リーマンショックで冷え込んだ中途採用市場は、ここ数年で順調に回復し、完全に売り手市場に転換しました。売り手市場の中でも優れた人材を採用できる企業とは、どのような企業なのでしょうか。また今後、中途採用において人事にはどのような能力が求められるのでしょうか。長年、人材業界で活躍し、2016年1月にはダイレクト・ソーシングの新しいサービスをスタートさせた、株式会社インテリジェンスの福本貴司さんに、最近の中途採用の市場も含めて、お話をうかがいました。
- 福本貴司氏
- 株式会社インテリジェンス キャリアディビジョン 採用企画事業部長
ふくもと・たかし/2000年4月株式会社インテリジェンス入社。人材紹介事業、転職サイト事業、市場開発事業責任者を経て、2010年1月採用企画事業部長として「DODA求人広告」「DODA転職フェア」「DODAターゲティングセミナー」「地方創生プロジェクト」を運営。 2016年1月ダイレクト・ソーシングサービス「DODA Recruiters」、志向性マッチングサービス「meeta」をリリース。現在に至る。
求職者は情報を取捨選択し、「リアル」で「直接的」な情報を求めている
最近の中途採用市場の現状を、どのように把握されていますか。
当社の調査では、2015年12月の転職求人倍率は1.21倍。求人数は13ヵ月連続で調査開始(2008年1月)以来の最高値を更新しています。業界別では、特に活況なのが「IT/通信」で、求人倍率が2.67 倍。「IT/通信」の求人倍率は高止まっています。また、当社が発表している2016年上半期の転職市場予測においても、求人数は緩やかに増加し、転職希望者にとって有利な売り手市場が続くと予測されています。つまり、企業にとっては、それだけ採用競争が激しくなっています。
このように、景気の好転に伴い求人が急増し、転職サイトに掲載されている求人情報が大幅に増えています。一方、就業をしながら転職活動をする求職者の割合が増えていることもあり、実は求職者一人当たりの応募数はさほど増えていません。総務省統計局「労働力調査」を基にした当社の調査では、2012年から2014年にかけて求人数は約1.6倍に増えていますが、一人当たり月間応募数は1.2倍にしか増えていません。
このような環境の中で、求職者は多くの求人から自分にあったものを選ぶようになってきています。そのため、応募先を決める上で、「企業から直接的な情報を収集し、よりリアルな情報を取得したい」というニーズが高まっています。 当社が開催しているDODA転職フェア(東京)の来場者数はここ数年、増え続けています。来場者に来場動機を聞くと、「採用担当者に会える」「生の情報が収集できる」といった回答が上位に挙がってきていることからもニーズが高まっていることが伺えます。
求人情報が増えている中で、求職者が情報を取捨選択していること、また、より「リアル」で「直接的」な情報を求めていることがこれらのデータから読み取ることができます。
「リクルーター」の「ソーシング」力がカギを握る
このような状況下で、求人企業には何が求められますか。
ポイントは二つあります。一つ目は、求人情報を取捨選択している求職者からいかに選ばれるかを考え、そのためのアプローチを行うこと。二つ目は、人事が配属される現場の社員を巻き込みながら、「リアル」で「直接的」な情報を求職者に伝えていくことです。
一つ目のポイントに関しては、求職者が転職で実現したいことや価値観のような志向性を理解して、アプローチをすることが重要です。求職者に合ったコミュニケーションができる企業は優秀な人材を採用できています。
採用活動は、「採用計画の立案」から始まり、候補者を集める「ブランディング」「ソーシング」、その後は「面接」「クロージング」「オン・ボーディング」といった流れになりますが、この中でも現在のような売り手市場では「ソーシング」が重要です。自社が欲しい人材にいかに応募してもらうか。そのためには求職者を知り、求職者が欲しい情報を提供していくこと、それにより求職者を引き付けることをできるかどうかが、大きなポイントとなります。
