人事マネジメント「解体新書」 第21回
今後の「退職金のあり方」と「ポイント制退職金制度」の導入
解説:福田敦之(HRMプランナー/株式会社アール・ティー・エフ代表取締役)
昨今の景気後退とグローバル規模での市場競争の激化により、従来のような年功色の強い賃金体系のままでは、企業競争力を維持していくことが難しくなっている。それは、「退職金制度」においても同様だ。何より、現行の年功的な退職金制度を温存していては、今後少子高齢化が進んでいく中で、企業が体力を消耗していくことは明らかである。いくつかクリアすべきハードルはあるものの、少しでも早くこれからの環境に合致した退職金制度に改定していく必要がある。そしてそこには、社員のやる気の向上と、組織の強化につなげていく視点が強く求められているように思う。今回は、近年の環境変化に対応した「退職金制度のあり方」と、「ポイント制退職金制度」について解説していく。
迫られる「退職金制度」の改革
いろいろな意味合いを持つ「退職金」
そもそも、日本における「退職金」とは、「退職一時金」を指すのが一般的である。というのも日本では長い間、終身雇用制を前提に家族主義的な労使関係が築かれてきたからだ。お互いの暗黙の信頼関係の上に、終身雇用制を安定的に維持するための策として年功的な人事制度が生まれ、定年まで勤め上げることへの奨励策として、退職金制度ができた。このため、欧米諸国のような個人が自己責任で運用する「年金制度」が普及しなかったと言われている。
このような背景から、退職金には一時金として、「賃金の後払い」はもちろん、「退職後の生活保障」「企業慣習」「功労報償」「成果配分」など、いろいろな意味合いが含まれている。しかし、その考え方が法律上定義されているわけではない。それぞれの会社によって事情は異なり、賃金後払いと考えている会社もあれば、功労報償だと考えている会社もある。ちなみにカテゴリーとしては、「福利厚生費」に含まれる種類のものである。
賛否両論ある制度…
企業の立場からすると、退職金には「長期勤続の奨励」「定着率の向上」といった人事管理上の目的を実現するためという側面がある。実際、勤続年数が長くなればなるほど退職金が増加するように設計されているのは、社員の定着率の向上という狙いがあるからに他ならない。会社都合で退職する者より、自己都合で退職する者の退職金を低く抑えているのも、定着率を向上させるためである。逆に、人材の新陳代謝を考え、長期に渡って会社に定着して欲しくないのであれば、一定年数の経過後には退職金が次第に減少するように設計しておけばいい。
ただ、近年は高齢化によって中高齢者が激増しており、退職金は必ずしもプラスの評価が与えられなくなってきている。事実、約束した支給額を拠出するために退職金倒産に陥るケースもあると聞く。また、退職金制度の存在が、経済構造の変革を進める際に必要となる労働移動を抑制することからも、一部ではマイナスに評価される面もある。今日、まさに賛否両論ある制度なのだ。
現実的に、大企業が「退職金前払い制度」を導入する時代となってきた現在、退職金を「存続」させるかどうか、「支給額を約束」するかどうか、成果や役割などの「貢献度を反映」させるかどうかなど、これからの退職金制度の「選択肢」は数多い。正直、迷う部分が少なくない。
「基本給」にリンクした退職金制度の問題点
ただし、いずれにしても明らかなのは、これまでのような「基本給」にリンクした年功的な色彩の強い退職金制度を続けていては、金融不安が深刻化した昨今の厳しい経営環境を乗り切っていくことが難しくなってきたということ。これは間違いない。
通常、基本給にリンクしている退職金制度では、賃上げに連動して算定基礎額も引き上げられる仕組みとなっている。そのため、退職金の水準はどうしても上昇する傾向にある。ましてや基本給の仕組みが年功制で、支給額も勤続年数に比例して増えていく設計となっている場合、社員の高齢化に伴って、膨大な退職金原資を準備しなければならなくなる。しかし現実問題として、そのような退職金支払準備金が用意されている企業は多くはないだろう。
結局、基本給連動型の退職金制度では、勤続年数と退職時の基本給によって退職金額が決まるため、個人の在職中の功績や貢献度が退職金にあまり反映されないことになる。その結果、退職金も年功型となってしまうことが問題なのだ。この点を早急に何とかしなくてはならない。さらに、新しい会計基準(退職給付会計)の導入や確定拠出年金法、確定給付企業年金法の制定など、退職金制度改革を促す環境がさし迫ってきている点も見逃せない。
求められる「年功」から「成果・役割」への転換
