善管注意義務
善管注意義務とは?
会社法上、株式会社の取締役は会社から経営の委任を受けている立場にあると考えられ、取締役と会社との関係には、民法の委任に関する規定が適用されます(会社法330条)。そのため、取締役は「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」(民法644条)ことを求められます。これを、会社に対する取締役の「善管注意義務」といいます。「善良な管理者の注意」とは、委任を受けた人の職務や社会的・経済的地位などにおいて、一般的に要求される程度の注意のこと。企業の取締役であれば、経営のプロとして通常期待される注意義務を、果たさなければなりません。
経営のプロが会社に対して負う注意義務
不作為で損害を与えた場合は賠償責任も
日本企業では、従業員(使用人)が取締役に昇進し、役員になった後も「使用人兼取締役」として従業員を兼務する例が少なくありません。そのため、取締役の立場をつい従業員の延長線上に置いてしまいがちですが、一般の従業員と取締役とでは、会社との契約関係と、それに基づく責任が大きく異なります。取締役は、会社から経営の「委任」を受けている立場にあり、取締役と会社は法律上、弁護士と依頼人や医師と患者などと同じく、委任者と受任者の関係に相当するのです。
こうした法的立場から、取締役には会社に対する「善管注意義務」――善良な管理者の注意をもって職務を遂行する義務があり、当該義務に違反したことで会社に損害を与えた場合は、会社に対して損害賠償責任を負わなければなりません。2015年11月、東芝が歴代3社長を含む旧経営陣5人を相手取り、計3億円(のちに32億円に増額)の損害賠償を求める訴訟を起こした件は、当時話題となりました。同社は、社外の弁護士で構成する役員責任調査委員会の報告に基づき、旧経営陣が不適切会計を認識しながら、是正の指示を怠ったと判断。不正やミスを避けるように注意して職務を遂行する善管注意義務に違反し、会社に損害を与えた、というのが提訴の第一の理由でした。
取締役の善管注意義務とは、経営に携わるものとして通常期待される程度の注意義務であり、それが問われるのは、東芝の例のように、経営のプロであれば当然なすべきことをしなかった、怠ったという“不作為”によるトラブルが多いようです。また、取締役には、他の役員を監視し、不適切な行為があれば、自ら取締役会を招集して業務執行の適正化を図るという義務もあり、これを怠ることも善管注意義務の違反と見なされます。
では、不作為という消極的なミスではなく、取締役が自ら判断し指示を出したものの、それが誤っていたために損失を招いた“積極的なミス”なら、善管注意義務違反に問われないかというと、必ずしもそうとは限りません。通常の経営者としての知見や経験を基準として、事実認識やそれに基づく判断に著しい不合理があったといえるケースでは、取締役の責任を認める判断が下されています。取締役として、会社の利益のために行動する限り、失敗という結果だけで善管注意義務違反にあたるわけではありませんが、その行動は合理的な根拠と判断に基づいている必要があるのです。
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