兼業・副業がもたらす人材マネジメントの新たな可能性
5月20日に開催された「新しい資本主義実現会議(第7回)」で、政府が主要テーマとしている「多様な働き方」の一つとして、「兼業・副業」が取り上げられました。(※1)
日本の競争力向上や従業員エンゲージメントの観点から、兼業・副業を推進すべきとの声が、多くの有識者委員から上がりました。
いっぽう、昨年実施された調査によると、企業における正社員の副業容認率は55.0%で、コロナ禍以前の前回調査(2018年)と比較しても4%弱の微増にとどまっています。(※2)
正社員の副業者も9.3%で前回より1.6%減少するなど、実際の導入が進んでいるとは言い難い状況です。
兼業や副業というと、企業側の人材不足や従業員個人の収入の補填策として、あるいは定年再雇用やミドルシニア層のセカンドキャリアの一環として保守的に語られることが多く、過重労働や競合他社への情報漏洩など、リスク管理の面から取り扱われがちです。
先の調査で、企業が副業を禁止する一番の理由が「自社の業務に専念してもらいたい」であるのも、現状維持を求める意識の表れなのでしょう。
では、兼業・副業に本当にメリットはないのでしょうか?
テレワークや柔軟な労働時間制度により私たちの「働き方」の多様化が進むにつれて、時系列的な積み重ねである「キャリア」の観点でも、今後ますます多様化することが想定されます。
自社だけでのキャリア形成に拘らず「異なる環境で新たなスキルを身に着けたい」という成長ニーズや、会社員でありながらも「個人としてのキャリアを蓄積していきたい」というキャリア自律の高まりは、働き方の変化と共に、特に若い世代や優秀人材の潜在意識に根付き始めているように思います。
兼業・副業は、こうした個人キャリアの多様化ニーズを社内に籍を置きながらにして実現することができ、転職や起業といった大きな決断やリスクを伴うことなく、段階的なキャリア開発を可能にします。
企業にとっても、意欲ある優秀人材のリテンションとして機能するだけではありません。
外部で蓄積されたスキル・人脈が本業に活かされ、自社にはない多様な視点から会社の現状を捉え直すことで、新規事業開発や社内改革へのきっかけになる、というポジティブな効果も見込めます。
実際に積極的な導入が奏功した企業事例も出てきており、社内人材の教育・育成にコストを十分かけられない企業にとっても、イノベーションの起爆剤となる可能性が期待できます。
先述のリスクのほか、転職リスクなどの本業へのネガティブ要素が、兼業・副業の制度導入のボトルネックであることは事実です。
その点留意しながら、兼業・副業する従業員の働き方をむしろ積極的にコミットし支援することで、本業に対するデメリットを抑えプラスの影響をもたらすことに成功した事例も多数報告されています。
兼業・副業の導入が、個人のキャリア形成と働きがいを後押しし、同時に企業活力を高めるための、人材マネジメント上欠かせない選択肢となる日も、そう遠くないのかも知れません。
(※1)新しい資本主義実現会議(第7回)
(※2)第二回 副業の実態・意識に関する定量調査(株式会社パーソル総合研究所)
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古崎 篤(フルサキ アツシ) アクタスHRコンサルティング(株) /アクタス社会保険労務士法人 人事コンサルタント
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