法定雇用率
法定雇用率とは?
法定雇用率とは、事業主が常時雇用している労働者のうち障害者を雇用しなければならない一定の割合のことを指し、すべての企業に法定雇用率以上の障害者を雇用することが義務付けられています。民間企業の障害者の法定雇用率は2.3%ですが、障害者の雇用の促進に関する法律施行規則などの改正により、2024年4月から段階的に引き上げられることが決定されています。
法定雇用率の計算式
従業員数が一定以上の規模の事業主は、従業員に占める障害者(身体障害者、知的障害者、精神障害者)の割合を法定雇用率以上とする義務が障害者雇用促進法によって定められています。法定雇用率は、民間企業、地方公共団体等、都道府県の教育委員会の3者でそれぞれ以下のように設定されています。
- 民間企業…2.3%
- 国、地方公共団体等…2.6%
- 都道府県等の教育委員会…2.5%
法定雇用率の算出方法は、現在雇用されている障害者数と失業中の障害者数を考慮し、以下の計算式で算出されます。
- 【引用】
- 障害者雇用率制度について|厚生労働省
●「対象障害者である常用労働者の数」とは
身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の所有者の数です。短時間労働者は原則0.5人としてカウントします。
●「失業している対象障害者の数」とは
身体障害者手帳等を持ち、失業している状態にある人を指します。
●「常用労働者数」とは
1週間の労働時間が30時間以上の労働者を指します。1週間の労働時間が20時間以上30時間未満の労働者は短時間労働者として0.5でカウントします。1週間の所定労働時間が20時間未満のパートやアルバイトは、障害者雇用率を計算する上での常用労働者に含まれません。
●「失業者数」とは
常用労働者数の労働時間に該当している人で、失業状態にある人を指します。
企業の法定雇用障害者数の計算方法
民間企業の法定雇用率2.3%は、企業全体(※1)で従業員を43.5人(※2)以上雇用している事業主に対して適用されます。従業員を43.5人以上雇用している場合は、障害者を1人以上雇用しなければならないとされています。
法定雇用障害者数=(常用労働者数+短時間労働者数×0.5)×法定雇用率(2.3%)
常用労働者とは、週の所定労働時間が30時間以上のものを指し、短時間労働者とは、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満のものを指します。常用労働者数および短時間労働者数に、週の労働時間が20時間以下のパートタイムやアルバイトの労働者は含みません。
※1:従業員数は法人単位で数えるのが原則です。特例子会社を持つ親会社、一定の要件を満たす企業グループについては、厚生労働省の認定をうけることで、企業グループ全体で実雇用率の通算ができる制度があります(特例子会社制度・企業グループ算定特例)。
※2:小数点以下の数字が含まれているのは、短時間労働者を0.5人と数えるためです。
障害者数、労働者数のカウント方法
法定雇用率の対象となる障害者は、障害の程度などで決められています。障害の程度と労働時間数でカウント方法が変わります。
常用労働者数は、1週間に30時間以上働く労働者を「1」、1週間の労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者を「0.5」で数えます。障害者雇用率を算定する際、基礎となる常用労働者数は、障害の程度に関係なく、障害を持たない常用労働者数と同様に「1」または「0.5」で数えます。
雇用障害者数は、重度の身体障害者や知的障害者は通常の倍、常用労働者は「2」、短時間労働者は「1」と数えます。
- 【引用】
- 障害者雇用率制度について|厚生労働省
- 原則として、常時雇用労働者は1人分、短時間労働者は0.5人分として数える。
- 重度身体障害者・重度知的障害者は1人を2人分として数える。重度身体障害者・重度知的障害者の短時間労働者は、1人分として数える。
計算例
たとえば常用労働者数が100人(週30時間以上の労働者60人・週20時間以上30時間未満の短時間労働者40人)でそのうち重度の身体障害者が1人の場合、以下のように計算します。
短時間労働者の精神障害者は、2018年4月から設けられた特別措置により、一定の要件を満たした場合のみ「1人」とカウントされていましたが、2023年4月1日からは、当分の間、すべての短時間労働者の精神障害者を「1人」とカウントすることになっています。2024年4月1日からは、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の重度の身体・知的障害者や精神障害者は「0.5人」とカウントする予定です。
対象の障害者
以下に該当する場合、障害者雇用率制度の対象となります。雇用の際に、障害者手帳を確認することが必要です。
身体障害者
身体障害者福祉法による「身体障害者手帳」を所持している人。障害の程度によって等級が1〜6級に区分されています。重度障害者は、1級、2級および3級に該当する障害を二つ以上重複して有する人が該当します。
知的障害者