退職金制度を改定する際の検討事項を考えた場合、大きく「支給水準」「支給目的」「算定方式」の3つがある。第一の支給水準について言うと、これまでの経過部分は当然のこと、将来部分についても合理性を伴わない引き下げを行うと、これは労働条件の「不利益変更」に当たることを忘れてはならない。企業の負担軽減のために支給水準を引き下げる場合、慎重な検討が必要となってくる。
右肩上がりの経済成長が終わり、人事管理における中心的な課題は、組織目標の達成に向けた社員一人ひとりの「成果」や「役割貢献」に移りつつある。そのような状況を受け、退職金の支給目的についても、その時々の「成果・役割」に対する功労報奨へと変わってきている。この点に対する認識を新たに持つことが必要である。
そして、各人の成果・役割に応じた退職金を実現するためには、算定方式についても、算定基礎となる基本給を成果・役割(業績)給に改定していき、支給係数の年功カーブをフラット化していくことが不可欠となってくるだろう。
このように、年功から成果・役割への転換が求められてきていることは時代の要請である。しかし、一度年功化した給与体系や退職金制度を業績主義へと転換するには、相応の期間とコンセンサスを要することもまた事実である。
退職金制度の4つの「タイプ」
月額賃金と離れた算定方式へ
ではここで、現状を一度整理してみることにしよう。これまで退職金制度は、伝統的に多くの企業において「定額方式」が採用されてきた。これは、
「退職金」=「算定基礎額」×「支給係数」×「退職事由別係数」(自己都合か会社都合かの別)
として算定する方式である。このうち、支給係数は勤続年数が長いほど有利に働く年功型がほとんどであった。また、算定基礎額は退職時の基本給とする場合が多く見られる。すると、基本給そのものが年功化している企業では、年功的な支給係数と相まって退職金が二重に年功化していることになる。
ところが、昨今の企業を取り巻く経営環境は、そうした状況を許さないものとなってきた。バブル崩壊から10数年の間に、多くの企業で「成果主義」的な人事制度が採用され、基本給は年功的な色彩が薄れてきたのは周知のことだろう。そして、退職金についても、貢献度を反映した内容となり、月額賃金とは離れた算定方式とするような改定が進んできている。
退職金制度の「タイプ」
実務としてとらえた場合、退職金制度はいろいろと複雑であるが、大きく以下の4つのタイプに分けることができる。
(1)退職時の本給等と連動した勤続年数別係数の「かけ算型」
一般的にはこのやり方が多いが、近年は減少傾向にある。逆に、(2)~(4)に記した本給等との非連動型が、大企業を中心に増加している。
(2)本給等と非連動型~その1「定額制」
「定額制」ということで、多くの中小企業に採り入れられている。勤続年数とそれに対応した金額表で支給額を決定する。役職者については、功労加算分として別に上乗せして支給する場合もある。メンテナンスが楽なため、水準という問題さえ留意すれば小規模企業によく合ったやり方である。
(3)本給等と非連動型~その2「ポイント制」
勤続年数や職能等級、役職等の要素ごとにポイントを設定し、その合算ポイントにポイント単価を乗じて算出する方法。近年、能力主義を反映させやすいこのやり方が、急速に普及している。
(4)本給等と非連動型~その3「確定拠出型」
以上3つの退職金算定方式は、いずれも「将来退職時に給付される退職金額を確定する方式(=確定給付型)」。これとは逆の発想で「将来、退職時にいくらの退職金額が給付されるかは定めずに、中退金などの掛け金額のみを決定する方式(=確定拠出型)」が注目を浴びている。職能等級、役職等の要素ごとに掛け金金額を設定し、毎月会社が積み立てを行っていく方法である。
注目を集めている確定拠出型だが、「自分の判断で投資先を選択でき、積極的に資産を運用することができる」「転職時に不利にならない」などのメリットがある反面、「社員が運用リスクを負い、将来の受給額が不確定」などのデメリットもある。また、株価乱高下などの影響を受けるためか、制度拡大に向けて規制緩和が実施されているものの、期待されているほど導入率は上がっていない。どうも日本人は、こうしたリスクテイクを嫌う傾向にあるからだろうか・・・。
一方、ポイント制は「管理が煩雑」という運用面での問題はあるものの、「退職までの貢献が反映される」「意図した退職金カーブを設定できる」「環境の変化に強い」など、企業にとってのメリットが大きく、近年、導入する企業が増えてきている。これからの日本の人事慣行に向いている制度のようにも思う。
ということで以下、本レポートでは、この「ポイント制退職金」について見ていくことにする。
ポイント制退職金制度とは何か?
