ヴント曲線(ブント曲線)
ヴント曲線(ブント曲線)とは?
「ヴント曲線」とは、快適さと刺激の強さの相関関係を表した逆U字型の曲線。適度な刺激は快適に感じられるが、刺激が弱すぎたり強すぎたりすると不安や不快感へと変わることが示されています。縦軸は快適度で、上に行くほど「快」の状態に。横軸は外部刺激量を表し、右へ行くほど情報負荷の高い状態になります。これらの関係性を表にすると、逆U字型で表されます。ヴント曲線は、「実験心理学の父」と呼ばれるドイツの心理学者ヴィルヘルム・ヴントによって提唱されました。
オンボーディングをどのように進めるか?
ヴント曲線が示す「適度」な情報負荷
ヴント曲線は「何事も適度が大事」であることを示しています。人は新しい刺激に触れると気持ちが高揚するものですが、すべてが新しい環境では、不安を覚えたりパニックに陥ったりする可能性もあります。
たとえば、転職してきた社員のオンボーディングで、初週のスケジュールをどのように組むべきかに迷う人は多いでしょう。期待を込めて最初から戦略策定を任せたり、次々にプロジェクトにアサインしたりすると、新しい情報を処理しきれずにキャパオーバーになることもあります。一方で、出勤簿や経費精算などの社内ツールを教えただけでは、「私は何のために入社したのだろう」と物足りなさを感じてしまうでしょう。
「適度な刺激」とは具体的にどのような状態なのでしょうか。結論からいえば、適度な刺激の量や質は人それぞれ異なります。
東洋大学の名誉教授である小川純生氏は、ヴント曲線における「情報負荷」について「処理しようとしている情報によってもたらされる負担」と説明しています。情報負荷は個人によって異なり、処理すべき情報が複雑で高度であるほど、処理に時間がかかって負荷が高くなります。次の二つの例を見てみましょう。
(1) 1+2=3
(2) 1−2=−1
(1)は誰もが簡単に理解できますが、(2)は「マイナスの概念」を知らなければ理解が難しいでしょう。負の値をまだ学習していない小学生は、(2)を「訳のわからない数式」と感じるかもしれません。このように情報が複雑になると負荷が増しますが、一方で「面白さ」という視点から見ると、(1)のように明白すぎる情報は物足りなさを感じさせ、少々考えさせる“引っ掛かり”がある方が興味を引きやすいともいえます。
また、個人の情報処理能力が高ければ、処理できる情報量や複雑さへの許容度も増します。逆に処理能力が低い場合は、より少なくやさしい情報が適しているのです。
オンボーディングに話を戻すと、新入社員のレベルに応じて内容を調整することが重要です。シニアレベルの社員とジュニアレベルの社員では、処理できる情報量や複雑さが異なります。各レベルに合った「適度な刺激」を提供することで、新入社員は無理なく成長や充実感を得られるのです。
ヴント曲線は職場環境や製品開発などにも役立つ指針。対象者にとって「適度な刺激」を意識し、過剰でも不足でもないバランスを追求する視点が大切です。
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