【ヨミ】イクジキュウギョウ 育児休業
育児休業とは、労働者が子の養育を目的に休業できる制度です。平成3年に育児・介護休業法が制定され、この中で定められています。育児休業の取得について定める育児・介護休業法は、時代の変化に合わせて、対象範囲や取得期間の改正が継続的に行われてきました。女性が働くことがスタンダードとなっている現在、出産・育児による離職を抑えること、また、仕事と家庭の両立を実現することは経済活動において重要な意味を持っています。
1.育児休業とは
日本で初めて育児休業に関する法律が成立したのは1975年です。しかし、この法律では育児休業を申請できる対象は女性のみで、かつ職業も限定されていました。
その後、女性の社会進出にともなう育児の問題や出生率の低下が深刻化し、育児休業に関わる法令はたびたび改正を重ねてきました。人事担当はつねに最新の状況を把握し、社員が円滑に働ける環境を整える必要があります。

育児休業と育児休暇の違い
「育児休業」と「育児休暇」は混同されやすい言葉ですが、意味が異なります。育児休業は法令で定められているものであり、取得できる対象者・期間・給付金支給などの制度は法の下で管理されます。
一方、育児休暇は、それぞれの企業が社内規定により定めているものです。育児休業と合わせて利用できるなど、内容は企業によって異なります。
育児休業制度の整備が進められる背景
時代とともに改正が行われてきた育児休業制度ですが、現在の日本ではどのような問題が起こっているのでしょうか。
(1)人口減少の問題
育児・介護休業法が制定された背景には、「仕事か子育てか」あるいは「仕事か介護か」といったように、いずれか一方を選択せざるを得ない社会構造を改革する必要性が強まったことが挙げられます。その理由の一つが、人口減少にともなう労働力減少を食い止める必要性です。
総務省統計局が公表している「人口推計」によると、平成30年10月1日時点の日本の総人口は1億2644万人で、前年同月と比べて26万人減少しています。平成20年10月時点の人口と比較すると、10年間で125万2000人もの人口が減少していることが分かります。また、厚生労働省「人口動態統計」の出生率を見ると、第二次ベビーブームといわれる昭和40年代後半から減少を続けています。
就労と育児の両立が難しい日本の構造は、出生率に大きな影響を与えていると考えられています。育児休業には、こうした時間的・金銭的な問題を解決し、未来の労働力を確保する目的があります。
(2)待機児童問題
共働き世帯の増加によって浮上したのが、待機児童の問題です。子どもをあずけて働きたくても保育施設が足りず、就労自体をあきらめざるを得ない状況が続いています。
厚生労働省の「平成29年10月時点の保育園等の待機児童数の状況」によると、待機児童数は5万5433人となっています。社会問題として大きく取り上げられてから時間が経過している現在でも、問題が解消されていないことが分かります。このような状況下、労働意欲はあっても出産とともに退職する女性は多く存在します。
2,育児休業制度の内容
育児休業制度は、少子高齢化による労働力減少の解決に努める一方で、ワーク・ライフ・バランスの実現により持続可能な社会を目指す施策です。ここからは、育児休業制度の具体的な内容を解説します。
対象者
育児休業制度の対象者は原則、1歳未満の子を養育する男女の労働者と規定されています。「子」に関しては、実子・養子ともに適用されます。
(1)対象労働者
日々雇用を除く労働者が対象となります。
パート・アルバイト、契約社員など有期契約の労働者は、以下の要件を満たすことで育児休業を取得できます。
1) 入社から1年以上経過していること
2) 子が1歳6ヵ月に達する日まで、労働契約が満了となることが明らかになっていないこと。ただし、2歳までの育児休業の場合は2歳までとする
(2)対象除外者
労使協定によって、以下の労働者は育児休業の対象外にできます。
- 入社から1年未満の労働者
- 育児休業の申し出から1年以内に雇用期間を終える労働者。ただし、1歳6ヵ月または2歳までの育児休業の場合は、この期間に準ずる
- 一週間の所定労働日数が二日以下の労働者
休業期間
育児休業は、産後8週間後から取得することができます。原則として、子が1歳になる誕生日の前日までの連続した期間となっています。
(1)育児休業の延長
以下の場合は、育児休業期間の延長が認められています。
- 保育施設などに入所できないなどの理由がある場合、1歳6ヵ月まで延長可能
- 1歳6ヵ月の時点でも保育施設などへの入所ができない場合、最長2年まで延長可能
パパママ育休プラス制度
パパママ育休プラス制度とは、夫婦ともに育児休業を取得すると、原則1歳までだった休業期間を1歳2ヵ月まで延長できる制度です。父母それぞれの休業期間の上限は1年ですが、夫婦で期間をずらすことで取得可能期間の延長が可能となっています。
パパ休暇
育児休業を取得できる回数は原則として1回ですが、父親が産後8週間以内に育児休業を取得し、その後職場復帰をした場合、再度育児休業を取れる制度です。トータルの休業期間は1年以内となっています。