ポイント制退職金の実施状況
まず、ポイント制退職金の実施状況はどうなっているのか。2005年の調査であるが、ポイント制退職金を導入している企業は41.0%と4割以上に上っている。一方、実施していない企業に今後の予定を聞いてみたところ、「実施を検討中」が28.0%に及んでいる。この結果について、調査を行った労務行政研究所では、以下のように分析している。
退職給付債務が問題となる中、ポイント制退職金のメリットは基本給と退職金を非連動型にする点にある。基本給が年功制の運用がされている場合、基本給と退職金が連動していれば退職金も年功制が強く出ることになるが、ポイント制ではポイントの付与の仕方で、成果主義の色彩が強い退職金にすることができる。こうした点から、多くの企業が注目しており、今後も積極的に導入されていくものとみられる。
事実、社会経済生産性本部の調査でも、1998年以降、ポイント制退職金を導入している企業は増え続けている。賃金上昇に伴う退職給付コストの増大を危惧する企業が、ポイント制への切り替えを試みているようだ。
全産業 | 製造業 | 非製造業 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
規模計 | 3000人以上 | 1000~2999人 | 1000人未満 | ||||
実施している | 41.0 | 37.5 | 53.7 | 36.1 | 36.7 | 48.3 | |
実施していない | 59.0 | 62.5 | 46.3 | 63.9 | 63.3 | 51.7 | |
※ | 実施を検討中 | 28.0 | 33.3 | 25.0 | 27.1 | 25.9 | 32.1 |
実施予定はない | 72.0 | 66.7 | 75.0 | 72.9 | 74.1 | 67.9 |
※は“実施していない場合”の実施予定
出所:「2004年度 退職金・年金制度総合調査」労務行政研究所
次に、ポイントの決定基準を見ると、「勤続年数」が63.1%と最も多くなっている。退職金の算定に勤続年数を反映したいと考える企業がまだ少なくないことと、「資格・等級ポイント」だけでは上下格差が付きすぎてしまうのを緩和したいという思惑もあり、こうした結果になったと思われる。
そして、「職能(資格)」は60.0%、「職務(役割)等級」が49.2%という結果。現行の処遇制度として職能資格制度や役割・職務等級制度を導入している企業では、資格や等級ごとにポイントを付与していると考えられる。なお、一定年齢で勤続ポイントを据え置いたり、累積ポイントの上限を設定したりするなどの措置を講じている企業は29.2%だった。
勤続年数 | 63.1 |
---|---|
年齢 | 9.2 |
職能(資格) | 60.0 |
職務(役割)等級 | 49.2 |
成績 | 20.0 |
職掌(コース) | 15.4 |
その他 | 6.2 |
出所:「2004年度 退職金・年金制度総合調査」労務行政研究所
ところで、ポイント制では職能や勤続などでポイントが、単価の見直しによって退職金額が変動する。改定頻度について尋ねた結果では、見直し頻度はどちらについても「特に決まっていない」が90.8%と大勢を占めていた。この点については、まだ試行錯誤の段階にある。
ポイント制退職金制度の「仕組み」
そもそもポイント制退職金制度とは、勤続ポイントと在職中の企業への貢献度に応じて毎年ポイントを付与し、これを累積したものにポイント単価を乗じて退職金額を算定する制度である。
「ポイント制退職金」=「勤続ポイント累計+資格ポイント累計」×「ポイント単価」
ポイント制退職金制度にはいくつかの種類があるが、最も普及しているのは職能資格制度の資格等級に応じてポイントを付与する形態である。等級別と勤続年数別に、1年当たりの付与値(ポイント)を決めておく。そして、退職時の各累計(獲得)ポイントに単価(1ポイント当たりの金額)を乗じ、支給すべき退職金額を決定していく。
