影響

柔軟な働き方は勢いを増す一方で、その動きはグローバル規模に拡大しています。
シンガポールの最新調査では、雇用主の約3分の1(31%)が今年、非正規スタッフの活用を増やす予定と回答しました。これは昨年の数字の倍以上にあたります。
フラクショナルCFO、オンデマンド開発者、プロジェクトマネージャーなど、さまざまな業界の高度な専門職が、従来の雇用よりも契約ベースの働き方を選んでいます。世界経済フォーラム(WEF)によると、世界のギグエコノミーは2033年までに2.1兆ドルに達すると予測されています。この変化の大きさは、今年6月にジュネーブで開催された第113回国際労働会議の議題にも大きく取り上げられました。
柔軟な働き方をする人材の増加は、もはや一時的なトレンドではありません。それがこれからの主流です。ただし、法制度も同じスピードで変化しています。
2025年に入って、各国は業務委託契約者(IC)に関する規制を強化しています。
一部の国では、フリーランサー、コンサルタント、ギグワーカーなどの自営業者への権利を拡大
他の国では、従業員として誤分類されているケースの取り締まりを強化
国際企業にとって、この変化はリスクであると同時に、機会でもあります。
本コラムでは、法令遵守を維持しつつ競争力を高めるために知っておくべきポイントを整理してご紹介します。
アメリカ大陸:分断されたルールと高まるリスク
2025年の業務委託契約者(IC)分類に関して、アメリカ大陸では法的明確性と混乱が混在しています。
米国では、連邦政府が2024年により厳格なIC分類テストを導入しましたが、2025年には施行を控える方針を発表しました。その結果、企業は州ごとに異なるルールに対応する必要があります。州ごとにルールがすでに強化されている場合も多く、複数州での採用に一律の対応策は通用しません。
一方、ラテンアメリカ(LATAM)では、契約者の正式化に向けた動きが強まっています。チリやアルゼンチンでは、契約者保護を強化し、契約書の言語や条件を明確化する法律が施行されました。税務責任、業務範囲、紛争解決手段などの透明性が求められています。
ブラジルでは不確実性が支配的です。最高裁がIC分類に関する訴訟を一時凍結しており、これは今後の構造的な改革の前触れとも考えられます。ブラジルで事業を行う企業は、最新動向を注視し、遡及的な変更に備える必要があります。
まとめ:アメリカ大陸全体で見ると、規制の分断が常態化しています。企業は現地に適した法的に正しいIC運用フレームワークを構築し、法改正に応じて柔軟に対応できる体制が求められます。
米国
- 2025年の主な変更:労働省による厳格な6要素ICテスト導入
- 現状:施行中だが執行は控えめ
- 主なリスク/要件:州ごとのルール適用:契約書作成、迅速な支払い、透明性の確保
チリ
- 2025年の主な変更:契約書に明確なIC条項を義務化
- 現状:執行中
- 主なリスク/要件:業務範囲、税務条項、紛争解決条項を契約書に含める必要あり
アルゼンチン
- 2025年の主な変更:チリ同様:契約者保護の拡大と契約書要件強化
- 現状:執行中
- 主なリスク/要件:契約形態、税務義務、労働者権利について明確な文書化が必要
ブラジル
- 2025年の主な変更:最高裁がIC分類訴訟を一時停止
- 現状:法的宙ぶらりん状態
- 主なリスク/要件:全国規模の改革に備える必要あり。遡及的影響の可能性も
ヨーロッパ:雇用が前提となる世界
2025年、欧州連合(EU)とイギリス(UK)は、業務委託契約者(IC)の法的地位を大きく再構築しました。
EUでは、プラットフォームワーカー指令(Platform Workers Directive) により、契約者は「独立」ではなく雇用が前提とみなされるようになりました。企業は、契約者が単に従業員の役割を担うのではなく、実際に独立した事業者として活動していることを証明する必要があります。アイルランド、スペイン、オランダなどの加盟国はすでに国内法への実装を進めています。
UKでは、2025年4月に施行された改革により、雇用の定義が再定義され、税務や報告義務が新たに課されました。すべての企業が影響を受けますが、特にプラットフォーム型企業(運輸、デリバリー、テック分野など)は規制当局の厳しい監視下に置かれています。
大きなポイント
ヨーロッパでは、契約者の自由があるからといって、企業が責任を免れるわけではありません。証明責任の所在が企業側にシフトしており、その変化は急速に進んでいます。
EU
- 2025年の主な変更:プラットフォームワーカー指令:契約者は雇用が前提とみなされる(独立性を証明しない限り)
- 現状:加盟国で迅速に実装中
- 主なリスク/要件:契約者が業務委託であることを企業が証明する責任がある
UK
- 2025年の主な変更:2025年4月施行:雇用定義の再定義、税負担増、報告義務追加
- 現状:2025年4月より施行中
- 主なリスク/要件:規制強化とコンプライアンス遵守が必須。特にプラットフォーム型企業への影響大
アジア太平洋地域:個人事業主の分類が精査対象に
アジア太平洋(APAC)地域では、各国政府が業務委託契約者(IC)の定義、契約形態、課税方法にますます注目しています。特に、テクノロジー業界、プラットフォーム型ビジネス、そして輸出産業が焦点となっています。
