生活残業
生活残業とは?
「生活残業」とは、生活費を稼ぐため、意図的に残業することです。長時間労働が常態化する原因の一つであり、働き方改革が推進される現在、解決すべき問題に挙げられています。一見、労働者側の都合のように見えますが、生活残業が行われる背景には、日本の企業特有のものがあるようです。
1. 生活残業とは
生活残業とは、残業代を稼ぐために意図的に増やす残業のことです。しかし給料が増えても、残業をすることでプライベートの時間を持てなくなったり、健康を害したりする可能性があります。また、効率的な働き方をしなくなることで自身の成長機会を失うなど、長期的なデメリットは少なくありません。
2018年6月に国会で働き方改革関連法が成立し、労働時間の上限規制が設けられました。残業時間を削減する流れはできていますが、残業代を見越して生活のやりくりをしている従業員は多く、容易に抑止できないという実情があります。
2. 生活残業の実態
生活残業が生じる原因には、従業員側のやむにやまれぬ事情や、企業の雰囲気があるようです。ここでは、生活残業の実態がどのようになっているのか見ていきます。
生活残業の経験は約4割
マイナビニュースが2016年に304名を対象に実施したアンケートによると、生活残業をしたことがあると答えた人は全体の40.8%でした。
基本給だけでは生活できない背景も
同アンケート調査によると、生活残業をする理由として、「給料が安い」「生活が苦しい」「お金が必要だった」「少しでも稼ぐため」という回答が寄せられています。基本給だけでは生活が苦しいという意見が多く、お金が必要なときに計画的に生活残業をするという声も上がりました。
生活残業をあてにしてローンを組むケースもある
生活残業をする理由は収入を増やすためですが、なかには生活残業をあらかじめ見込んだ上で収支計画を立てているケースもあります。例えば、住宅ローンなどの長期返済において、固定収入のなかに残業代を含めているケースも見られます。
労働時間を評価軸にする組織風土の影響
生活残業は、従業員側だけが引き起こしているわけではありません。従来の日本では「勤務時間の長さ=労働意欲の高さ」といった考えが肯定されてきた背景もあり、残業しやすい環境や風土があることも問題の根底にあります。長時間働くことに価値を置く企業では、「定時で帰ると出世が遠のく」「社内で孤立しないように残業する」という風土が生まれやすくなります。
3. 働き方改革と生活残業
働き方改革によって残業時間の上限が定められるなど、生活残業の削減には追い風となっています。
残業時間の上限が年間360時間に規制
働き方改革により、労働時間の上限規制が設けられました。大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から施行されています。一人あたりの残業時間の上限は原則月45時間、年間360時間で、臨時的かつ特別な事情がない限り、上限を超えることはできなくなりました。
例外が認められる場合でも、年間で720時間以内、複数月の平均残業時間は80時間以内、月100時間未満でなくてはならないと定められています。また、月45時間を超える残業ができるのは6ヵ月間までです。なお、月80時間の残業時間を1日あたりにならすと4時間程度の残業時間となります。
これに違反した場合は、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があるため注意が必要です。
残業時間の上限規制により2.6%の収入ダウン
みずほ総合研究所は、総務省による労働力調査および厚生労働省が公表している毎月勤労統計を基に、働き方改革によって残業時間の規制が適用された場合の賃金変動を考察したデータを発表しています(2018年3月)。
月平均60時間を超える残業が一律に削減されたと仮定すると、雇用者一人あたりで月に約7万2,000円、年間で約86万7,000円の賃金が減少すると算出しました。総額で考えると年間約5兆6,000億円となり、労働者の報酬で見ると平均2.6%の減少になります。
所得維持のためには3%以上の賃上げが必要