資格等級ポイントを設けることで、能力や成果が退職金に反映されやすくなり、何より“意味のある”退職金格差が付けられることが大きい。何社かの事例を見せてもらったが、同じ勤続年数で定年退職した場合でも、資格等級ポイントの高い人と低い人とでは2~3倍程度の格差が生じているケースがあった。
また、退職金の水準改定を行うときには、原則として「単価」で調整していく。そして、等級ごとに設定された等級ポイント(上級資格ほど高いポイント)を各資格の在級年数に応じて累積させていく仕組みであるため、昇格スピードの速かった者がより多くの等級ポイントを獲得することになる。
なお、勤続ポイントは等級には関係なく、勤続年数に対応して付与するものであるという考え方もあるが、働き盛りを過ぎたら付与ポイントを減じ、一定年数を超えると新たな付与は行わないというケースが現実には多いようだ。さらに、等級ポイントと勤続ポイントだけでは不十分という場合には、次のような方法を追加していく。
- 新たにポイントを付加する(ライン職への配慮)
- 退職時資格による退職時一時ポイントを付加する(中途採用者への配慮)
- 毎年度の人事考課を反映させる(付与するポイント数を違えることで、モチベーション向上を図る)
- ポイントのみの制度とする(徹底した貢献度反映型)
言うまでもなく、これらの構築にあたっての前提条件は「等級制度が確立」されていることである。もし等級制度を採り入れ難いような場合には、基本給の水準などによって、いくつかの階層分けを行う方法が考えられる。
ポイント制で、動機付けを促していく
以上見てきたように、ポイント制退職金制度は能力を向上させ企業業績に貢献して資格等級が上がれば退職金も増加するシステムなので、社員の士気を向上させ、企業を活性化させていくことができる。また、ポイント単価を用いるため、定期昇給やベースアップなどによって基本給が上昇しても、退職金原資の膨張を回避することができる。総額人件費管理という点からも、この部分の効用が見逃せない。
結局、ポイント制退職金の特色とは、変化に対応した能力主義的な制度であるということ。最終給与と連動していないので、退職金負担に悩む企業にとっては、その負担軽減に非常に役立つ制度と言える。何より、在職中の貢献度をシステマティックに退職金に反映させることができる。そのため、近年の能力主義や成果主義の発想に馴染みやすく、1990年代以降、導入事例が非常に多くなっているのもよく分かる話だ。 そして、個人ごとに退職金がいくら貯まっているのかが一目瞭然。どのようにすれば退職金が増加するのかが分かるため、社員の動機付けに活用しやすい制度なのである。
メリットとデメリット
ポイント制退職金には多くのメリットがある一方で、制度上のデメリットも抱えている。以下に、メリットとデメリットを整理してみた。
【メリット】
- 退職時までのトータルな貢献度を、相互に納得できる形で反映させることができる
- ポイント単価の設定により、給付水準をコントロールすることができる
- 制度の仕組みが簡単なため、社員が理解しやすい
- 中途採用退職者の不利が軽減される
- 退職金の増やし方が分かるため、従業員のやる気が高まり、モチベーション向上につながる
- 世間相場との格差が生じた場合には、1点単価を調整するだけで対応ができる
- 既制度での既得権を保護する一方、新制度への移行時点での取り扱いが容易である
【デメリット】
- 退職金額の計算にあたり、過去の人事記録全てを把握することが必要となる。そのため、管理が煩雑となってしまう
- ポイント化の根拠となる等級制度がしっかりしていないと、制度の導入が難しい
- 確定給付型の制度であるので、運用リスクと責任が常に会社側にある
制度設計・導入のステップ
