企業研修、採用、評価、人材開発、労務・福利厚生のナレッジコミュニティ

【ヨミ】ゼンジンカクロウドウ 全人格労働

「全人格労働」とは、人生の一部であるはずの仕事に自分の全人生や全人格をつぎ込んでしまうような、破滅的な働き方をいう言葉です。産業医の阿部眞雄氏は2008年に著した『快適職場のつくり方 イジメ、ストレス、メンタル不全をただす』の中で、この概念を提示し、全人格労働が日本の社会に少しずつ広がっていると指摘しました。賃金やポストの上昇といった見返りが少ない職場が増えていることに加え、競争の激化や業績へのプレッシャー、解雇の恐怖などから、否応なしに過重労働に追い込まれ、仕事に人間らしさを奪われてしまう状態を表します。その結果、正しい判断ができずに道を誤ったり、心身を病んで休職・退職を余儀なくされたりする人も少なくありません。
(2016/5/27掲載)

全人格労働のケーススタディ

仕事に人生すべてを奪われる過重労働
成果も見返りも乏しく疲弊だけが増幅

今年1月、東京都足立区のJR綾瀬駅でホームから人が転落したため、同駅の300メートル手前で電車が緊急停止していたところ、車内にいた40代男性会社員が手動でドアを開けて線路に降り、綾瀬駅に向かって歩き出すという出来事がありました。男性の行為で、JR常磐線や直通運転している東京メトロ千代田線も、一部区間で最大1時間運転を見合わせ、10万人以上の足に影響が出ました。男性は鉄道営業法違反に問われ、損害賠償も免れないといいます。このニュースが報じられたとき、同時に大きく取り上げられたのが「全人格労働」という言葉でした。

全人格労働とは、労働者が自らの全人生や全人格を業務に投入する働き方をいいます。報道によると、その男性は、電車を降りて線路を歩いた理由を「会社で大事な会議があり、遅れられなかったからだ」と説明しました。社会の当然のルールよりも、「大事な会議」という会社の論理を優先させた男性に対して、ネット上では「まさに社畜」「日本社会の狂気を凝縮したような話だ」といったコメントが殺到。「全人格労働」の典型例として、注目を集めたのです。

本来、仕事は人生の一部のはずなのに、働く時間内だけでなく、人生や生活のすべてを仕事に奪われて、自分自身が壊れてしまう――「全人格労働」の問題は、行き過ぎた効率主義や成果主義、顧客至上主義を背景に、長時間労働やサービス残業がはびこり、人々の働き方に大きなゆがみが生じていることを示しています。

右肩上がりの高度成長期やバブル絶頂期とは違い、そこまで仕事に人生をかけても報酬やポストは期待できず、成果も上がりにくい。それどころか、リストラの不安さえある。働く人はただ消費され、疲弊が増幅するばかりなのです。

厚労省は昨年5月、労働基準法に違反する企業の公表基準を変更し、一定の条件がそろえば、行政指導だけでも社名を発表するように、全国の各労働局に通達しました。しかし新基準が初めて適用されたのは、今年5月になってから。通達から1年経っても、社名公表はわずか1社にとどまっています。「全人格労働」は全国の職場で、ひそかに、自覚のないまま広がっているのかもしれません。

記事のオススメ、コメント投稿は会員登録が必要です

あわせて読みたい

縁辺労働力
「縁辺労働力」とは、経済情勢の変動に影響されて労働市場への参入と退出を繰り返し、労働力になったり非労働力になったりする就業形態が不安定な層のことです。具体的には、パートタイマー・派遣労働者・臨時工などを指します。これに対し、終身雇用であるなど学校卒業から定年退職まで常に労働市場の内部にいて、経済情...
QWL
「QWL」とは、Quality of Working Life(クオリティ・オブ・ワーキングライフ)の略で、日本語では「職場における勤労生活の質およびその向上に資する取り組み」を意味します。労働の機械化、標準化、画一化の推進が労働者におよぼす弊害――人間性の喪失や健康・精神衛生への悪影響を緩和するた...
感情労働
「感情労働」とは、アメリカの社会学者A.R.ホックシールドが提唱した働き方の概念で、感情の抑制や鈍麻(どんま)、緊張、忍耐などを不可欠の職務要素とする労働のことです。体力を使って対価を得る「肉体労働」やアイデアなどを提供する「頭脳労働」に対して、感情労働に従事する者はつねに自分自身の感情をコントロ...

関連する記事

「2010.4 改正労働基準法」施行を前に、 人事担当者が考えておくべき「人事管理システム」とは?
来る2010年(平成22年)4月1日、いよいよ「労働基準法の一部を改正する法律」(改正労働基準法)が施行される。長時間労働を抑制し、働く人の健康確保や仕事と生活の調和を図ることを目的としたこの法律。
2009/06/30掲載注目の記事
「働き方改革」推進に向けての実務(1)同一労働・同一賃金など非正規雇用の処遇改善
ここでは「働き方改革」の代表的な施策についてその目的・課題と実務上のポイントを整理する。
2017/03/31掲載よくわかる講座
森永卓郎さん 人事部主導の「成果主義」は暴走する
成果主義を導入して「失敗した」という企業の舞台裏を描いた本がベストセラーになったり、これまで成果主義を肯定的に報道してきたのに反対する方向へ変わったメディアもあったり……ともかく、この新しい雇用システムに対する見方はいまだ定まっていません。社員の動機づけや価格...
2004/11/15掲載キーパーソンが語る“人と組織”

関連するQ&A

36協定
36協定は、時間外労働と休日労働を分けて協定するようになっていますが、休日労働の時間数は、時間外労働の時間数に算入しなくて良いのでしょうか?
徹夜労働について
休前日から翌日(休日)にかけて徹夜労働をさせた場合の質問です。 ①例えば翌日の朝9:00まで労働させた場合、夜中0:00から朝9:00までの間は、前日の労働時間とみなされると思うのですが、その時間分の時間単価は、休日労働の135%になるのでしょうか?それとも前の日からの労働時間として125%でよい...
時間外・休日労働時間について
長時間労働者への医師の面接指導に関する1ヶ月の時間外・休日労働時間を、36協定の1ヶ月の時間外労働・休日勤務時間として扱っても良いでしょうか。お手数ですがご教授下さい。
新たに相談する
相談する(無料)

「人事のQ&A」で相談するには、『日本の人事部』会員への登録が必要です。

新規登録する(無料) 『日本の人事部』会員の方はこちら
業務に関するちょっとした疑問から重要な人事戦略まで、
お気軽にご相談ください。
各分野のプロフェッショナルが親切・丁寧にお答えします。

関連するキーワード

分類:[ 就業管理 ]
分類:[ 安全衛生 ]

注目のキーワード解説をメールマガジンでお届け。

Withコロナ時代は社内研修をオンライン化! 「よくわかる人事労務の法改正」ガイドブック無料ダウンロード

50音・英数字で用語を探す

注目コンテンツ

【人事の日制定記念企画】
オピニオンリーダーからのメッセージ

HR領域のオピニオンリーダーの皆さまから全国の人事部門に向けてメッセージを頂戴しました。


人事メディア情報

人事メディア情報

人事・労務関連の代表的なメディアをご紹介いたします。


企業が社員の「睡眠改善」に取り組む時代<br />
働くひとのための「眠り方改革」とは

企業が社員の「睡眠改善」に取り組む時代
働くひとのための「眠り方改革」とは

睡眠改善への取り組みが今、注目を集めています。健康への影響にとどまらず...