年休消化義務化はまだ「序の口」?(後編)
前回のコラムでは、年5日の年休消化義務化は、政府目標の「2020年に70%」に対して、足掛かり的な法改正にすぎないことを解説しました。今後、更なる取得促進が企業に要請されることを想起した場合、どのような手立てを考えるべきなのでしょうか。今回は、そのあたりを探っていきます。
ここで改めて考えてみましょう。そもそも取得率が低い要因は何なのでしょうか。意外なことに、正社員への調査(※)で年休を取り残す理由は、「病気などに備えるため」が60.6%で最も高く、次いで「休むと周囲に迷惑をかけるから」が60.2%、「仕事量が多すぎで休んでいる余裕がないから」が52.7%と続いています。つまり、仕事の忙しさや周囲へのためらいよりも、年休の使い方に問題があるのです。
諸外国で年休の取得率が高いのは、休暇とは「仕事から離れ心身ともにリフレッシュするもの」という意識が根付いているためでしょう。これに対し、日本では「病気など不測の事態があったときに充てるもの」という予備的な権利になってしまっており、理由もなく休暇を与えられても「休み方が分からない」に陥ってしまうわけです。
このことから、休み方のモデルを社内に提示していくことが、取得率を底上げする有効な策になることが、見えてきます。例えば、本人や家族の誕生日、結婚記念日、子供の学校行事への参加など、社員にとって大事な日に休暇取得を奨励し、(病気ではなく)こういうときに使うべきと擦り込んでいくのです。昨年から、大人と子供がまとまった休日をすごせるように、地域ごとに学校の夏休みなどを分散化する「キッズウィーク」が公立学校で義務化されました。これも、国による休み方モデルの一つの提示です。
それでも、「病気で使える分がなくなってしまう」と躊躇する社員もいるでしょう。そのような声に対しては、時効消滅する年休を、病気やケガなどの目的で使えるよう積み立てておく「積立年休(保存年休)」を導入するのも一案です。休暇の使い方モデルを示しながら取得しやすい仕組みを導入する、このようなアプローチこそが取得率を高める「休み方改革」の第一歩になると言えるでしょう。
※独立行政法人労働政策研究・研修機構「年次有給休暇の取得に関する調査2011」
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宮川 淳(ミヤカワ アツシ) アクタスHRコンサルティング㈱/アクタス社会保険労務士法人 シニア人事コンサルタント
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