退職金ポイント制度を設計・導入する際、一般的に以下のようなステップを踏むことになる。
(1)設計基本方針の確認
まず、ポイント制退職金制度の基本方針を確認する。この場合の制度設計の基本方針とは、現状の退職金水準を「上げる」のか「下げる」のかを決めること。実際問題として、「下げる」のであれば、何を根拠として、どのくらい下げるのかといった考え方を検討していく。その際、拠り所となる統計データ等をしっかりと参照することを忘れてはならない。
(2)退職金制度改定委員会(プロジェクトチーム)の組成
退職金制度改定のための組織(プロジェクトチーム)として、横断的な退職金制度改定委員会の組成を行う。人事、経理、財務、総合企画などのセクションからメンバーを決め、責任分担を明確化する。
(3)資格等級退職水準の分析
自社の退職金制度の特徴・問題点を認識し、ポイント制退職金の仕組みを検討していく。
(4)資格等級別実在者のモデル退職金の算定
モデル昇格年数(最短者、標準者、最長者)の設定、モデル退職金水準を決定し、同業、同地域、同規模の退職金水準と相対比較する。
(5)資格等級別「基礎額」ポイント方式のパターンの設定
ポイントに何を持ってくるのか(何を評価するか)の検討を行う(勤続年数、年齢、資格等級、役職、人事考課、単年度成果、企業業績、職能資格、昇級・昇格など)。
(6)ポイント単価の設定
なるべく分かりやすい金額で決定(1万円が一般的)し、ポイントはこの単価をもとに、モデル退職金を逆算して設定する。
(7)勤続ポイント、資格等級ポイントの設定
ポイントの設定期間ごとに決定し、ポイントのタイプ(逓増、逓減など)を定める。そして、モデル昇格年数をもとに決定する。また、資格等級ごとの「最低ポイント~最高ポイント」の範囲をどうするかの検討を行う。
(8)退職事由別係数(自己都合と会社都合)の設定
会社都合退職・定年と、どの程度の差を付けるかの検討を行う。
(9)新制度への移行調整
ポイント制でのモデル退職金を算出し、最短者、標準者、最長者のモデル退職金を比較する。労働組合・従業員への周知徹底を行う。
ポイント制退職金の導入例
最後に、ポイント制退職金制度の具体的な事例を見てみよう。通常、勤続年数に対応する「勤続ポイント」と社内の資格制度と連動する「資格ポイント」の2つを設定し、その累積ポイントに一定の単価をかけて退職金支給額を計算していく。ここでは、「定年まで勤続」と「勤続20年」のケースを想定し、算出してみた。
A社:定年まで勤務(65歳定年、大卒22歳入社で43年間勤務)
(1)勤続ポイント
勤続年数1年あたりについて、以下のポイントを付与する。
- 勤続 3年以上20年未満→10ポイント
- 勤続20年以上29年未満→20ポイント
- 勤続30年以上43年以下→30ポイント
(2)資格ポイント
在職資格年数1年あたりについて、以下のポイントを付与する。
- 部長→70ポイント
- 課長→40ポイント
- 係長→10ポイント
(3)退職金単価
1ポイント1万円とする。
(4)退職金額の決定
勤続年数43年で、そのうち部長を10年、課長を10年、係長を10年務めた場合の退職金支給額を、以下のように算出していく。
●勤続ポイント
勤続年数43年なので、「30ポイント×43年=1290ポイント」となる。
●資格ポイント
「係長:10ポイント×10年=100ポイント」「課長:40ポイント×10年=400ポイント」「部長:70ポイント×10年=700ポイント」、合計1200ポイントとなる。
*勤続ポイントの1290ポイント、資格ポイントの1200ポイントを足して2490ポイント。このポイント合計に、単価(1万円)を乗じ、定年までの退職金として2490万円が算出される。
B社:勤続20年
(1)勤続ポイント
1年につき20ポイントとする。ただし、勤続ポイントの上限を600ポイントとする。
