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【ヨミ】ソシキフウド

組織風土

組織風土とは?

組織風土とは、組織のなかで自然に形成され、時代を経ても継承される独自のルールや習慣をいいます。従業員のモチベーションやパフォーマンスに大きな影響を与えます。
 
変化の早い市場に合わせ、強い組織を作るため、組織風土改革に取り組む企業は少なくありません。具体的な取り組みとしては、組織風土改革に取り組む専門チームの設置や、経営方針に沿った人事戦略・行動指針の策定、従業員のコミュニケーションを活性化させる施策などが挙げられます。
 

掲載日:2023/09/21

組織風土とは

組織風土とは、組織や従業員間で自然に形成された、共通認識や独自のルール、習慣を指します。時代を経て継承されていく点が特徴です。組織風土は、従業員のパフォーマンスやモチベーションに大きく影響します。

似た用語として、「組織文化」があります。組織文化とは、組織や従業員間で共有されている暗黙の行動規範や規則、価値観のこと。計画的にデザインすることができる点で、組織風土とは異なります。

組織風土を構成する要素

組織風土は、どのように醸成されるのでしょうか。組織風土を生み出す要素は、さまざまな角度から研究されてきました。たとえば、社会安全研究所の吉田佳絵氏と慶應義塾大学の高野研一氏によると、パフォーマンス向上に寄与する組織風土の尺度は、四つの因子「会社方針の明示」「職場の良好な雰囲気」「個人の主体的な態度」「職場の無秩序さ」から構成されます。

【因子の例】
  • 会社方針の明示:経営の姿勢・方針・決定は迅速に知らされ、無理なく受け入れられる
  • 職場の良好な雰囲気:周囲に向上心の高い人が多く、互いに刺激し合っている
  • 個人の主体的な態度:自ら課題を発見し、上司に提案するよう努力している
  • 職場の無秩序さ:仲間同士の競争意識が高く、互いに足を引っ張り合うような雰囲気である。ミス・トラブルなど都合の悪い情報や事実は責任を追及されるので、ゆがめて上司に伝えられる

また、内閣府の価値共創タスクフォースが2019年に発表した「ワタシから始めるオープンイノベーション」では、オープンイノベーションに適合的な風土として、9項目が挙げられています。

  1. メンバーが達成したい大きな目的を共有し、その達成に向けた情熱がある
  2. 自らの存在目的に向けて進化し続けようという意識がある
  3. メンバーの多様性が尊重される
  4. 主体性が尊重される
  5. 感性が尊重される
  6. 挑戦が奨励され失敗が許容される
  7. 自由な発言、行動を阻害するようなヒエラルキー・権威や否定的態度がない
  8. 言いたいことが言える
  9. 参加者が自分は完全だと思わず、新しいことや奇異なことに関心を向ける

風土が組織に及ぼす影響

組織風土は組織にどのような影響をもたらすのでしょうか。個人のモチベーションが向上して業績に良い影響を与えることもあれば、不祥事につながることもあります。

内閣府の「ワタシから始めるオープンイノベーション」によると、挑戦が推奨され失敗が許容される風土では、従業員個人が新しい物事に果敢にチャレンジするため、新規ビジネスの提案が出やすくなるといいます。

これは、組織風土がもたらす良い影響です。このような組織風土では、たとえ失敗しても、挑戦した過程を含めて評価されるため、従業員がモチベーションを保ちやすく、競争力の強い企業を作ることにつながります。

一方、組織風土がもたらす負の影響もあります。たとえば失敗が許されない風土だと、従業員が失敗を隠ぺいし、それが不祥事につながる可能性も考えられます。

急速に変わる消費者のニーズや新しく登場する技術に適合するため、企業には柔軟かつ迅速に変化することが求められています。予測不可能な時代を生き残るために、組織風土改革に取り組む企業が増えています。