同調査では、残業削減による収入減をカバーするには所定内給与の換算で3.4%以上の賃上げが必要と算出しています。ただし、この数字は全体の平均値を出しているため、業種別に見ていくと、さらに高い賃上げが必要な業種もあります。例えば、残業が多い業種に挙げられる運輸・郵便業や宿泊・飲食業の場合、所定内給与でカバーするには7%以上の賃上げが必要になります。
4. 生活残業の対策
従業員にも企業にも悪影響を及ぼす生活残業ですが、どのような対策を講じると防ぐことができるのでしょうか。
基本給を上げる
生活苦を理由に「仕方なく」生活残業する人は少なくありません。収入を増やすには残業時間を増やすしかない、という思考になってしまうこともあります。
これを改善するには、基本給を増額して全体的に賃金の底上げを図るという方法があります。一見、販管費が増えるように思えますが、これまで行われてきた生活残業がなくなれば、残業代の代わりに基本給を引き上げるという考え方が可能です。また、生活残業の実態として生産性に結びついていないことを鑑みると、残業代を支払うよりも賃金を底上げするほうが、従業員のモチベーション向上につながるという見方もできます。
単に残業を禁止するだけでは、これまで残業代を得ていた従業員の収入が減り、モチベーション低下を招くだけという結果も想定されます。生活残業対策においては、従業員の収入への配慮が必要になることを理解しておきましょう。
利益向上の仕組み化を検討する
決められた時間の中でパフォーマンスを最大化できる組織へ変われば、生産性向上が期待できます。単に時短を推奨すれば良いわけではありません。時間効率を掲げるあまり顧客満足度が低下してしまえば、売り上げ・利益に影響が出ます。結果として、売り上げを上げるために時間を費やすという逆戻りが起こる可能性があります。
従業員のパフォーマンスに頼るだけではなく、利益を最大化するための仕組みづくりを念頭に置いて進める必要があります。
残業時間を管理するアイデア
生活残業が起こる大きな要因は、企業側が従業員一人ひとりの業務量や工数、進捗状況を把握しきれていないことです。その場合、管理体制を整えることに注力しなければなりません。具体的には、以下の方法があります。
従業員一人ひとりの業務量・工数を棚卸して可視化する
業務の属人化は、生活残業が増える原因の一つです。誰が何をどのくらいこなしているのか、工数はどのくらいかかるのかを可視化し、業務に偏りがある場合は調整します。進捗管理が可視化されれば、遅れが出た場合にも残業でカバーするのではなく、別の方法を見出すことが可能になります。
アウトプットを評価する
生産性向上の観点では、成果と評価を連動させる成果主義を取り入れる方法があります。意図的に残業をしても評価にはつながらないという意識を醸成する上でも有効です。ただし、これらの制度改正は従業員の現状を把握した上で、効果的かどうか十分に検証する必要があります。また、導入に際しては、従業員の理解と納得を得るよう努めることが大切です。
残業時間が多い従業員について個別にヒアリングする
残業が常態化している従業員については、個別にヒアリングして改善策を検討します。人事や労務管理担当のみで対応していくには限界があるため、直属の上司との1on1ミーティングなどを活用するのも良い方法です。
フレックスタイム制の導入や人事評価制度の見直し
仕事の効率化という観点では、状況に応じてフレックスタイム制を導入するという方法もあります。特に、チームでの頻繁なコミュニケーションを必要とせず、個人で進めていく仕事であれば、出退勤時間を見直すことで残業時間の削減につながることがあります。
5. 生活残業対策には仕組みづくりが重要
生活残業は、企業と従業員の双方にデメリットをもたらします。とはいえ、従業員が残業代に依存している状況下で、収入が激減するような方向にかじを切るのは企業側にとってもリスクが大きくなります。
生活残業を減らすには、従業員が安定的に生活できるような経営基盤づくりを進める必要があります。働き方改革により、残業時間に上限が定められました。従業員が生活残業に頼らずに済む環境を整えるとともに、決められた時間内でパフォーマンスを最大化するための取り組みは、今や優先すべき経営課題といえるでしょう。
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