弱い紐帯の強み
弱い紐帯の強みとは?
「弱い紐帯の強み」とは、米国の社会学者マーク・グラノヴェッターが発表した社会的ネットワークに関する仮説です。グラノヴェッターによれば、新規性の高い価値ある情報は、自分の家族や親友、職場の仲間といった社会的つながりが強い人々(強い紐帯)よりも、知り合いの知り合い、ちょっとした知り合いなど社会的つながりが弱い人々(弱い紐帯)からもたらされる可能性が高いといいます。これを「弱い紐帯の強み」の理論と呼びます。
新規開発やイノベーション推進に必須
有益な情報は“親しくない人”がもたらす
「弱い紐帯の強み」の概念が示されたのは1973年。米スタンフォード大学のマーク・グラノヴェッター博士の同名論文『The strength of weak ties』によって発表されました。社会的つながりが緊密な人より、弱い社会的つながりを持つ人のほうが、有益で新規性の高い情報をもたらしてくれる可能性が高い――「弱い紐帯の強み」と呼ばれるこの傾向は、案外、多くの人が感覚的・経験的に理解しているところではないでしょうか。
例えば、家族や業界人同士など自分と強いつながりを持つ人たちは、同じような環境、生活スタイル、価値観を持つ場合が多く、そのため、情報入手ルートも重なりがちです。そこから得られる情報は自分の手持ちの情報と同じか、たいして代わり映えしないことが少なくありません。一方、自分とのつながりが弱い相手は、自分と異なる環境や生活スタイル、価値観を持つため、自分が知り得ない、それゆえに新規性が高く有益な情報をもたらしてくれる可能性が高いというわけです。
この仮説は、企業と労働者のジョブマッチング・メカニズムを明らかにするための実証実験によって導き出されました。グラノヴェッター博士は1970年、米ボストン郊外に住むホワイトカラーの男性282人を対象に、就職先を見つける際に役立った情報の入手経路を調査しました。その結果、調査対象者のうち16%は、会う頻度の高い人、つまり社会的つながりの強い人からの情報で仕事を得ていましたが、残り84%はまれにしか会わない、社会的つながりの弱い人からの情報で就職していたことを見出したのです。また、そうした「弱い紐帯」からの情報で就職した人のほうが、満足度が大きいことも明らかになりました。
グラノヴェッター博士は、「弱い紐帯」は「強い紐帯」同士をつなぐ“ブリッジ”として機能し、価値ある情報が広く伝わっていく上で非常に重要な役割を果たすと述べています。強い紐帯で結ばれるコミュニティーは同質性や類似性が高いため、求心力ばかりが働きがち。その結果、コミュニティーは孤立し、新たな情報が入りにくくなるのです。確かに親しい相手とは、会う機会こそ多いものの、たわいもない話題を交換しているだけということが多いのではないでしょうか。こうした風通しの悪さを打開し、新たな情報を入手して広く共有するためには、閉鎖的なコミュニティー同士を結びつけるブリッジとして、「弱い紐帯の強み」を活かす必要があるのです。
「弱い紐帯の強み」の考え方は、企業の組織づくりにも大きな影響を与えています。新規開発やイノベーションの推進を目的として、組織横断的なプロジェクトチームを作ったり、異業種から人材を集めたりすることが多いのは、弱い紐帯のメンバーを取り入れることで多面的な情報交換が可能になり、同一組織だけのメンバーでアプローチするよりも、高い創造性が発揮されると考えられるからです。この概念の典型的な応用例の一つでしょう。
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