組織風土改革の成功事例

組織風土改革の成功事例を紹介します。

キリン

キリンでは、従業員一人ひとりが主体的に挑戦する組織風土があるエンゲージメントの高い組織を目指しています。

【取り組み例】
・働きがい改革
働き方(How)の見直しに留まらず、自らの仕事そのもの(What)の意義や目的を見直し続けています。一人ひとりが「働きがい」を実感することにより、「生産性」「創造性」「個の充実」を高めることで、会社と従業員双方が持続的な成長を実現しています。

・有志の団体で立ち上げられた「キリンアカデミア」
挑戦思考の風土を作りたいという思いのもと、若手社員4人が立ち上げた「キリンアカデミア」。業務時間外で、年齢や場所を問わない学びを共有する場として、社員の学びを促進するためのオンラインセミナーや新規事業立案ワークショップ、メンタリングなどの企画を実行しています。約1年間で10組のメンタリングを実施したほか、200人以上がビジネスチャットツール「Slack」のプラットフォームに参加し、20回以上のイベント(パネルディスカッションなど)が行われました。2020年には活動が会社から評価され、社内のアワードを受賞しています。

NEC

NECでは2018年から組織風土改革に取り組んでいます。「収益構造の改革」「成長の実現」「実行力の改革」を柱とした取り組みは、2021年から第2フェーズに突入。多様な人材が活躍する文化の醸成など、さらなる改革を続けています。

【取り組み例】
・カルチャー改革本部の設置
既存部署では通常業務と平行して進めることが難しいため、組織風土変革を中心に行う本部を設置。「人事制度改革」「働き方改革~Smart Work~」「コミュニケーション改革」の三つを柱に据え、部署を横断した取り組みが実現しました。

・2020中計ダイアログセッション
現場の意見を反映させるため、社長と1万人のグループ社員との対話を実施。社長が中計に至ったストーリーを語った上で、オープンに質疑応答を行いました。社員からの厳しい声を受け止め、その後の企業経営計(Project RISE NEC 119年目の大改革)に反映しました。

・新たなHR方針の策定
個人・強いチームをつくるためのHR方針として、「挑戦する人の、NEC。」を掲げました。指針には「多様な挑戦機会」「限りない成長機会」「フェアな評価/次へつながるリワード」「ベストを尽くせる環境/文化」が盛り込まれました。

三井情報

7社が合併して2000人を超える従業員を抱えるようになった三井情報では、グループ全体の一体感の醸成が課題となっていました。「人材基本方針」を策定し、グループ人事と部門人事が連携。経営企画も主体となって全社的に風土醸成に取り組みました。

【取り組み例】
・全従業員参加型風土醸成ワークショップ
社内コミュニケーションの活性化を狙い、経営企画主導でワークショップが年70回行われました。ワークショップでは、全社のスローガン「ナレッジでつなぐ、未来をつくる」を投票で決定しました。また、ワークショップを行うようになってから、エンゲージメントサーベイで従業員満足度が向上しました。

・多様な人材が活躍できる場づくり
「働きやすさ」を促進するため、フレックスタイム、在宅勤務、DE&I、副業制度、健康経営、オフィス環境の整備、健康経営の推進などを実施。また、業務プロセスを改革しようと、業務プロセス簡素化、基幹システム刷新、ペーパーレス化・リモート化を実現しました。

・グループ人事と部門人事の役割分担
三井情報では、グループ人事と部門人事で役割を分担しています。グループ人事は、各部門の育成について相談に乗るとともに、全社育成プログラムを準備し、全社共通の能力開発を担当。部門人事は、グループ人事が手の届きにくい、専門性や個を尊重する対応を行っています。役割を分担したことで、部門独自の教育体系プログラムを作成したり、技術職や営業職など職種に適した学びを研修で提供したりすることが可能です。

