優秀な人材をいかに獲得するのか――採用担当者なら誰もが直面する課題ですが、解決への糸口が見えず、試行錯誤の日々が続いているのではないでしょうか。そんななか、旧来の情報流通手法に捉われず、求職者にマッチした自社のリアルな情報をダイレクトに発信し、主体的な採用活動を推進している企業があります。いま注目のスタートアップ企業、メルカリです。同社は求人媒体への出稿はほとんど行わず、人材紹介会社ルートの採用にばかり頼りません。リファラル採用(社員紹介)や、ビジネスSNS・自社採用HPを活用したダイレクト・ソーシングにより、求職者一人ひとりの志向性・価値観にあった情報を発信することで、直近1年半の間に150名以上もの人材を採用しています。募集企業と求職者が直に接点をもつダイレクト型の採用活動。その成功の秘訣はどこにあるのでしょうか。株式会社メルカリ HRグループ 石黒卓弥さんと、総合人材サービス、パーソルグループの株式会社インテリジェンスでダイレクト・ソーシングサービスを推進する小林幸嗣さんに語りあっていただきました。
- 石黒 卓弥さん(いしぐろ たかや)
- 株式会社メルカリ HRグループ
NTTドコモに新卒入社、ドコモでは営業、人事、新規事業会社立ち上げ、その後に新規サービス企画を担当。2015年より現職。メルカリでは採用を中心とした人事企画を担当。
Twitter: https://twitter.com/takaya_i
- 小林 幸嗣さん(こばやし こうじ)
- 株式会社インテリジェンス キャリアディビジョン 採用企画事業部 サービスプロデュース統括部 ゼネラルマネジャ
006年インテリジェンスに入社。転職サービスの立ち上げ期の営業を経験したあと、営業マネジャー、商品企画マネジャーを担当。現在は転職サイトDODA、DODA転職フェア、DODA Recruitersといった各種サービスの企画部門責任者を務める。
6割がリファラル採用。圧倒的なマッチング精度
小林:2017年1月の転職求人倍率は2.35倍。採用時期の前倒しや地方創生、 働き方改革への取り組みなどで採用はより活発化し、求人数は26カ月連続で最高値を更新しました。その中でもIT技術者の求人倍率が大幅に上昇しています。このように中途採用が難しい環境の中で御社はどのような募集をしているのでしょうか。
石黒:メルカリはエンジニアだけでなく、プロデューサーなどプロダクトに関わる職種を幅広く募集しています。特にプロダクトマネジメントに関わる職種はエンジニア経験を始めとしたスキルベースが求められます。適性のある人材に出会える頻度は多くないですね。
必ずしもエンジニアリングに強みがある必要はありませんが、何らかのストロングポイントが必要だと考えています。例えばスマホアプリを始めとしたサービスプロダクトへの感度が高い方。常に最先端のトレンドを把握している方や、一次情報に触れている方、学習意欲の高い方は活躍しています。また、例えば学生時代に海外に住んでいて、現地のアプリ事情に詳しい方なども、グローバル展開を進めている当社では、その知識や経験は役に立つことが多いです。いずれにしても、プロダクトが好きで、その中でユニークな経験や知識をお持ちの方とは、積極的にお会いしていますね。
小林:御社はリファラル採用(社員紹介)が主体ですが、どのくらいの割合を占めているのでしょうか。
石黒:約6割です。それ以外の3割は採用ホームページなどからの経由で、残り1割がエージェント経由です。リファラルやホームページ経由の候補者と、エージェント経由の候補者では、選考におけるパフォーマンスの度合いで開きがあります。前者はマッチングの精度が圧倒的に高く、選考通過率に差が出ます。私自身が何よりも社員を信頼していますし、社員もまた「どんな人と働きたいか」を真剣に考えているからこその結果だと思います。
小林:採用活動を進める上で、重視していることは何ですか。
石黒:昨年あたりから、職務要件をより細かく、具体的にするようにしています。きっかけは、グーグル社の人事トップ(上級副社長)を務めるラズロ・ボック氏の著書『ワーク・ルールズ!』です。職務要件を細かくすることで、社内外の理解が深まり求める人材に出会える確率が高まります。候補者側もその内容から当社の仕事を「自分事」として捉え、より興味を持ってくれるようになります。例えば、「エンジニア」と一括りにされるよりも、「検索ロジックに強い」「プロダクトファーストで取り組んできた」など、求めるスキルや経験をより具体的に記載するようにしています。
また、入社後の役割を明確にしておくことは、候補者のモチベーションマネジメントの観点からも欠かせません。オファーレターには「当社にはあなたのこの能力が必要です」と、具体的に打ち出すことを実施しています。そのために重要なのが、人事と各組織の採用に関わるメンバーとのコミュニケーション。どんな人が必要なのか、マネジャーには詳細にヒアリングするようにしています。
