雇用調整助成金
雇用調整助成金とは?
雇用調整助成金とは、景気悪化などによる事業縮小や労働者の雇用調整が必要となった使用者に対して休業手当や賃金の一部を国が助成するもので、雇用を維持することを目的に支給されます。
1. 雇用調整助成金とは
雇用調整助成金とは、景気変動や産業構造の変化など経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた使用者に対して、労働者を解雇することなく雇用を維持する目的で、国が休業手当などの賃金の一部を助成する制度です。
景気の悪化などで仕事量が減少、あるいは無くなったことにより、労働者を一時的に休業させたり、該当期間を研修期間として教育訓練を受けさせたり、出向させたりするなどの措置を行い、労働者の雇用を維持した場合に、国から使用者に対して休業手当の一部または全部が助成されます。
労働基準法第26条では、労働者の最低限の生活を守るために「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」と定めています。
ここでいう「使用者の責に帰すべき事由」とは、天災事変などの不可抗力や、労働安全衛生法に基づいた労働者の健康や安全を考慮した休業以外の幅広い事由が該当します。
経営悪化など使用者の責に帰すべき事由により労働者を休業させた場合、休業中の従業員の生活を守るため、使用者は平均賃金の60%以上を労働者に支払う義務があります。雇用調整助成金の対象となる休業は「労働日に働く意思と能力があるにもかかわらず、労働することができない状態」を指し、必ずしも労働基準法における休業と一致するものではありませんが、雇用の安定に取り組む企業を支援する制度として多くの企業が活用しています。ただし、使用者である経営者を支援するものであり、労働者を直接支援するものではないことに留意します。
受給要件
雇用調整助成金の利用には、主に次のような要件があります。
- 雇用保険適用事業主であって、雇用調整助成金を受給するにあたって必要な書類を整備し、適切に保管して、労働局から提出を求められた場合や実地調査ががある場合には提出や調査に応じることができる
- 売上高または生産量などの指標の直近3ヵ月間の月平均値が前年同期に比べて10%以上減少している
- 雇用保険被保険者数および受け入れている派遣労働者数の雇用量について、直近3ヵ月間の月平均値が前年同期に比べ、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上、中小企業以外の場合は5%を超えてかつ6人以上増加していない
- 労使間の協定に基づき実施する雇用調整(休業・教育訓練・出向など)が一定の基準を満たしている
このほかにも雇用関係助成金共通の要件や申請に必要な要件が定められています。厚生労働省の「雇用調整助成金ガイドブック」などを利用して、最新の情報を確認することが必要です。
申請件数・支給実績
新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動を縮小した場合には、通常の雇用調整助成金の支給条件を緩和した特例措置が実施されています。特例措置の対象期間は、新型コロナウイルス感染症の影響を鑑みて随時延長が実施され、支給条件も適宜見直しされています。特設ページが設けられており、最新情報は厚生労働省のホームページで確認できます。
最新の申請件数・支給実績についても厚生労働省が発信しています。
支給時期はいつ?