(2)職能ポイント
職能ポイントは、格付けされた等級に1年在任するごとに付与される点数である。
等級 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
職能ポイント | 1 | 2 | 4 | 8 | 10 | 30 | 50 | 80 |
在級年数(年) | - | - | - | - | 5 | 5 | 10 | - |
(3)退職金単価
1ポイント1万円。なお、物価変動等を勘案して見直すことがある。
(4)退職金の決定
勤続20年で、5等級に5年、6等級に5年、そして7等級に10年在級していたとする。
●勤続ポイント:20ポイント×20年=400ポイント
●職能ポイント:5等級(10ポイント×5年=50ポイント)、6等級(30ポイント×5年=150ポイント)、7等級(50ポイント×10年=500ポイント)の合計、700ポイント
*勤続ポイント(400ポイント)と職能ポイント(700ポイント)を合わせた1100ポイントに、退職金単価1万円を乗じて、勤続年数20年での退職金支給額は1100万円と算出される。
A社、B社とも、どの資格・職能にどれだけ在級していたかにウエートを置いている。つまり、会社への「貢献度」がいかに大きいかが重要であり、それが退職金へと反映する仕組みとなっているのだ。実際、これまでの仕組みと比べ、「良い意味で支給格差が出た(2倍程度)」、さらには「若い社員のやる気、モチベーション効果が出てきた」という評価をしている。このように目に見える形、かつ納得のいく形で、支給総額にメリハリを付けることが重要である。
導入時の「留意点」
退職金は、規程が整備されて制度化されている場合には、労働基準法上の賃金となる。そのため、退職金の支給要件の一方的な変更は、「労働条件の不利益変更」の問題として紛争となることがある。したがって、ポイント制に移行する際には、社員の一人ひとりについて旧制度で退職金額を算出してポイント単価で除したものを各人の持ち点としていく。こうすることにより、移行時の不利益変更は生じることはなく、新たな原資を要することがなくなる。
以下、ポイント制退職金を導入する場合の留意点を記してみた。
- 大前提として、「職能資格・職務等級制度」など資格制度や職務ランク制が整備されていること
- 「職能資格制度」などの運営を年功的に行うと、制度の目的が失われてしまう
- 給与との関連性がなくなるため、ポイント単価の引き上げなどによる給付水準の見直しの必要性有無の検証を、定期的に行う必要がある
今後の対応に向けて
これまで見てきた通り、ポイント制への移行は総額人件費管理・削減に向けての、1つの解決策ではある。しかし、これとて全てのケースに対応できる万能薬ではなく、企業それぞれの人事戦略において、解決策は異なるものだ。ゆえに、退職金給付制度を改定する際、費用の削減だけを目的としているようでは、従業員のモチベーションを下げることになってしまい、結果として生産性の低下を招きかねない。
事実、近年ではポイント制をベースにした確定拠出年金やキャッシュバランスプランの導入に踏み切る企業も出てきており、退職金の選択肢は多岐にわたっている。その点からも、自社の経営方針に則った人事戦略の明確化と、合目的な制度選択が求められている。
だからこそ、ポイント制退職金制度を人事ツールとして有効的に活用するためには、「従業員とのコミュニケーション」が最も重要だと考える。従業員に対して会社からのメッセージを正しく伝え、理解と納得を得た上で、従業員の目に見える形で制度の再構築を行う。そして、制度の改革だけではなく、絶えず従業員の意識を改革していくことによって、組織の大きな活力へとつなげていく。先々が見えにくい時代ならば、ここにこそ人事戦略の基本を置くべきであって、これは退職金制度に限らない話であると思う。