これを人事が自社で行おうとすると、これまではかなりの手間とコストがかかっていました。しかし、昔と今とでは、環境が大きく変化しています。特にITの進化が大きいです。例えば、ソーシングで最も手間がかかる求職者の母集団作りも、人材会社などが持っている求職者のデータが可視化されればアクセスしやすくなり、圧倒的にかかる労力が軽減されます。弊社のDODA Recruitersはこのような可視化された求職者情報に人事が直接アクセスできるシステムです。顕在化して見られるデータがあるため、効率性が大きく向上します。
DODA Recruitersのように人事が直接個人にアプローチして応募者の母集団形成をする手法が「ダイレクト・ソーシング」です。「ダイレクト・ソーシング」で求職者情報がオープン化することによって、応募者に対して何を伝えると響くのか、競合関係を見てどうアプローチすればいいのか、人事担当者自身がそういう領域の力を高めることが従来よりも重要になりました。
実は、当社の人材紹介サービスを利用されているお客様もそうなのですが、もともとの採用活動を成功させるためのはっきりしたイメージがないと、なかなかうまくいきません。求職者を理解して、どのようなアクションを行い、関係性を構築していくか。労力はかかりますが、それらをしっかり組み立てる必要があります。
二つ目のポイントに関してはいかがですか。
採用の専門職としての「リクルーター」の存在が、これからの企業には不可欠だと思っています。実際、欲しい人材が採用できている会社は、エンジニアや営業を経験した社員をリクルーターに異動・配置したり、外部から新規で採用するなどして採用に力を入れて取り組んでいます。
リクルーターは、自社のことを誰よりもわかり、リアルで直接的な情報を転職志望者に伝えて自社を売り込むことができる「トップセールスパーソン」であるべきです。実際、海外でリクルーターに就く人は、その企業のトップセールスパーソンだったという話もあるようです。人材は企業にとっての財産です。未来をつくるためにも、そのようなリクルーターが定着することが、非常に重要だと考えています。
そのためには、リクルーターが、実際に配属する現場との密な関係性を築けているかどうかが重要です。ソーシングから面接、クロージングまで、現場をしっかり巻き込んでいる会社は、採用力が高いです。
例えば、当社のDODA転職フェアでも、配属する現場のエンジニアが求職者に直接話をしている企業は、求職者の反応が非常に良い傾向にあります。リクルーターだけが動くのではなく、現場と一緒に取り組めている会社には、人が集まって、しっかり採用に結びつきます。
このように、リクルーターが自社の魅力を認識し、自社が欲しい人材が何を求めているかを把握し、現場を巻き込みながら、一人ひとりの求職者にしっかりとアプローチしていく「自社採用力」が重要な時代です。
「ダイレクト・ソーシング」で、平等な採用競争ができるマーケットの実現を
そのような「リクルーター」の「ソーシング」の部分に焦点を当てたのが、今回新たにサービスを開始した「DODA Recruiters」なんですね。DODAが保有する求職者情報から自社の条件に合う人材を検索し、直接スカウトメールでアプローチできる仕組みだと思いますが、このサービスが誕生した背景を教えていただけますか。
これまで、日本の求職者情報は、ある種ブラックボックス化していたと思います。人材を求める企業からすると、「このような人がいますか」と人材会社に問い合わせて、探し出してもらっていましたので、どのような求職者がいるのか、具体的にはなかなか見えない状態でした。しかし、その人材会社が保有しているデータがオープンになり、直接アプローチできる環境が整うと、結果的に企業は採用力を磨くことができます。
我々は、企業の大小にかかわらず、平等な採用競争ができるマーケットを作りたいと考えてきました。大企業だから採用できるのではなく、ベンチャーや中小企業でも、自社の魅力をきちんと理解し、自分たちが考えている事業モデルやビジョンをダイレクトに伝えて、求職者に興味を持ってもらえるのであれば、これからの中途採用市場でも勝つことができるはずです。そのような採用力がある企業にもっと出てきてもらい、魅力的な採用市場にしていきたい。そうでなければ世の中は活性化しません。