雇用調整助成金は、休業手当や休業中の賃金を支払った後で申請を行います。平常時は、申請後、労働局・ハローワークによる審査を経て、通過すれば2ヵ月程度で入金されることが多いものの、雇用調整助成金の内容・種類・休業手当の対象となる従業員数などによっても支給までの期間が異なります。
現在は新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例として支給までにかかる期間を従来期間の約半分とし、約1ヵ月で支給されるように改善されました。しかし、申請件数が多く予定通りに入金されないこともあるため、入金までの期間は余裕を持って見るようにしましょう。
不正受給へのペナルティ
雇用調整助成金の不正受給が発覚したときのペナルティは非常に厳しいものとなっています。
- 支給が取り消され、すでに支払われた分は全額返還
- 全額返還分に不正受給の日の翌日から納付の日まで年3%の割合(2020年3月31日以前の場合は年5%)で算定した延滞金を上乗せ
- 全額返還分に不正受給により返還を求められた額の20%相当する額を上乗せ(新型コロナウイルス感染症の緊急対応期間特例の場合、返還を求められた額の 200%に相当する額と読み替える規定あり)
- 支給取り消し日・不支給とした日から5年間は、雇用関係助成金が支給されない
- 詐欺、脅迫、贈賄等刑法への抵触行為があった場合、刑事告発
- 重大または悪質なものであると認められる場合は、事業所や代表者名などを公表
- 社会保険労務士または代理人、教育訓練を行う者が不正受給に関与していた場合は、申請事業主と連帯して責任を負う
- 社会保険労務士または代理人や教育訓練を行う者が不正に関与していた場合、それらの者の名称や所在地などを公表
雇用調整助成金に限らず、新型コロナウイルス感染症対策で特例措置が取られたように、助成金制度は社会情勢を反映し、条件や制度の緩和、助成率引き上げなどの制度拡充が図られます。受給がしやすくなるのはよいことですが、虚偽申請や不正受給の問題が報道で取り上げられているのも事実です。
「少しくらい書類を書きかえても大丈夫だろう」「多少人数を水増ししてもばれないだろう」といった、ほんの軽い気持ちが取り返しのつかない事態となる可能性があります。特に不正受給により事業所名が公表されると、取引先や金融機関などとの信頼関係や社会的立場に悪影響を与えます。
労働局では計画書や申請内容に懐疑的な点がなくても、雇用調整助成金を申請した企業への立ち入り検査を行っています。不正をするつもりがなくても、書類の誤りから不正を疑われる可能性もあるので、申請は慎重に行わなければなりません。
2. 雇用調整助成金の支給対象
雇用調整助成金は使用者に支給されますが、支給の対象となる労働者は、基本的に「支給対象となる事業主(使用者)」に雇用され、雇用調整(休業・教育訓練・出向)の対象となる雇用保険被保険者です。新型コロナウイルス感染症の影響による特例期間中は、雇用保険の被保険者ではない人も対象となります。
雇用調整助成金の支給対象において、「休業」「職業教育訓練」「出向」による違いをそれぞれ見ていきます。
従業員(パートなども含む)を休業させた場合
労働者への休業依頼は、雇用の調整が必要な状況で、比較的短期間で回復が見込まれる場合や生産量の減少に機動的に対応する場合に取られる措置です。
厚生労働省のガイドブックによれば、休業は「労働者がその事業所において、所定労働日に働く意思と能力があるにもかかわらず、労働することができない状態」と定義されています。
つまり、労働者が有給休暇中やストライキで勤務していないなど「労働の意思」そのものがない場合、もしくは疾病などにより「労働能力がない」場合の休業は、雇用調整助成金の休業に該当しません。なお、業務上の疾病やけがにより休業を余儀なくされた場合は、事業主や労災保険からの「休業補償」が行われます。新型コロナウイルスに感染して、療養のために休職した場合には、健康保険法の傷病手当金の対象になります。雇用調整助成金の対象になる休業の該当性は、慎重に判断しなければなりません。
従業員に教育訓練をした場合
労働者の仕事が減少する事業活動の縮小期間を生かし、厚生労働省では事業復活・早期回復に向けた積極的な教育訓練を推奨しています。教育訓練を実施した場合、訓練費として一人当たりの助成金が加算され、休業した場合よりも助成金が多くなります。
雇用調整助成金の支給対象となる教育訓練は、当該所定労働日の所定労働時間内で実施し、受講者を当該受講日に業務に就かせずに、業務の知識・スキルアップに関して実施した教育訓練です。配置転換に必要な訓練なども含みます。また、半日の教育訓練などでも支給対象となります。
業務に関した教育訓練でも、法令で義務付けられているもの、就業規則などに基づいて通常実施されるものは支給の対象とはならないので、注意が必要です。また、雇用調整助成金の対象となる教育訓練には、訓練を受けた労働者本人が作成したレポートの提出が必要です。
従業員を出向させた場合
縮小が必要となる事業の労働者を一時的に別会社に出向させることで労働者の雇用を守ることもできます。
出向とは、雇用契約を維持したまま他の事業所で勤務することを指し、これを「在籍出向」といいます。出向する社員の籍は出向元の企業にあり、業務における指揮命令権は出向先の企業が持ちます。また、将来的に出向元の企業に復帰することを前提に、いったん出向元との雇用契約を解消して、出向先の会社と雇用契約を結ぶ形態を「転籍出向」と呼びます。
資本的・組織的に見て独立性のない事業主間の出向は配置転換と変わらないため、雇用調整助成金の支給対象となりません。また、出向元事業所と出向先事業所が賃金をそれぞれで負担することが必要です。いずれかが100%負担する場合には雇用調整助成金の対象とはなりませんので注意しましょう。
出向は労働者の働く環境を大きく変えます。受け入れ側の事情も踏まえて、条件などを労使でよく話し合うことが大切です。
雇用調整助成金の対象となる休業・教育訓練・出向には、いずれの場合も細かい要件があります。詳細については、ガイドブックを参照してください。
個人事業主の場合は?