カインズ

第3創業期であるカインズは、個の成長と挑戦を促す施策を推進。従業員が主体的に行動し、キャリア自律を実現する組織風土改革を行っています。

【取り組み例】
・企業精神を盛り込んだ人事戦略
同社が掲げる人事戦略「DIY HR®︎」は、「くらしをより良く楽しくすること、生活機能をあげる」という同社のDYI思想を組織文化に浸透させたものです。「DIY CareerPath®︎」「DIY Learning®︎」「DIY Communication®︎」「DIY Workstyle®︎」「DIY Well-Being®︎」の五つの柱を打ち出し、さまざまな取り組みに反映させています。たとえば、DIY Learning®は、キャリアパスを実現するために必要な学びを従業員が選択できます。特徴的な研修の一例として、30年後の未来を描き、今何をすればいいのかを考える「SF思考ワークショップ」があります。

・コミュニケーション促進の1on1
全国に227ある店舗を人事が隔週で巡回し、社員もパートもアルバイトも関係なく、可能な限り全メンバーと1on1を実施。さらに社内に1on1を広めるため、ティーチングアシスタントを100人以上養成中です。

オルビス

オルビスは2018年以降を第二創業期と位置づけ、リブランディングを実施。新たな挑戦が受け入れられる組織風土改革を進めた結果、入社3年の若手層が商品のリブランディングを提案するなど、変化が生まれました。

【取り組み例】
・新たな行動指針の策定
従来の管理型マネジメントが、新たなチャレンジへの障壁になっていたことから、「未来志向」と「オープンマインド」の二つのテーマを掲げ、組織風土改革に取り組みました。行動指針「ORBIS MANAGER STYLE(オルビスマネジャースタイル)」では、「意識してほしい行動」だけではなく、「意識して欲しくない行動」も明文化しました。

・メンバーが上司を評価
行動指針を定着させるために、社内で影響力の大きい人から意識を変わる必要があると考え、メンバーによる上司への評価を3ヵ月に1回実施。行動指針を軸に、メンバーが匿名で評価を行いました。管理職は、結果を内省ツールとして活用。なお、人事評価とは切り離して運用しています。

ポーラ

ポーラは、2017年より「Sense & Innovation(=S&I)」というスローガンの下、組織風土改革に取り組んできました。社内では組織風土に対する意識が高まり、従業員へのサーベイでも「全社的な連帯感」「変化し続ける意識」などの数値が大きく改善しました。

【取り組み例】
・部署ごとのS&Iリーダー
組織風土改革では、組織視点で現状課題を解決する姿勢から脱却し、共感力と創造力を大切にしながら市場視点で一人ひとりがありたい姿を描き、実現へ取り組むことを目指しました。各部門にはS&Iリーダーを配置。全社員の約1/4にあたる約400人がS&Iリーダーを経験し、S&Iの意味の理解浸透と行動促進につながりました。

・個人の取り組みを可視化する「POLAブランディングアワード」
S&Iの精神に根ざしたプロジェクトを称える全社イベント「POLAブランディングアワード」を実施。2016年から2020年の間でのアワードのエントリー数は245件と、活発な取り組みが可視化されました。さらに、アワードでは紹介しきれない細かな取り組みや、海外の現地法人のプロジェクトなどを「POLAブランディングレポート」の冊子で取りまとめました。

湖池屋

湖池屋では、2016年の社長交代以降、リブランディングと組織風土改革に取り組んでいます。目指したのは「指示待ち脱却」「思考力と主体性を身につける」の2点です。

【取組み例】
・ブランドブックの作成
社長就任に合わせ、社員へのメッセージを盛り込んだブランドブックを作成。「イケイケGOGOコイケヤ」という、かつてのコマーシャルのフレーズにあわせて、「新しいほうへ、難しいほうへ、面白い方へ、イケイケ!」と訴えました。チャレンジを推奨し、新しい商品の開発につながりました。

・部署間のコミュニケーション促進
部門間連携の会議体を立ち上げ、担当という固定概念を取り払い、タスクフォース単位でプロジェクトを回す取り組みを実施。異なる部署であっても、互いの仕事を理解することで、部門をまたいで協力しあう風土が強化されました。

