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【ヨミ】コウカクジンジ

降格人事

降格人事とは?

降格人事とは、一般に従業員の地位や役職を引き下げることを言います。職能資格制度における資格の引き下げや、職務等級制度の等級の引き下げにも、「降格」の言葉が使われることがあります。

掲載日:2020/06/29

1. 降格人事とは

降格人事とは、一般に従業員の地位や役職を引き下げることを言います。職能資格制度における資格の引き下げや、職務等級制度の等級の引き下げにも、「降格」の言葉が使われることがあります。

※職能資格制度とは、従業員の職務遂行能力をいくつかの段階に区分し、それに応じて等級を決める制度。職務等級制度とは、職務自体の難易度や責任の大きさなどを段階的に定め、これに応じて賃金や報酬が決まる制度。

降格人事には、懲戒処分の性質を持つものと、人事異動の性質を持つものがあります。また、降格の際に給与の減少が発生するか否かで、正当性における判断基準が変化します。

懲戒処分による降格と人事異動による降格

降格には懲罰的なイメージがありますが、それだけが目的ではありません。降格人事は、以下の二つの意図で行われます。

  • 懲戒処分による降格
  • 人事異動による降格

違いは、降格の原因となる行動が何かという点です。懲戒処分による降格は、勤怠不良や重大な業務違反などが根拠となります。一方、経営上の判断や組織上の必要性、個人の経験や知識不足により業務を満足に遂行できないなど、その地位や職務にふさわしくないと判断された場合の降格は、人事異動によるものとなります。

例えば、業務上横領など就業規則に反する重大な違法行為を犯した場合の降格人事は、懲戒処分に該当します。他方、社員本人が家庭の事情で現在の役職を続けられないために異動を申し出て、本人との合意の上で降格人事を行うのは、人事異動によるものです。

懲戒処分は、従業員に対する処罰のなかでも非常に重い選択です。そのため、違法行為の事実だけをもって、処分を実行することは不適切といえます。必ず、就業規則の中に懲戒事由となる行動を明記しておかなければなりません。

一方で、人事異動としての降格は、必ずしも就業規則に定める必要はありません。労働契約法に反しない限り、企業は人事権の行使として人事異動を実施できるからです。ただし、労働契約に役職や職種の制限がある場合は、降格によって発生する配置異動を従業員と合意する必要があります。降格を実施するときには、採用の経緯や雇用契約書、就業規則で人事権の制限の有無を確認する必要があるため、就業規則に定めておくことが望ましいでしょう。

降格人事に対して従業員本人が不満を抱いた場合、行われた降格人事が懲戒処分なのか人事異動なのかが、しばしば争点となります。そのため降格人事を行う際は、事前に従業員に説明した上で、文書で詳細を通知しておくことが望ましいとされます。

給与の減少を伴う降格かどうか

賃金は労働の対価であり、労働条件の重要事項です。そのため、賃金減少を伴う降格については違法でないかどうかが厳しく判断されます。

職務ごとに異なった基準の賃金が支給される場合、職務の降格で賃金が減少しても、違法ではないと判断されます。その際に重要なのは、降格による賃金減少が就業規則に沿って実施されることです。

  • 役職ごとの賃金規定が明確に定められていること
  • 降格と賃金減少の連動性が就業規則に明示されていること
  • 降格の手続きを就業規則に沿って行うこと

職能資格制度や職務等級制度を採用しており、降格によって基本給を減額する場合も、降格と賃金減額が明確に関連づけられている必要があります。役職手当の減額とは違い、基本給の減額はその正当性がより厳しく判断されます。

労働契約法第9条によれば、労働者の不利益になりうる労働契約の変更は、労働者本人の同意が必要です。そのため減給を伴う降格人事は、就業規則に明確な根拠が求められます。就業規則に明示されていない場合、企業の一方的な労働契約の変更となり、従業員の同意なく実施した減給は無効となる可能性があります。