個人事業主も雇用保険の適用を受けていれば雇用調整助成金の対象となります。個人事業主を含めた小規模事業主の事業は新型コロナウイルス感染症による不況の影響を受けやすいことから、特例期間中の手続き申請はさらに簡略化されています。
新型コロナウイルス感染症関連の支援は、今後も変更・新設が見込まれます。各官公庁のサイトで確認できますので、情報収集を怠らないことが重要です。
3. 雇用調整助成金の支給額
雇用調整助成金の対象となる雇用調整方法は「休業」「教育訓練」「出向」の3通りです。それぞれの支給額について、具体的な計算とともに確認します。なお、一人当たりの雇用調整助成額は2021年8月1日以降8,265円の上限となっており、新型コロナウイルス感染症における特例期間中は13,500円m業況特例や地域特例に該当すれば15,000円まで上限金額が引き上げられています。
従業員(パートなども含む)を休業させた場合
休業の場合の助成金額は、「休業を実施した場合の休業手当(協定書や就業規則で定める支給率を利用して計算)」に相当する金額に、中小企業:3分の2、大企業:2分の1を乗じた金額です。
具体的には、前年度の雇用保険料の算定基礎となる賃金の総額から前年度の1ヵ月平均の雇用保険被保険者数と前年度の年間所定労働日数から割り出して、休業手当の支払い率を乗じて計算します。新型コロナウイルス感染症にかかる特例措置では、所得税徴収高計算書を添付することで、給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書の支給額から従業員数と月間所定労働日数で割り出す計算方法も認められます。従業員数おおむね20人以下の小規模事業主の場合は、計算を簡略化して申請の負担を軽減するため、実際に支払った休業手当の金額で計算することも可能です。実際に支払った休業手当の金額や労働基準法上の休業手当の金額と一致するとは限らないので、注意が必要です。
新型コロナウイルス感染症の影響による特例期間中は企業規模別の助成率の割合が拡大され、中小企業で解雇を行わないなどの一定条件を満たすことで10分の9(大企業は4分の3)、条件を満たさない場合は5分の4(大企業は3分の2)となる措置が取られています。業況特例や地域特例に該当すれば、大企業、中小企業ともに5分の4、解雇を行わないなどの一定の条件を満たすことで10分の10の助成率となります。
実際の計算式は下記のとおりです。
【休業:雇用調整助成金の支給額:休業手当(助成金算定の基礎となる基準賃金額)が9,000円・休業日3日の場合】
(通常時)
- 中小企業の場合:9,000円×2/3=6,000円 6,000円×3日=18,000円
- 大企業の場合:9,000円×1/2=4,500円 4,500円×3日=13,500円
(新型コロナウイルス感染症による特例期間)
- 中小企業の場合(解雇など無し):9,000円×9/10=8,100円 8,100円×3日=24,300円
- 大企業の場合(解雇など無し):9,000円×3/4=6,750円 6750円×3日=20,250円
- 中小企業の場合(上記以外):9,000円×4/5=7,200円 7,200円×3日=21,600円
- 大手企業の場合(上記以外):9,000円×2/3=6,000円 6,000円×3日=18,000円
休業時に実際に支払う休業手当の額は、労働基準法上の平均賃金の60%以上(労働基準法第26条に違反しない金額)とする必要があります。
- 【参考】
- 日本の人事部|休業手当とは―平均賃金とは
従業員に教育訓練をした場合
教育訓練における助成額や上限は、休業させた場合と基本的に同じです。
教育訓練の場合はさらに、訓練費として一人1日当たり1,200円(半日の場合は0.5日として計算)が加算されます。
2021年12月末日までの特例期間中は、今後の事業活動の回復拡大に向けた積極的な従業員の教育訓練を促進する目的で、中小企業2,400円・大企業1,800円に増額されます。この加算額は助成額の上限の計算には含みません。
【教育訓練:雇用調整助成金の支給額:教育訓練実施時の賃金相当額(助成金算定の基礎となる基準賃金額)が9,000円・休業日3日の場合】
(通常時)