アメリカを中心とした海外でダイレクト・ソーシングが活況を呈しはじめたのが、2013年ごろ。2010年ごろは、採用活動における手法の中では、5%のシェアだったものが、3年後に12.1%と2.4倍の規模に成長していました。世の中の流れとして、数年後には日本にもそのトレンドがやってくるだろうと考え、事業化を検討し続けていました。
今までの人材紹介サービスだけでは、マッチングが仕切れていないこともあるため、より機会を最大化できる方法は他にもあるのではないか。そういう思いもありました。
また、求職者に対しても、このサービスは高い価値を提供すると考えます。求職者の中には、自分から積極的に動くアクティブ層ばかりではなく、「いい機会があれば」程度に考えている層も少なくありません。そのような求職者にとって、自分のキャリアや経験、価値観に興味を持ち、アプローチしてくれる企業の存在は、非常に情報としての価値が高いものです。このサービスによって、人の循環を促し、優秀な人材にしかるべき仕事に出会っていただく。そこを目指しているのです。
ダイレクト・ソーシングの機能だけでなく、「リクルーター・アカデミー」という採用ノウハウを提供する講座を開催されるそうですね。
このサービスの名称に「Recruiters」という言葉を使っているのは、先ほども申し上げましたが「企業にリクルーターを配置してほしい」「リクルーターの存在価値を高めたい」という思いからです。そのため、ダイレクト・ソーシングが可能なプラットフォーム以外にも、人事が採用力を高めるための機会が重要だと考えています。業界ごとのトレンドや個人の志向性など、我々が長年培ってきたソーシングからクロージングまでのノウハウを、お客様に開放して採用活動に活かしていただきたい。そこは我々しかできないことだと思っています。
講座では、実務に即した採用の考え方やノウハウを提供していきます。例えば、「Webエンジニアを採用したい」ケースでは、Webエンジニアを経験している求職者が「どのようなことにやりがいを感じて、何を入社動機とするのか」といったイメージまで掘り下げなければなりません。そのためには、リクルーターが、社内にいるWebエンジニアに「なぜ自社に入社したのか」「日ごろ何にやりがいを感じるのか」をしっかりインタビューする必要があります。そこで聞き取った情報から、人材像を練り上げ、その人材にアプローチする際に活用する。そのインタビューの仕方や人材像の作り方、アプローチ方法などを具体的にお伝えしていきます。
すでに、効果を出し始めている企業もあるそうですね。
メールでアプローチする際の件名を工夫して効果を出している企業があります。単に「課長職を募集しています」ではなく、「株式会社●●の△△です。レジュメを拝見してご連絡しました」「あなただけのための非公開求人です」など、直接アプローチする文言を独自に工夫されています。一見細かいことですが、しっかり求職者のインサイトにアプローチして効果が出ています。
「人対人」の関係性を築く第一歩。DM形式で同じ内容を多くの求職者に送るよりも、本当に自社が求めている人物・キャリアに近い求職者だけを選び出し、一人ひとりの情報に則した内容のメールを丁寧に送っている企業のほうが、格段に返信率が高い。人事の顔が見える形でスカウトが来る。個人としてもいかに自分に知ってもらうか工夫する。良い循環になっていってほしいと思っています。
このサービスは、お客様の成功事例から学ぶ、お互いに学び合う、そういう場にしていきたいと考えています。当社としても、成功事例のノウハウをリクルーター・アカデミーや記事、メールマガジンなどでお客様に提供していきます。また、求人企業の皆さまにはこのサービスを継続的にご活用いただいて、経験を蓄積していただきたいと思っています。求職者が求めるものは一人ひとり違うので、欲しい求職者を引き付けるノウハウは、ある意味で実験を繰り返すことでしか身に付けることができないのです。自社の経営を支える人材を獲得するためのトレーニング・学習・研究の場として「DODA Recruiters」をご活用いただければ幸いです。
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