ジェロントロジー
ジェロントロジーとは?
「ジェロントロジー」(gerontology)とは、ギリシャ語で「老人」を意味するgerontと「学問」を表す接尾辞‐ologyを組み合わせた造語で、日本語では「老年学」あるいは「老人学」「加齢学」と訳されます。高齢者や高齢化について、多様な見地から探求するために提唱された新しい学問領域のことで、既存の「老年医学」が高齢者の健康面に特化するのに対し、ジェロントロジーは健康だけでなく、高齢者の福祉や社会参加、メンタルケア、年金問題などを広く守備範囲とするのが特徴です。医学や社会学、生理学、心理学、経済学、法学、工学、建築学といった多くの異なる学術分野を横断し、高齢者や高齢化にともなう諸課題の総合的な解決を目指します。
高齢化問題を学際的に探究する「老年学」
シニア人材マネジメントの新しい指針に
「ジェロントロジー」という言葉は、1903年にロシアの免疫学者でノーベル生理学・医学賞を受けたイリヤ・メチニコフによって初めて提唱されました。まだ100年程度の歴史しかない新しい学問ですが、その内容は多岐にわたります。
当初は医療・介護の分野を中心に、人間の老化現象、すなわち加齢変化(エイジング)を身体的・心理的・社会的な側面から解き明かすための研究が行われていました。しかし時代の要請を受けて、より幅広い俯瞰的な見地から、高齢化とそれに起因する問題全般の解決を志向する機運が次第に高まり、現在のような多くの学術分野を横断、再統合する学問領域に進化していったのです。
ジェロントロジーには、中高年の集団に内在する問題――たとえば生きがいや社会参加などに関する科学的研究や、科学だけではその解決の手立てを確立できない分野の学問、すなわち哲学や文学、歴史学、宗教学なども含まれます。さらにはビジネスの視点から、企業がシニア層の人材をどう戦力化するか、シニア層の顧客をどう獲得するか、といったテーマについて考察する「産業老年学」も、ジェロントロジーの新しい領域の一つとして注目されています。
現在、この領域の研究は欧米が先行しており、アメリカでは40以上の大学にジェロントロジー専門の博士課程が設けられています。これに対し、日本では桜美林大学大学院に老年学専攻があるだけ。その他には、東京大学が2009年に設置した高齢社会総合研究機構で本格的な研究を行っている程度です。
しかし世界最速ペースで高齢化が進行する日本社会において、ジェロントロジーを学ぶ必要性は今後、否応なしに高まってくるでしょう。職場にあっては、雇用延長や定年後の再雇用、再就職などにより、60歳代以上の人材の増加が予想されます。30、40代のマネジャーにとって、自分の親くらいに齢の離れた“年上部下”を管理するのは悩ましいところですが、彼らが活躍できる環境を作れなければ、企業の大きな成長阻害要因になりかねません。ベテランの知識や経験を活用しながら、貴重な戦力とするには何が必要か。『60歳新入社員の伸ばし方、活かし方』の著者で、産業ジェロントロジー研究会代表を務める崎山みゆき氏は「60代の心身の変化、つまり『老化』をきちんと理解した上で、コミュニケーションを取ることが重要だ」と指摘しています。ジェロントロジーの知識がマネジメントの必須科目になる日もそう遠くないかもしれません。
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