- 中小企業の場合:9,000円×2/3=6,000円 (6,000円+1,200円)×3日=21,600円
- 大手企業の場合:9,000円×1/2=4,500円 (4,500円+1,200円)×3日=17,100円
(新型コロナウイルス感染症による特例期間)
- 中小企業の場合(解雇など無し):9,000円×9/10=8,100円 (8,100円+2,400円)×3日=31,500円
- 大企業の場合(解雇など無し):9,000円×3/4=6,750円 (6,750円+1,800円)×3日=25,650円
- 中小企業の場合(上記以外):9,000円×4/5=7,200円 (7,200円+2,400円)×3日=28,800円
- 大手企業の場合(上記以外): 9,000円×2/3=6,000円 (6,000円+1,800円)×3日=23,400円
従業員を出向させた場合
従業員を出向させた場合の助成額は、出向元事業主の出向労働者の賃金に対する負担額(出向前の通常賃金のおおむね2分の1を上限)に、助成率(中小企業:3分の2、大企業:2分の1)を乗じた金額で、上限額は一人1日当たり雇用保険基本手当日額の最高額に365分の330を乗じた金額となります。出向には特例期間中の変更は基本的にありません。
【出向:雇用調整助成金の支給額:賃金が9,000円、出向元賃金負担1/3(3,000円)、出向日3日の場合】
- 中小企業の場合:3,000円×2/3=2,000円
- 大手企業の場合:3,000円×1/2=1,500円
実際の支給額の計算では、申請所定用紙の様式第6号(2)、様式第6号(3)(4)の各記入欄に所定の額を計算して記入していくことで、助成金額を計算することができます。
残業相殺とは
残業相殺とは、該当社員が休業した月に残業もしていた場合、残業時間相当分を雇用調整助成金の計算から相殺して控除することです。
【1日当たりの標準労働時間8時間、休業期間と同じ月に8時間残業】- 休業期間:4月10日〜12日(3日間)
- 残業:4月5日に4時間、4月9日に4時間、合計8時間
この場合、残業時間8時間が1日の標準労働時間8時間相当と相殺され、休業期間は2日間となる
残業をしなければ本来2日間の休業で済むところを、該当月に残業することで業務をこなし、その分休業日を増やすことが助成金の趣旨に反してしまいます。なお、残業相殺は、新型コロナウイルス感染症の特例期間中は停止されています。
残業相殺の細かいケースは雇用調整助成金のガイドブックに詳しく記載しているので、参照してください。
4. 雇用調整助成金の申請の概要
雇用調整助成金の申請は、事業所の所在地を管轄する都道府県労働局またはハローワークで行います。郵送やオンラインでの提出も可能です。
申請の流れ
雇用調整助成金申請の流れは、次の通りです。原則として休業の実施前に「計画届」を提出し、休業実施後に「支給申請」を行います。特例時は「計画届」を休業実施後に提出することが可能です。2020年5月19日以降、新型コロナウイルス感染症による特例期間中は、計画届の提出は不要となりました。
雇用調整(休業・教育訓練・出向)の具体的な内容を計画し、書面で労使協定を締結します。
雇用調整の計画内容について計画届を提出します。
※新型コロナウイルス感染症の影響による特例措置では、2020年5月19日以降は不要
計画届に基づき休業などの雇用調整を実施します。
雇用調整の実績に基づき支給申請をします。
計画通り雇用調整がなされたか、休業手当が支給されたかなどを審査します。
支給額が振り込まれます。
計画届の必要書類
雇用調整の計画届に必要な書類は大きく「休業・教育訓練の場合」「出向の場合」に分かれます。
これらの書類は、支給が決定したときから5年間保存する必要があります。なお、申請書類については新型コロナウイルス感染症による特例措置期間は大幅に簡略化され、申請がしやすくなりました。
特例措置期間中および平常時における、雇用調整助成金の必要書類や手続きの流れについては、雇用調整助成金ガイドブックや厚生労働省の特設サイトで詳細を説明しています。
5. 雇用調整助成金のこれまでの特例措置
