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【ヨミ】シンリテキケイヤク 心理的契約

「心理的契約」とは、企業で働く個人とその雇用主との間に、契約書などで明文化されている内容を超えて、相互に期待しあう暗黙の了解が成立、作用することをいいます。雇用契約は多くの場合、将来にわたる契約でありながら、その契約内容(労働条件や職務内容など)を状況変化に対応する形で具体的に明示することができないため、信頼に基づく心理的契約である側面が強いといわれます。
(2014/3/31掲載)

心理的契約のケーススタディ

日本の雇用関係を支える“暗黙の約束”
過剰な期待は採用時に腹を割って調整を

組織研究の分野でいま最も注目されているテーマの一つが「心理的契約」です。研究を主導する米カーネギー・メロン大学のデニス・ルソー教授(組織心理学)は、心理的契約の意味を「当該個人と他者との間の互恵的な交換において合意された項目や状態に関する個人の信念」と定義しています。この定義によると心理的契約とは、雇用主と従業員とがお互いに何を期待し、与えあう義務を負っているかということに関する従業員側の認識であって、それが必ずしも雇用主側と共有されている必要はありません。

心理的契約の存在を提唱したのは米国人ですが、それによって雇用関係をより強く支えられてきたのはむしろ日本企業のほうでした。横浜国立大学大学院の服部泰宏准教授によれば、かつてジェームス・アベグレンが日本的経営の“三種の神器”のひとつに挙げた「終身雇用」がその典型例です。これまで多くの日本企業は余程のことがないかぎり、従業員を解雇せず、従業員も長期にわたる雇用保障を前提として期待するからこそ、容易に他社に移ることはありませんでした。アベグレンはこうした関係を、日本企業と従業員との間の暗黙の相互期待だと述べています。

終身雇用といっても、法的に履行を担保された契約ではありません。そもそも入社する際には通常、企業と個人が雇用契約書を取り交わしますが、これはあくまで現時点で確定できる労働条件や職務内容など基本事項を約束しているに過ぎないのです。多くの場合、雇用契約は20年、30年後の定年までを見据えたものになりますが、現実には数年先のことさえ、あらかじめ決めておくことは困難でしょう。つまり日本企業においては、終身雇用のような重要な約束が、法的に履行を担保された契約としてではなく、成文化されることもないまま、ひとえに労使の信頼に基づいて長く維持されてきた――ここに心理的契約の本質をみることができます。

ところが服部准教授の調査では、近年、多くの日本企業が経営環境の変化により、心理的契約を履行できていない実態が明らかになっています。具体的には、社員が企業に対して抱いている「キャリアの道筋を明確に示して欲しい」「従業員の配置・転属について十分に説明して欲しい」「納得のいく成績・業績評価をして欲しい」といった期待が、不履行になっていることが多いようです。雇用関係に“暗黙の相互期待”という心理的な側面がある以上、働く個人も企業も相手に対し「ここまではしてくれるだろう」と、つい勝手な思い込みを抱いてしまうのは無理もありません。しかしお互いに確認しないまま、それに見合う結果が得られないと、期待が大きいだけに裏切られたという思いが生じ、基本的な信頼関係にも影響を及ぼすおそれがあります。

服部准教授は、入社時や採用時こそが、企業と従業員がお互いに心理的契約を確認・調整する絶好のタイミングだといいます。採用側は、応募者の過剰な期待とそれによる失望を防ぐために、仕事のメリットだけでなくデメリットも開示する「リアリスティック・ジョブ・プレビュー」の手法を用いるなど、腹を割って話すべきだと強調しています。

※主な参考資料は、「MSC Infinite No.13 『心理的契約』- 企業と労働者の暗黙の了解-」(2012年)

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