バックラッシュ
バックラッシュとは?
「バックラッシュ」とは、社会運動に対する反動・揺り戻しのことを指します。もともとは機械工学用語で、歯車と歯車がかみ合って運動している際に、運動方向へ意図的に設けられた「隙間」や「遊び」を意味します。社会構造が大きく変わろうとするときは、一度に全てが変わることはなく、反動・揺り戻しを繰り返しながら変化を遂げるもの。推進派・反対派のパワーバランスは日々揺れ動きながら、少しずつ形を変えていくのです。
海の向こうではいったい何が?
米国で進むDE&Iバックラッシュからの教訓
ピンと張ったロープが切れると、どうなるでしょうか。ロープは急激に後ろ向きの運動へと変わります。バックラッシュはこの動きに例えられます。ロープを引っ張る力が強ければ強いほど、切れたときの反動も大きくなるのです。
昨今の米国では、DE&Iのバックラッシュが顕著です。近年、マイノリティへの配慮などのダイバーシティ推進が強力に進められてきましたが、ここ数年「過度な優遇は逆差別だ」といった声が大きくなっていました。バックラッシュを決定的にしたのは、ドナルド・トランプ大統領の再就任。“行き過ぎた施策”を是正しようと、トランプ大統領は保守的な意思決定を重ねています。
象徴的だったのは、2023年6月のアファーマティブ・アクションの違憲判決です。ハーバード大学とノースカロライナ大学における、人種を考慮した入学者選抜制度を違憲とする判決が下りました。米国では、1970年代から不平等を是正する目的でアファーマティブ・アクションが推し進められてきましたが、潮目が変わったタイミングと言えるでしょう。
推進派と反対派のパワーバランスが揺れ動く中、米国企業の対応は二分されています。DE&Iへの施策を取り下げる企業と、今後もDE&Iを重視することを発表する企業が現れ、それぞれの価値観を支持する消費者にも影響が及んでいます。
バックラッシュは、長く続いた価値観や社会構造を大きく変えようとするときに必ずといっていいほど起こる現象です。新たな取り組みによって利益を享受する人がいる一方で、変化によって不利益を被ると感じる人々が抵抗を示すのです。米国のケースでは、従来の制度や文化に守られていた人々の「権利が剝奪されるのではないか」「平和が脅かされるのではないか」という不安感が対立を加速させています。
企業として注意したいのは、急激な組織改革や制度変更は、混乱や反発を招くリスクがあること。企業がDE&Iを推進するにあたり、なぜ多様性が必要なのか、どのようなメリットがあるのかなどを、時間をかけて伝え、反対派の意見にも耳を傾けた上で合意形成を進める必要があります。
バックラッシュが起こると、ステークホルダーの反応も変わります。今日では多様性推進が日本社会の「正解」でも、一年後にはまた違った空気が流れているかもしれません。
しかし見方を変えれば、反対派の存在は多様性ある組織の証左でもあります。バックラッシュを単なる後退で終わらせず、意見の対立を建設的な議論に昇華させ、より深みのある制度やカルチャーへ進化させる機会にすることが大切です。

用語の基本的な意味、具体的な業務に関する解説や事例などが豊富に掲載されています。掲載用語数は1,400以上、毎月新しい用語を掲載。基礎知識の習得に、課題解決のヒントに、すべてのビジネスパーソンをサポートする人事辞典です。
会員登録をすると、
最新の記事をまとめたメルマガを毎週お届けします!