社内失業
社内失業とは?
「社内失業」とは、労働者が正社員として企業に在籍していながら仕事を失っている状態を指す言葉です。減産などで一時的に余剰人員が生じるケースと異なり、昨今は、企業が新しく採用した若手人材を適切に教育できず、会社に貢献できるだけの知識も技能もないまま、職場で放置しているという実態が指摘されています。「社内ニート」ともいわれ、特に2008年秋のリーマン・ショック以降深刻化した労働問題の一つです。
キャリアデザイン描けず「窓際族」より深刻
要因は教育訓練のための人材・ノウハウ不足
内閣府は2011年12月に発表した報告書「日本経済2011~2012」で、国内総生産(GDP)などから企業の生産能力に見合う適正な雇用者数を推計し、実際と差し引きして求めた「雇用保蔵者数」の推移を示しています。この雇用保蔵者数が、おおむね企業内で余剰人員になっている“社内失業者”の数に相当します。報告書によると、社内失業者数は2011年7~9月期で465万人。全雇用者の8.5%にあたり、前年同期より50万人増えました。社内失業者数はリーマン・ショック直後の09年1~3月期の698万人をピークに減少していましたが、ここへきて再び増加に転じたのです。
正社員でありながら仕事がないという意味では、オイルショック後に登場したいわゆる「窓際族」も社内失業の一形態といえます。しかし、従来の窓際族は定年間近の中高年層が多く、出世競争に敗れて閑職に回されても年功序列で地位と賃金が保証されていたため、どこか気楽なイメージで語られてきました。これに対し、現代の社内失業者の多くは20~30歳代前半の若手社員だといわれます。貴重な人材がキャリアの入口で十分な教育を受けられないまま、余剰人員のレッテルを貼られて埋もれている――。それが社内失業の実態であり、窓際族よりも深刻だと指摘されるゆえんです。
社内失業に陥ると、専門知識やスキルが蓄積されないため、昇進やキャリアアップなど社内での将来展望は当然描きにくくなります。同僚と接触する機会も限られ、社内人脈をつくることもままなりません。かといって転職しようにも、中途採用で問われるのは前職での実績ですから、業務経験そのものが乏しい社内失業者には転職もまた非常に難しい。辞めるに辞められず、転籍や異動もかなわない中、仕事を与えられないことで働く意欲さえ失い、精神的に追い詰められていく人も少なくありません。
上述したように、若手社員が社内失業に陥る大きな原因は企業による教育・能力開発の不備だと指摘されています。実際、独立行政法人労働政策研究・研修機構が製造業の約3,200社を対象に行った2011年発表の調査では、若手の育成が「うまくいっていない」と答えた企業(「まったくうまくいっていない」「あまりうまくいっていない」の合計)は全体の3割強に上り、そのほとんどが従業員300人以下の中小企業です。うまくいっていない理由を聞くと、「育成を担う中堅層の従業員が不足しているから」(58.9%)「効果的に教育訓練を行うためのノウハウが不足しているから」(44.6%)が上位を占めています。
バブル崩壊以降の長引く景気低迷で、多くの中小企業が新しく人を採り、育てることを後回しにしたため、構造的な中堅社員不足と社内教育の劣化が生じました。そのツケがいま、就職氷河期を勝ち抜いて正社員の座をつかんだ若者たちに「社内失業」という形で回ってきているのかもしれません。
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