組織再社会化
組織再社会化とは?
組織研究において、組織に新しく参入した個人がその成員となるために、組織の価値観や規範を受け入れ、職務遂行に必要な技能を獲得し、組織の人間関係に適応していく過程を組織社会化といいます。これに対し「組織再社会化」とは、すでにある組織の一員として組織社会化され仕事を行ってきた人が、転職などの組織間移動によって別の組織に参入した際に“再び社会化される”ことを指す用語です。中途採用者はこの組織再社会化のプロセスにおいて、前職で達成した課題や獲得した態度を、場合によっては白紙に戻し、その上で移動先の組織が求める課題の達成や態度の修得を目指すことになります。
中途採用者を苦しめる“即戦力”のラベル
雇用流動化の進行に伴い、新たな経営課題に
「組織再社会化」は組織社会化を拡張した概念といわれ、現在のところ、両者の研究領域としての区別はあいまいです。平たく言うと、組織社会化は社会へ出たばかりの新入社員を、組織再社会化はキャリアのある中途採用者を組織のメンバーとしてどう適応させていくかという問題。前者をめぐってはすでに膨大な量の研究知見が存在する一方、中途採用者の組織再社会化に関する先行研究はまだ多くありません。「新卒一括採用+終身雇用」が、長く日本の雇用慣行の主流であり続けてきたためです。
しかし近年は雇用の流動化が急速に進行し、そうした前提も崩れつつあります。離職・転職はもちろん、M&Aや事業再編による人材の組織間移動も以前に比べてかなり身近なものとなってきました。雇用流動性が高く、組織間移動の激しい社会では、企業にとって中途採用者をどのようにして再社会化するかが重要な経営課題になると思われます。
この新しい領域で先駆的な研究を進めている東京大学大学院の中原淳准教授によると、中途採用者は組織を移行するにあたって、誰もが大なり小なり共通の逆境あるいは課題に直面すると言います。
逆境の第一は、「中途入社だから仕事ができてあたりまえ」という“即戦力”の社会的ラベルを付与されるため、周囲からのサポートが期待できないことです。中途採用者自身にも「前職の経験があるから、仕事はもうわかっている」という思い込みがあるため、それが新しい職場への適応を妨げかねません。加えて“即戦力”と期待された以上、極めて短期間で成果を出さなければならないという社会的プレッシャーにも晒されています。再社会化を成功させるためには、そうした逆境のなかで次の四つの課題を克服しなければならないと、中原准教授は述べています。
● 「人脈学習課題」
業務を円滑に回すために必要な組織内の“人脈”を獲得すること
● 「学習棄却課題」
以前の組織で学んだ知識やスキル、経験を必要に応じてアンラーン(学習棄却)すること
● 「評価基準・役割学習課題」
新しい職場で何を期待されているのか、何をすれば評価されるのかなどを自らリサーチすること
● 「スキル課題」
移動先の組織で業務に必要な知識やスキルを身につけること
(中原淳著『経営学習論』より)
同教授が中途採用者を対象に行った調査によると、転職先が前職と同じ職種であってもなくても、組織再参入時に直面する困難は変わらず、業務成果の達成率にもあまり違いはありませんでした。むしろ同じ職種で組織を移動したほうが、前職で培った経験や知識、仕事の進め方などを学習棄却することに抵抗感が強く、適応に苦労する傾向さえあるようです。中途採用者の円滑な“学び直し”と再社会化プロセスをどう支援していくか、会社としての取り組みが求められています。
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