小林:御社では、現場のマネジャーもかなり採用に積極的のようですね。
石黒:はい。マネジャーこそ採用にコミットしよう、と言っています。そのため、マネジャーからは「こういった背景があるのだけどこういうスキルを持った人はいる?」などと良く聞かれます。聞かれた時に人事が一歩先回りした回答をできるかどうかは、採用活動を進めていく上で極めて重要です。人事に対する信頼が変わってきますからね。そのため、マネジャーとの会話の中で分からない言葉が出てくれば必ず調べるのはもちろん、社内のコミュニケーションツールであるSlack(チャットツール)も頻繁に確認し、そこで使われている言葉で不明なものがあれば詳しく調べるなど、常にインプットを心がけています。
旧来の人事のイメージは一切無視。チームの目標達成を常に意識
小林:現場の採用ニーズや市場トレンドを捉えるために、ご自身のお仕事をどう設計されていますか。
石黒:採用担当者はあれもこれも、多くの業務を担いがちです。しかし、当社では担当役員のスタンスもあって、余計なことはせずに、採用に注力した仕事ができるようになっています。人事の中でも労務と採用が明確に分かれていて、それぞれにスペシャリストがいます。その分、結果を出さなくてはならないという良質のプレッシャーがあります。一方、特徴的なのは面接です。人事担当を募集する以外の面接は現場に任せ、書類選考も募集ポジションの担当役員や現場が担当しています。
小林:なぜ、現場の方が面接を担当されるのですか。
石黒:当社ではどの社員も、求職者に会社のバリューである、Go Bold(大胆にやろう)、All for One(全ては成功のために)、Be Professional(プロフェッショナルであれ)を自分の言葉で話すことができます。そのため、必ずしも人事が面接を担当する必要はありません。むしろ実際に働く現場のメンバーが話をする方が、より候補者をひきつけるケースも多くあります。
面接後に「現場の方の話を聞けて良かった」といった声も聞かれるなど、候補者の満足度も高いです。何より、候補者の働くイメージが明確になるため、当社に入社するかどうかを判断しやすくなります。
小林:お話を伺っていると、一般的な人事・採用部門とはかなり印象が違いますね。
石黒:担当役員からはいつも「旧来の人事のイメージは一切無視しよう」と言われています。HRのグループ内の人事経験者は半数以下であることや、私自身も営業や企画の経験が長いこともあり、人事に関して固定的なイメージがありません。会社が成長し成功するためには、どうすればいいのか。チームとしての目標達成を、常に意識しています。
自社メディアを通じて社内情報を多角的に発信
小林:ところで、自社メディア「mercan(メルカン)」には、大変多くの記事が掲載されていますね。
石黒:「mercan(メルカン)」は「メルカリの情報はいつもここに」をコンセプトに、2016年5月にスタートしました。メルカリのヒト・コトにフォーカスを当て、採用情報に限らず、各チームや職種でさまざまに発信しています。一日2本くらいのペースで掲載しており、現在の記事数は400本を超えています。「メルカリで働くこと」に少しでも興味を持ってもらう目的もあったので、面接に来てくれた方が「mercan(メルカン)を読んできました」と言ってくれるとうれしいですね。うれしいから、またやる。とても単純なサイクルです。もちろん効果検証はしていて、面接に来た方には「mercan(メルカン)を見ていましたか?」「どうやって知りましたか?」「もっと知りたかったことは何ですか?」などと、お聞きするようにしています。
広報チームも人事の隣の席にあるため、採用広報に関する情報共有は徹底しています。もしかするとこの辺りも、一般的な人事・採用部門とは大きく違う点かもしれません。
小林:最近は御社を含めて、自社の情報を発信する会社が増えています。今後、さらに多くの会社が同じようなことを行ったら、「mercan(メルカン)」をどうしていこうとお考えですか。
石黒:元の形を変えることを恐れず、「他のやり方がないか」を常に模索していく必要があると考えています。候補者に情報が届きにくいなら、どうすれば届くのかを考えなければいけません。トレンドも変わっていきますので、その状況に合わせて、あらゆることにチャレンジしていきたいと思います。
小林:工夫の仕方次第で、結果は全く違うものになりますからね。どこまで考え、やり続けていくのかが、競争力の違いになってくると思います。
より難易度の高い施策へのチャレンジが必要
小林:リファラル採用、ダイレクト・ソーシング採用を進めるにあたり、心がけていることは何ですか。