オーストラリアでは、契約書の文言だけではなく、実態を重視する方針へとシフト。裁判所は、業務上のコントロールの度合いや依存関係、事業への統合度を総合的に判断します。
シンガポールは、プラットフォーム労働者への社会保障拠出を義務化し、監査頻度も引き上げました。
インドや中国では、特に高成長の輸出産業を支えるフリーランスに対して、より厳格な税務・報告要件を導入しています。
一方ニュージーランドは、「特定契約者(specified contractor)」という新たな分類を試験導入中で、独立性と法的明確性のバランスを取る新しい枠組みとして注目されています。
要点: APAC各国は、より明確な分類基準と、実態に即したドキュメント整備を求めています。契約内容だけでなく、業務運営そのものが法令遵守しているかが重要です。

最大のリスク:誤った分類(ミスクラスフィケーション)
細かな法律の違いに目を奪われがちですが、根本的な問題はとてもシンプルです。契約上は「独立した業務委託」でも、実態が従業員と同じであれば、法律もそう判断する可能性があります。
誤分類(ミスクラスフィケーション)が起こるのは、例えば次のようなケースです。
- 業務の進め方、時間、場所を会社が細かく指示している
- そのIC(Independent Contractor)が他に顧客を持っていない
- 事業の成否がそのICの成果に大きく依存している
こうした場合、以下のようなリスクが発生します。
- 過去にさかのぼった給与税や社会保険料の支払い義務
- 訴訟や政府機関による監査
- 顧客や人材市場における評判の低下
誠実にビジネスを行っていても、こうした落とし穴にはまる企業は少なくありません。特にグローバルに事業を展開している場合、その影響や負担は何倍にも膨らみます。
見えない税務リスク:「恒久的施設(PE)」の落とし穴
新しい市場を試すために業務委託を活用するのは、スピーディーでコスト効率も高く、柔軟な手段に思えます。しかし、もしその業務委託者の業務が企業の中核活動と見なされれば、たとえ現地法人を設立していなくても、その国で「恒久的施設(PE)」が存在すると税務当局が判断することがあります。
その場合に起こりうるのは:
- その国での法人税課税対象になる
- 所得申告漏れによる罰金
- 継続的な税務監査の対象になる
わずか一人の業務委託者の雇用が、遠く離れた国での想定外の税務負担につながる可能性もあります。正しい契約・構造を整えなければ、それは十分に現実になり得ます。
知的財産(IP):「当然に自社のもの」とは限らない
業務委託者が作成したコード、デザイン、コンテンツなどは、契約で適切に権利譲渡を明記しない限り、法律上は製作者本人の所有物になる場合があります。「お金を払ったのだから当然自社の権利になる」と思い込むのは危険です。
解決策のひとつ:AOR(Agent of Record)の活用
グローバルな業務委託管理は、誠実な姿勢や一般的な契約知識だけでは不十分です。各国の法律や税制に精通し、確実に実行できる体制が必要です。
AOR(Agent of Record)は、第三者として以下を担います。
- 業務委託者の契約・支払い代行
- 各国の労働者分類ルールの遵守
- コンプライアンスに適った契約書作成
- 適正な税務処理の実施
- 知的財産・データ保護
AORを活用することで、企業はリスクを回避しつつ、業務委託者にとってもより良い契約・支払い手続きを行えます。
最後に:正しく対応しなければ、すべてを失うリスクも
柔軟な働き方の広がりとグローバルな業務委託の増加は、企業にとって魅力的な流れです。しかし、その一方でリスクも伴います。
2025年、各国が労働・契約制度の見直しを進める中で、はっきりしているのは、「すべてに共通する正解は存在しない」ということです。ある国で合法なやり方が、別の国では監査や法的トラブルを引き起こす可能性もあるのです。
もし、貴社のビジネスがグローバル展開の中で外部のプロフェッショナル人材(独立系人材/フリーランス)に依存しているなら、今こそ戦略を見直すタイミングです。
正しい労働者の分類を行い、契約内容を万全に整備し、恒久的施設(PE)の認定リスクを避けましょう。そして何より、現地法に精通し、確実かつコンプライアンスを守って運用できる専門パートナーと連携することが不可欠です。
グローバルな人材活用においては、細部こそがすべて。
見落としが、ビジネス全体に大きな影響を与える時代です。
本コラムで提供する内容は、一般的な情報提供のみを目的としたものであり、法的助言と見なすべきものではありません。今後規制が変更されることがあり、情報が古くなる可能性があります。GoGlobalおよびその関連会社は、本コラムに含まれる情報に基づいて取った行動または取らなかった行動に対する責任は負いかねます。
このコラムを書いたプロフェッショナル
沖室 晃平
GoGlobal株式会社 代表取締役
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得意分野 | 人材採用、グローバル |
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対応エリア | 全国 |
所在地 | 渋谷区 |
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