2020年以降、新型コロナウイルス感染症の影響により、雇用調整助成金の特例措置が実施され、2022年3月まで延長される予定となっています。一人当たりの雇用調整助成額の日額上限額は徐々に縮小されていきますが、未だ新型コロナウイルス感染症の影響を受けている企業が多いことを踏まえて、延長することが厚生労働省より発表されています。これまでの特例措置や新型コロナウイルス感染症における特例措置と、一般的な場合とを比較します。
リーマンショック
2008年9月、リーマン・ ブラザーズ・ホールディングスの経営破綻による世界的な金融危機は、日本の企業にも多大な影響を与えました。リーマンショック後の2008年後半には各企業の資金繰りが悪化し、速いペースで企業倒産が増加していきました。
リーマンショック時は、生産指標要件を通常の半分以下とし、クーリング期間・雇用保険の被保険者期間の撤廃による緩和、支給限度日数の増加などの特例措置を実施しました。
【リーマンショックにおける特例のポイント】通常の場合 | リーマンショックの特例 | |
生産指標要件 | 6ヵ月10%以上低下 | 3ヵ月5%以上低下 |
助成率 | 中小企業:3分の2 大企業:2分の1 |
中小企業:5分の4 大企業:3分の2 ※解雇などを行わないなどの場合 中小企業:10分の9 大企業:4分の3 |
計画届 | 計画届は事前提出 | やむを得ないと認められる場合は、事前に提出があったものとみなす |
クーリング期間 | 1年期間必要 | なし |
雇用保険の被保険者期間 | 6ヵ月以上の被保険者期間 が必要 | なし |
支給限度日数 | 1年100日、3年150日 | 3年300日 |
東日本大震災
2011年の東日本大震災により、東北地方から北関東の生活・産業は壊滅的な被害を受けました。また、震災による直接的な被害がなかった地域でも、計画停電による業務自粛など生活・産業活動に多大な影響がありました。
青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、千葉県、新潟県、長野県のうち、災害救助法適用地域にある事業所、および該当地域と一定規模以上の経済的関係を有する事業所に対し、生産指標要件を1ヵ月5%以上の減少・および震災後の売上減少見込みも対象とし、1年の支給日数を300日にするなど、被災地に対し大規模な特例措置を実施しました。
【東日本大震災における特例のポイント】通常の場合 | 東日本大震災の特例 | |
生産指標要件 | 3ヵ月10%以上低下 | 3ヵ月5%以上低下 ※災害救助法適用地域にある事業所や計画停電に より事業活動が縮小した事業所などの場合は、最 近3ヵ月ではなく1ヵ月の生産量、売上高などがそ の直前1ヵ月または前年同期と比べ5%以上減少し ていれば対象 (平成23年6月16日までの間は、震災後1ヵ月の生 産量などが減少する見込みも対象) |
助成率 | 中小企業:3分の2 大企業:2分の1 |
中小企業:5分の4 大企業:3分の2 ※解雇などを行わないなどの場合 中小企業:10分の9 大企業:4分の3 |
計画届 | 計画届は事前提出 | 事後提出も認める |
支給限度日数 | 1年100日、3年150日 | 1年300日 |
台風
近年は台風による被害が甚大な傾向にあり、台風の被害規模に応じて都度特例措置が実施されています。2019年に発生した過去最大級の台風19号では、助成率の引き上げや支給限度日数を3倍にするなどの緩和措置が取られました。
【2019年台風19号における特例のポイント】通常の場合 | 台風19号の特例 | |
雇用保険 | 被保険者 | |
助成率 | 中小企業:3分の2 大企業:2分の1 |
中小企業:5分の4 大企業:3分の2 |
計画届 | 計画届は事前提出 | 災害発生時に遡って提出が可能 |
クーリング期間 | 1年期間必要 | なし |
雇用保険の被保険者期間 | 6ヵ月以上の被保険者期間 が必要 | なし。新規学卒採用者など被保険者期間6ヵ月未満も対象 |
支給限度日数 | 1年100日、3年150日 | 1年300日 |
新型コロナウイルス感染症
新型コロナウイルス感染症における対応では、過去にない規模で特例措置の緩和が拡大されています。2020年4月から雇用調整助成金の要件緩和措置が度々行われ、事業主の申請にかかる負担が軽減できるように申請がしやすくなっています。