石黒:役員はもちろんですが、現場を巻き込んでいく中で、「採用が会社にとっていかに大切な活動であるか」という認知を高い状態にし続けること。そして、それをやり続けることです。採用には、経営陣自らが積極的に取り組んでいますので、自然と社員たちにも「自分たちもやらなくては」という強い思いが生まれます。そのため、人事から採用に関する協力を依頼しても、断る社員はいません。そのフレンドリーさ、フットワークの良さはうれしい限りです。
小林:それは採用担当冥利に尽きますね。他にも心がけていることはありますか。
石黒:誰もやっていないことを、あえてやってみることです。感覚や噂話だけで判断するのではなく、まだあまり認知されていないメディアやプロダクトでも、まずは説明を聞き、とにかく使ってみるようにしています。使ってみた結果で判断します。ただ、効果を上げるためのチューニングは必ず行っています。スピード感を持って、PDCAを回していくのです。毎回どうなるかを自分なりに想像するのはもちろん、エンジニア向けの施策であれば、世に出す前に必ず社内のエンジニアに聞くようにしています。もちろん、時には厳しいフィードバックを受けることもありますが、忌憚(きたん)のない意見はありがたいですね。
また、選考フェーズで候補者が困ったり、悩んだりすることのないように努めています。一人ひとり、悩むポイントや背景は異なるので、私の頭のなかには、さまざまなケースに合わせて「社内の誰を面談にアサインすれば良いか」が入っています。例えば、大企業からスタートアップに移ることに不安を感じている人には、同じような経験をしてきた社員に会ってもらいます。同じような経験をした社員や近い境遇にいる社員から「こうすることで、不安を克服し、課題が解決されました」という話を聞くと、心に響くからです。
小林:2017年の重要テーマや、強化したいポイントについてお聞かせください。
石黒:私やメルカリのHRチームにしかできない、より難しいことにチャレンジしていきたいと思っています。社員紹介の仕組みも会社のカルチャーとしてかなり根付いてきましたが、取りこぼしがないよう、いろいろなことにトライしていくつもりです。例えばリファラル採用についても、社内の取り組みだけにとどまらず、様々なやり方を積極的に試し、影響範囲を広げていきたいと考えています。
小林:どのように取り組んでいくのでしょうか。
石黒:転職潜在層へのアプローチは、より難易度が高まっています。だからといって、動かなければ当然、接点を持つことはできません。やはり、手数を増やして愚直にやり続けるしかないと考えています。その上で、もっと社内を巻き込んでいくとか、良いデータベースやタレントプールを探し出すとか。今までアプローチの難しかったところまで、声を届けていくことも大切です。
まずやってみる。そしてやり続けることが成功につながる
小林:御社の採用がここまで話題になってくると、他社の採用担当者からの相談も増えているのではありませんか。
石黒:確かに増えています。特にリファラル採用を始めたばかりの会社や、採用強化にあたり「まず何から始めたら良いのかわからない」などの相談が多いですね。私がよく言うのは「信頼できる人の情報を集めること」「自分が届けたいところに対し、まずは何か手を打って反応を見てみることが大切」と伝えています。決してハードルが高いわけではないんです。
また、「人は突然何かを好きにはならない」というのが私の考えです。だからこそ、当社を好きになってもらえる理由をいろいろな場所に散りばめ、働いている人や場所をイメージしやすくすることなど、好感を持ってもらう努力をしなければなりません。常に種を播いておくことが大切です。例えば、当社ではMeetupイベントなどのスカウトメールを一人ひとりに対し丁寧に送っています。相手が言われると喜びそうなことは特に丁寧に書きますし、もしも本人がネガティブに感じていそうなことがあれば、伝え方や切り口を変えてポジティブにメッセージを書くようにしています。
小林:求職者が好きになる理由を作るということですね。お話を伺っていると、御社の採用成功の秘訣は、「会社や仕事、就業環境、働く仲間の情報を、いかに求職者個人に合わせて直接届けるか」を地道にやり続けていることにあるように感じます。
弊社で運営しているダイレクト・ソーシングサービス「DODA Recruiters」でも、今の話に共感できるような現象が出ています。2016年9月に新たな機能を開発。採用担当者の顔写真やプロフィールをメッセージに組み込める機能を新設したところ、返信率が以前の2.2倍に増えました。この数字を見ても、「会社や仕事、就業環境、働く仲間の情報」を直接知りたいという求職者が多いことが分かります。
募集企業が求職者に直接アプローチする「ダイレクト型」での採用が加速するよう、弊社でも、その仕組み作りにどんどんチャレンジしていきたいと考えています。本日はありがとうございました。
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