「確定拠出年金」と「確定給付企業年金」新企業年金制度の導入パターンを探る
企業の退職金・年金制度を取り巻く環境は、依然として大変厳しい状況にあります。超低金利政策や株式市場の低迷で、年金資産運用利回りは2000年度から3年連続のマイナス。2001年からは新たな退職給付会計が導入され、多くの企業で退職金の積立不足が表面化しています。一方で、2001年10月から確定拠出年金法が施行され、また2002年4月には確定給付企業年金法が施行されて、公的年金に上乗せする企業年金は多様化しました。これまでの厚生年金基金や適格年金に加えて、確定拠出年金や確定給付企業年金(規約型・基金型)も選択肢となったのです。厳しい経営状況を背景に、新しい年金制度を導入した企業が目立ちますが、新制度は職場でスムーズに受け入れられたでしょうか。新企業年金制度と企業をめぐる事情について、労務行政研究所の調査をもとに探ってみます。
制度改定に当たって「確定拠出年金」を導入するケースが最も多い
労務行政研究所が昨年9月末から12月初めにかけて、全国の主要企業約4000社を対象に実施した調査によると(回答数は193社)、2002年以降に年金制度の「改定を行った」企業は全体の55.1%と、半数を占めています。
では、企業は、退職金・年金制度をどのような内容に改定しているのでしょうか。表(1)をごらんください。
これは労務行政研究所が、新しい企業年金制度(確定給付企業年金・確定拠出年金)を導入済みの企業を対象に実施した調査の結果です。改定後の退職給付制度では、「確定拠出年金」を採用するケースが最も多く、74.7%に上っています。次いで多いのが「退職一時金」で36.8%、以下、「規約型確定給付企業年金」21.1%、「基金型確定給付企業年金」12.6%と続きます。「規約型」「基金型」を合わせると、確定給付企業年金は33.7%になります。
(5)の「従来型企業年金・一時金+確定拠出年金」が34.7%と多く、次いで(2)の「確定拠出年金のみ」が32.7%です。確定給付企業年金を入れずに確定拠出年金を導入したこの両者で計67.3%と、3分の2を超えます。規模別・業種別に見ると、小規模企業と非製造業でその割合が高くなっています。
一方、(1)の「確定給付企業年金のみ」と(4)の「従来型企業年金・一時金+確定給付企業年金」はともに12.2%で、確定拠出年金を入れずに確定給付企業年金を導入したこの両者は計24.5%と、全体の約4分の1にとどまっています。長期継続を重視したこのパターンは大規模企業と製造業で割合が高くなっています。
改定の最大の理由は「運用利回りが悪化し、積立不足が問題化」
では、各企業が退職金・年金制度を改定した理由はなぜでしょうか。表3をごらんください。
改定の理由として最も多いのは、「資産の運用利回りが悪化し、積立不足が問題化したため」の58.3%です。以下、「退職給付会計が導入され、退職給付債務などが計上されたため」41.7%、「適格年金が2012年3月末に廃止されるため」39.6%、「退職給付を年功的なものから、能力・成果反映型に変えるため」29.2%と続きます。
規模別に見ると、1000人以上では第3位に「厚生年金の代行返上が可能になったため」が入ります。また、300人未満では「適格年金が2012年3月末に廃止されるため」が第1位、「退職給付を年功的なものから、能力・成果反映型に変えるため」が第3位に入っています。
確定拠出年金を導入後、「問題あり」と感じている企業が多い
これまで見てきたように、確定拠出年金を導入した企業は多いですが、その新しい制度は職場にスムーズに受け入れられたでしょうか。
表4をごらんください。
自社の確定拠出年金の問題点の有無を尋ねたところ、「問題あり」が93.0%にも達し、ほとんどの企業が問題を感じているという結果が出ました。
「問題あり」と答えた企業にその内容を聞くと(複数回答)、「中途の引き出しができない」を挙げる企業が最も多く、78.8%に達しています。確定拠出年金は「老齢給付」であるため、たとえ退職しても若いときに受給することはできません。たとえば、退職して専業主婦となった場合、国民年金基金連合会が管理する特別の勘定に年金資産を移して、60歳になるまで長期運用を強いられることになります。こうした点を問題とする指摘する声はかねてよりあり、ここでも多くの企業が指摘する結果となっています。
その他、「従業員の意識啓発に苦労する」47.0%、「従業員から拠出できない」37.9%、「従業員に対しての投資教育が負担」36.4%などを指摘する声も少なくありません。確定拠出年金は従来の制度と異なり、従業員が自ら運用を行うために、教育や意識啓発への労力がばかにならないということができます。
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