組織風土改革のフレームワーク

組織風土改革で活用できる代表的なフレームワークを紹介します。

マッキンゼーの7S

「マッキンゼーの7S」とは、マッキンゼー・アンド・カンパニー社が提唱するフレームワークです。組織構造を「ハードのS」と「ソフトのS」に分解し、問題点を総合的に考えられるようにしています。
・ハードのS:「戦略(Strategy)」「組織(Structure)」「システム(System)」
組織として意思決定できれば、変えられる部分。具体的にはマーケティング戦略の変更や、人事評価の見直しなどが該当します。
・ソフトのS:「価値観(Shared Value)」「スキル(Skill)」「人材(Staff)」「スタイル(Style)」
人の考え方や行動様式に関わるため、強制的に変えることは難しいでしょう。変えるには時間がかかります。
組織風土改革を実施するのであれば、目にみえやすいハード面の変更だけではなく、ソフト面にも着目し、両者を融合させながら推進することが重要です。

レヴィンモデル(解凍→変革→再凍結)変革のモデル

レヴィンモデルとは、組織変革の成功には「(1)解凍」「(2)変革・移動」「(3)再凍結」の三段階が必要だと唱えたものです。「解凍」では、先入観から解放し、変革の必要性を組織メンバーに認識させます。次の「変革・移動」で変革を実行します。目指すべき改革の方向性と具体的な実効策を共有するとともに、効果を検証します。最後に重要なのが「再凍結」です。変革であらわれた変化を組織内に定着させ、組織が前の状態に戻ることを防ぎます。

ジョン・P・コッターの8段階のプロセス

ジョン・P・コッターが提唱した、変革の段階を八つのプロセスに分けたものです。現状を溶かす第1段階から第4段階、新たなルールや方針・変革の内容が導入される第5段階から第7段階、そして変革を組織に定着される第8段階と、組織風土変革に必要なステップが示されています。

  1. 緊急課題であるという認識の徹底
  2. 強力な推進チームの結成
  3. 5分で話せるビジョンの策定
  4. 徹底したビジョンの伝達
  5. ビジョン実現の障害を取り除く
  6. 短期的成果を上げるための計画策定・実行
  7. 改善成果の定着とさらなる変革の実現
  8. 新しいアプローチを根づかせる

組織風土改革でぶつかりやすい課題

組織風土改革を推進する際、変化に抵抗する人は必ず出てきます。抵抗が生まれるのは、苦痛や損失を回避したいという不安が関係しています。また、たとえ変革によって将来的に利益を享受できるとしても、そもそも人が変化に適応するには、エネルギーが必要です。

組織風土改革を進めるにあたって、従業員の参加と情報共有がポイントです。変革の初期段階から、従業員を中心メンバーとして巻き込むことができると、変革を推進しやすくなります。たとえば、ポーラは部署ごとに配置したリーダーを中心に、組織風土改革を推進しています。

さらに、変革の目的を全社に伝える方法としては、湖池屋の「ブランドブック」の取り組みも参考になります。全社での一斉配信だけではなく、さまざまな形やチャネルに適した方法を検討します。

変革の推進に有効な「チェンジマネジメント」

チェンジマネジメントとは、さまざまな変革を推進・加速し、成功させるマネジメント手法のことをいいます。あるべき姿と現状のギャップから経営課題を見つけ出し、多様な組織変革のフレームワークを用いて、課題解決に取り組みます。

変革のプランを立てるときは、変化に直面する人のプロセスを段階的に表したチェンジカーブの考え方を基盤にします。

変化に直面すると、人にはさまざまな反応があらわれます。具体的には、「否定」「抵抗」「落ち込み」「受け入れ」「実施」「発見」「統合」といったように、段階を追って否定から受容に向けて動きます。反応のスピードや段階は、人によってさまざまです。しかし、チェンジカーブが何かを知ることで、変革の取り組みを推し進める際に、どのような段階で何をするべきかを考えられます。

さらに、組織内の抵抗を小さくするためには、「スモールスタート」を意識することが大事です。まずは一部署など小さい単位で取り組み、成功事例をモデルケースとして全社展開する手法が有効です。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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