最大100%の助成率に加え、支給上限の大幅な引き上げ・計画届け不要・残業相殺の廃止・教育訓練加算の拡大など、急速な雇用状況の悪化に対し、迅速に助成金を支給する体制が整えられています。
【新型コロナウイルス感染症における特例のポイント】2021年12月現在通常の場合 | 新型コロナウイルス感染症の特例 | |
支給上限 | 8,265円 | 13,500円 (2022年1月以降段階的に減額を予定) 業況特例、地域特例(2021年5月~12月) 中小・大企業15,000円 |
生産指標要件 | 3ヵ月10%以上低下 | 1ヵ月5%以上低下 |
雇用保険 | 被保険者 | 被保険者でない労働者も対象 |
助成率 | 中小企業:3分の2 大企業:2分の1 |
中小企業:5分の4 大企業:3分の2 ※解雇などを行わない場合 中小企業:10分の9 大企業:4分の3 業況特例、地域特例(2021年5月~12月) 中小・大企業:5分の4 ※解雇等を行わない場合 中小・大企業:10分の10 |
計画届 | 計画届は事前提出 | 事後提出も認める (2020年5/19以降は不要) |
クーリング期間 | 1年期間必要 | なし |
雇用保険の被保険者期間 | 6ヵ月以上の被保険者期間が必要 | なし |
支給限度日数 | 1年100日、3年150日 | 左記プラス4/1〜12/31までの対象期間(2022年3月まで延長予定) |
短時間休業 | 中小企業:20分の1 大企業:15分の1 |
中小企業:40分の1 大企業:30分の1 業況特例等対象中小企業が最低賃金の引き上げを実施する場合、 休業について要件緩和(2021年10月~12月) |
残業相殺 | あり | なし |
教育訓練加算 | 中小企業:3分の2、1,200円加算 大企業:2分の1、1,200円加算 |
中小企業:5分の4、2,400円加算 大企業:3分の2、1,800円加算 ※解雇などを行わないなどの場合 中小企業:10分の9 大企業:4分の3 業況特例、地域特例(2021年5月~12月) 中小・大企業 5分の4 ※解雇等を行わない場合 中小・大企業:10分の10 |
6. 雇用調整助成金の情報収集のしかた
雇用調整助成金の情報は、厚生労働省のガイドブックや案内を参照してください。新型コロナウイルス感染症における緊急対応の特例措置は、2022年3月まで延長される予定となっています。
令和4年3月までの雇用調整助成金の特例措置等については、大企業・中小企業ともに、1日あたりの特例期間の上限額が 13,500円から、1月・2月は11,000円、3月は9,000円に縮小される予定です。助成率や業況特例・地域特例に該当する場合の上限金額は15,000円が維持される予定になっています。2022年1月以降、正式な詳細内容を確認するようにします。
相談窓口
雇用調整助成金についての相談は、都道府県ごとにハローワークや労働局で受け付けています。
7. 更新情報もこまめに確認して経営に役立てることが重要
雇用調整助成金は、経営者が労働者の雇用を守るために行う雇用調整をサポートしています。これまで、さまざまな事情によって経営危機に陥ったり、経済的ダメージを受けたりしてきた数多くの企業を救ってきました。
世界中の経済を未曽有の窮地に追い込んだ新型コロナウイルス感染症対応においては、過去にない規模での助成や手続きの簡素化が実行されており、今後も随時助成内容が見直され、適用期間の延長などが見込まれています。
雇用調整助成金は、事業主が休業手当を従業員に支払い、支払った休業手当に対して助成が行われるものです。助成金のコンサルタントなどと称する者による不正な申請を勧誘する報告もあり、トラブルに巻き込まれるケースも散見されます。そのような場合でも不正の対象は事業主となることがあるため、適切な申請をしなければなりません。
まずは雇用調整助成金のあらましを理解し、こまめに更新される情報をキャッチアップすることが重要です。雇用調整助成金を上手に活用して労働者の雇用を守り、危機を乗り越えていきましょう。
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シフト制における注意文
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