都道府県知事が発行する「療育手帳」を所持している人や、判定書などを所持している人。「養育手帳」は自治体によって細かい区分をするところがありますが、原則として障害の程度によってA「重度」、B「A以外」に区分されています。療育手帳の「A」または地域障害者職業センターにおいて重度知的障害者と判定された人が重度障害者と取り扱われます。
精神障害者
精神保健福祉法による「精神障害者保健福祉手帳」を所持している人。障害の程度によって等級が1〜3級で区分されています。
法定雇用率を満たしているかどうか計算する方法
法定雇用率を満たしているかどうかを確認するには、まずは自社で雇用するべき障害者の人数を計算します。
たとえば、8時間勤務の正社員が100人、週20~30時間勤務のパート従業員が20人いる場合、自社で雇うべき障害者の数は(100+20×0.5)×2.3%=2.53。小数点以下の端数は切り捨てとなるので、2人以上の障害者を雇用する必要があります。この場合、以下のような雇用の方法が考えられます。
- 常用雇用労働者2人を雇用する(カウント2)
- 短時間労働者2人と、常用雇用労働者1人を雇用する(カウント0.5×2+1=2)
- 重度身体障害者に該当する人を常用雇用労働者として1人雇用する(カウント2)
法定雇用率を下回った場合
厚生労働省の調査によれば、障害者雇用数は上昇し、過去最高を記録しています。一方、法定雇用率未達成の企業の割合は48.9%と、多くの企業にとって障害者雇用のハードルが高いことも伺えます。
法定雇用率は企業に義務付けられた制度のため、達成した場合は調整金および報奨金が支給されますが、未達成の場合は、納付金を支払わなければなりません。
障害者雇用納付
法定雇用率を達成していない企業は、納付金を支払わなければなりません。徴収された納付金は、法定雇用率を達成した企業に対して調整金および報奨金として支給されます。これを、障害者雇用納付金制度といいます。
障害者を雇用する場合、職場環境の整備や特別な雇用管理が求められます。納付金は、障害者雇用に伴う経済的負担の調整を計るために利用されており、未達成の企業に対する罰則とは性質が異なります。また、納付金を支払ったからといって、障害者雇用の義務がなくなるわけではありません。
- 不足1人につき月額50,000円
法定雇用率を達成している企業には以下の通り支給されます。
- 調整金:超過1人につき月額29,000円(常用雇用労働者数100人超)
障害者を多数雇用する中小事業主には以下の通り支給されます。
- 報奨金:超過1人につき月額21,000円(常用雇用労働者数100人以下)
未達成の場合の行政指導
従業員43.5人以上(2024年4月以降は40人以上)の事業主は、毎年6月1日現在の障害者の雇用に関する状況(障害者雇用状況報告)をハローワークに報告する義務があります。雇用率が未達の場合、行政指導が行われます。具体的には、以下に該当する企業に対して、まずハローワークから雇用計画の作成が命じられます。
a. 実雇用率が全国平均実雇用率(令和5年の集計結果による実雇用率は 2.33%)未満であり、かつ不足数が5人以上の場合
b. 実雇用率に関係なく、不足数10人以上の場合
c. 雇用義務数が3人から4人の企業(労働者数130.5人~217人規模企業) であって雇用障害者数0人の場合
- 【引用】
- P4『障害者の雇用に向けて』|厚生労働省
命令を受けた企業は、命令が発令されてから2年間の障害者の雇用計画を作成します。計画から遅れが見られる場合、ハローワークから勧告が出されます。
計画に基づく障害者雇用が進まず、「実雇用率が最終年前年の6月1日現在の全国平均実雇用率未満」「不足数が10人以上」に該当する場合、特別指導が行われます。それでも雇用状況が改善されない場合、最終的に企業名が公表されます。企業に対するイメージの低下、取引先や社員との信頼関係への影響などが予想されるため、注意が必要です。
法定雇用率の引き上げ予定
法定雇用率は、障害者雇用促進法において「少なくとも5年に1度は法定雇用率を見直すこと」と定められています。近年は5年よりも早いペースで見直しが行われています。
民間企業の法定雇用率は、2013年から2021年のあいだで0.3%引き上げられました。
- 2013年:2.0%
- 2018年:2.2%
- 2021年:2.3%
2023年のタイミングで、法定雇用率を2.7%に引き上げることが決定しました。引き上げは、企業が計画的な雇い入れができるよう、2024年から段階的に実施されます。2024年(令和6年)4月から2.5%、2026年(令和8年)7月から2.7%に引き上げられます。
法定雇用率の引き上げに伴い、障害者雇用の対象となる事業主の範囲も変更されます。現行では、従業員43.5人以上の企業に障害者雇用の義務が発生していますが、2024年4月からは従業員40人以上、2026年7月からは従業員37.5人以上となります。
民間企業の障害者雇用率 | 現行 | 2024年 (令和6年)4月~ |
2026年 (令和8年)7月~ |
法定雇用率 | 2.3% | 2.5% | 2.7% |
障害者雇用の対象となる 事業主の範囲 |
従業員43.5人以上 | 従業員40人以上 | 従業員37.5人以上 |
国および地方公共団体などは、現行の2.6%から3.0%に、教育委員会は2.5%から2.9%に段階的に引き上げられます。
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