2. 懲戒処分による降格の要件

懲戒処分による降格を行う場合、就業規則に、違反となる行動や懲戒処分の内容が規定されている必要があります(労働基準法第89条)。懲戒処分が有効と判断される主なポイントは、以下の3点です。

  • 就業規則において懲戒権の根拠が定められている
  • 従業員の行動が定められた懲戒処分の理由に当てはまる
  • 会社の処分が客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当性が認められる

特に労働契約法第15条に規定されている「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当である」の部分は、処分の有効性の判断を左右します。従業員の行動や違反の性質から、処分の内容が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、企業は権利乱用に該当すると判断されます。

詳しくは「降格人事の要件と実例Q&A」を参照してください。

3. 人事異動による降格の要件

懲戒処分での降格とは違い、人事異動による降格は、企業の人事権をもって行使されるものであり、明確な就業規則の定めは必要ないとされるのが一般的です。しかしながら、企業が有する強力な権限であるため、不当な降格は権利の乱用とみなされます。

詳しくは「降格人事の要件と実例Q&A」を参照してください。

4. 降格人事が違法となるケース

降格人事を懲戒処分として行う場合、適切な基準を満たさなければなりません。また、人事異動による降格でも、減給が発生するケースとしないケースとで対応に違いがあります。

詳しくは「降格人事が違法となるケースと実例Q&A」を参照してください。

5. 降格人事におけるその他の注意点

最後に、降格人事を実施する際に企業が注意すべきポイントを紹介します。

企業秩序維持とモチベーションのバランス

降格人事は、従業員本人のモチベーションに大きな影響を与えます。その理由が何であれ、一時的なモチベーションの低下は避けられません。また、企業の対応次第では、職場全体のモチベーションに影響する可能性もあります。

違反行為による降格の場合は、企業秩序の維持に与える影響を鑑みつつ、処分を実行した際に及ぼす労働へのモチベーションに対して、配慮が必要です。

適法でもコンプライアンスの観点で問題がないか

降格人事が就業規則に従って適切に行われたとしても、コンプライアンス上の問題がないか、企業は注意深く調査する必要があります。

例えば、降格人事がパワハラの隠れみのとして実施される場合、不当な目的とする人事権の乱用として無効となり、処罰を下した側のコンプライアンス違反も問われます。

降格人事自体が、大きな権力を持つものです。実行する側に、ルールと法律に沿った姿勢が求められます。

伝え方に問題がないか

適切な措置と順序を守って実施した上で、最後に重要なのが従業員本人の納得感です。降格人事は解雇ではありません。対象となった従業員は、降格した後も組織内で継続して働きます。

そのため、伝え方には十分な配慮が必要です。なぜ降格人事を実施するのかという理由や、その後に求める働き方など、本人の働く意欲を考慮しましょう。

管理職から降格する際の労働組合の取り扱い

管理職が一般職に降格したとき、原則として労働組合に再加入することは問題がありません。労働組合への加入は、一般的に本人の希望と労働組合との協議によって決定されます。

企業が、降格した従業員が労働組合に再加入することに異議を唱えたり、何かしらの制約を課したりすることは、不当労働行為に該当して労働組合法違反に問われるため、注意が必要です。

6. 降格人事は、慎重な検討と適切な対応が求められる

人事異動での降格人事は、懲戒処分による降格人事とは異なり、就業規則に明確な定めは必要ないとするのが一般的な見方です。

ただし労働条件に職務や職位の範囲がある場合は、本人との合意の上で降格人事を実行しなければなりません。減給を伴う降格人事の場合は、降格と減給の関連性が明確でなければならず、法律の上限を超えての減給は認められない点に注意しましょう。

懲戒処分による降格人事が権利乱用にならないためには、就業規則に降格事由を明示することが必須です。それに加えて個別の事案ごとに、処分の内容が適切であるか否か、平等性や相当性の原則にも留意が必要です。

降格人事は、従業員本人の働く意欲や職場での立ち位置、生活に関連する大きな決定です。実施にあたっては、企業に慎重な検討と適切なステップが求められます。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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