3.育児休業給付金
育児休業給付金は、一定の条件を満たした場合に雇用保険から給付を受けることができる制度です。育児休業期間中の生活支援が目的です。
受給条件
育児休業給付金の受給条件は以下の通りです。
- 雇用保険に加入していること
- 育児休業取得前の2年間に、1ヵ月11日以上働いている期間が12ヵ月以上あること
- 有期契約の労働者は、同一の事業主のもとで1年以上の雇用が継続されていること。かつ、労働契約が更新されないことが明らかになっていないこと。
- 育児休業期間中に支払われる賃金が、休業前賃金の80%未満となっていること
- 育児休業期間中の就労日数が1ヵ月に10日以内となっていること
給付額
育児休業給付金の給付額は、以下の計算となります。
ただし、育児休業の開始から6ヵ月経過後は50%となります。育児休業給付金には所得税がかからず、休業中の社会保険料は労使ともに免除となります。
- 【参考】
- 「出生時両立支援助成金」とは
4.「育児・介護休業法」平成29年の改正ポイント
平成29年10月1日に育児・介護休業法が改正されました。ポイントとなるのは、以下の3点です。
育児休業期間の延長
改正の大きなポイントは、育児休業期間を最長2年まで延長可能とされたことです。これまでは、原則として子どもが1歳になるまで保育施設に入れない場合は、1歳6ヵ月まで延長できると定められていました。
しかし、一般に保育施設への入所時期は年度初めになっているため、1歳6ヵ月を過ぎてから年度末まで預けられないという課題がありました。改正後は、1歳6ヵ月の時点で入所ができない場合、再度申請すれば2歳まで延長することが可能となっています。これに合わせて、育児休業給付金の支給期間も延長されます。
育児休業制度の周知
育児休業制度を利用したくても、社内の環境や理解不足から取得が困難となっているケースは少なくありません。これを改善するため、事業主が育児休業取得に関する周知・勧奨するよう規定が設けられました。具体的には以下の内容となっています。
育児目的休暇制度の努力義務
育児休業とは別に、事業主は就学前の子を持つ労働者が育児に利用できる休暇を取れるよう、育児目的休暇制度の新設に努めることが規定されました。
この改正の背景には、妊娠・出産に際して男性側が育児休業以外の全日休暇を利用しているケースが多く見られること、子の看護休暇はあるものの育児や子育てに利用できる休暇制度がない、といった課題が挙げられています。
とくに、男性の育児参加への意識を高めることが重要とされ、配偶者出産休暇や行事参加のための休暇制度などが推奨されています。

5.育児休業にともなう会社の対応
人事および会社は、出産・育児にあたる労働者に対してどのような対応をするべきか、産前休業から職場復帰までの流れとともに解説します。
産前休業から職場復帰までの手続き
(1)産前・産後休業
産前休業は、事業主への申請により出産予定日の6週間前から取得できる制度です。双子など多胎出産の場合は14週間前となります。産後は女性の体を守る目的で、出産翌日から8週間は就業させてはいけない、と定められています。ただし、本人の申し出があり医師の診断で認められた場合は、6週間以降から仕事を始めることが可能です。
産前・産後休業期間中は、健康保険から出産手当金が支給されます。出産手当金は、原則として賃金の3分の2に相当する支給額となります。ただし、休業期間中に出産手当金よりも多い給与が支払われる場合は支給されません。
産前・産後休業中は社会保険料が労使ともに免除されます。事業主は、産前・産後休業の申請があった場合、日本年金機構に「産前産後休業取得者申出書」を提出する必要があります。
(2)育児休業
育児休業は、労働者から申請があった場合は必ず取得させることが定められています。産後休業が終わった翌日からの開始となります。休業期間中は、育児休業給付金や社会保険料の免除があるため、以下の手続きが必要となります。
- 「育児休業等取得者申出書」を日本年金機構に提出し、社会保険料免除の手続きを行う
- 「休業開始時賃金月額証明書」「育児休業給付受給資格確認票・育児休業給付金支給申請書」を管轄のハローワークに提出
- 「育児休業給付金申請書」を2ヵ月ごとに管轄のハローワークに提出
「育児休業給付金申請書」は休業期間が終了するまで2ヵ月ごとに提出する必要があります。通常は事業主が行いますが、事情によっては本人が提出することもできます。
(3)職場復帰
職場復帰の日程は、事前に労働者と会社ですり合わせておくようにします。育児休業をとる労働者は長期間業務を離れているため、スムーズに職場復帰できるよう配慮することが大切です。保育園の状況やキャリアに対する不安などをヒアリングし、労働者が安心して復帰できるようサポートします。
育児休業期間が予定より早くなるなど期間変更がある場合は、「育児休業等取得者終了届」を日本年金機構に提出します。予定通り終了となる場合は、提出の必要はありません。

6.人事は社内の意識改革を推進する必要がある
ワーク・ライフ・バランスを実現するための法令は、時代に合わせ、改正を重ねながら整備されてきました。ライフステージの変化に対応でき、誰もが多様な働き方を実現できる社会は個々の生活を豊かにするとともに、日本の経済活動を支える基盤となります。
しかしながら、出産・育児と就労のバランスにおいては、理想的な状況をつくれていないのが現状です。この一因には、社内環境の整備の遅れ、また理解不足があります。人事担当には、法令の遵守に留まらず、社内の意識改革に取り組むことが求められているといえるでしょう。