若手社員をどうしたらイキイキさせることができるか
若手社員をどうしたらイキイキさせることができるか
ジェイフィール コンサルタント
高橋 克徳
山中 健司
1.あなたの会社の若手社員、イキイキ働いていますか?
今の若手社員は、真面目だけどおとなしい、何を考えているのかわからない、厳しいことを言うとすぐに萎縮する、自分から主張しない、悩んでいても誰にも相談せず突然やめてしまう人もいる、何を考えているのかわからない・・・。
そんな話をよく聞きます。新人研修では素直で目を輝かせていた若手社員も、数年経つと目の前の仕事に追われ、元気をなくしている。そう嘆く、人事部の人たちもいます。
責任の大半は、上司にあります。時間がない、余裕がないと言いながら、彼らの状況を把握できず、指導も支援も出来ない。これでは、やる気を失くし、辞めてしまう人が出ても仕方ないと思います。
ですから、上司が部下と向き合い、彼らの気持ちを知ることで、育成に前向きに取り組めるようにしていくことが第一です。ジェイフィールでも、こうした部下育てマインドを取り戻す研修を行ったり、実際に部下が殻を破り、大きく育つために、高い目標を設定して、それを上司が徹底支援して達成できるようにする、戦略的OJTというプログラムを実施しています(第2回コラム参照)。
本来はこうして上司と部下との関係が変ることが大切です。どちらか一方がやる気になっても、お互いのベースにある信頼関係が変らなければ、部下も前向きに踏み出していくことはできません。では、部下である若手社員をイキイキさせるために、彼らに直接働きかけることは意味がないのでしょうか。
そんなことはありません。若手社員が育つためには、周囲のアドバイスや支援を受け入れることができ、同時に自らの力で自分を推し進めていくことができなければなりません。自分が経験していることすべてを自分の中に取り込める、経験を自らが意味づけし、次の自分の成長につないでいく。そんな力を引き出していくことによって、今起きていることに不安を感じながらも、自分の殻に閉じこもることなく、周囲との関わりの中で成長していける人になります。
そのためにどのような取り組みをしたらよいか。ぜひ、一緒に考えてみてください。
2.若手社員を萎縮させている3つの理由
実際に若手社員と言ってもさまざまです。先述したように、おとなしい、何を考えているのかわからない部下がいると思えば、自分を過度にアピールしたり、周囲を気にしていないのかマイペースで響かない部下もいると思います。仕事は要領が良いけれども、効率ばかりを優先して、自分では考えなかったり、すぐに答えを求めようとする若手社員も多いと聞きます。
それぞれ違うようには思えますが、こうした言動、振る舞いをさせてしまっている要因はどこにあるのでしょうか。
第一の要因は、将来不安です。「努力をしても報われない」と感じた人たちが希望をなくしていく社会や、リストラ、フリーター、非正規切り、名ばかり管理職、ブラック企業といった、人を追い込む企業の姿を見てきて、自分もそうならないかと不安を感じて育ってきた世代です。
どこかでそうした不安が自分にプレッシャーをかけてくる。しかもゆとり世代の中には、自分を否定される経験が少ない人も多い。だから、ちょっとした厳しい指摘が自分を否定しているかのように聞こえてしまう。深刻に受け止めてしまう。それが彼らを萎縮させていくのです。
第二の要因は、認めてくれない、評価してくれないことから来る自信のなさです。学生時代までは大きな否定を受けなかった人も、今は就職活動で多くの企業から不採用とされ、自分という存在の価値に不安を抱くようになります。それでも入社した会社。だから、どうにか認めてもらいたい、評価して欲しいと思う。ところが成果が出ないと、良いフィードバックは返って来ない。自分は本当に受け入れてもらえているのかが見えない不安に駆られていくのです。
第三の要因は、自分の成長シナリオが見えないことです。気づくと同じ仕事の繰り返し、確かに今の仕事は生産性高く働いているかもしれないけれども、幅が広がらない。自分が成長できるのか、このままで大丈夫なのかがわからなくなる。先輩や上司を見ても、10年後、20年後のビジョンが見えてこない。この会社でいつまでも働くことが出来るのか。その先に何があるのか、イメージできないということです。
3. 若手社員をイキイキさせる鍵
こうしてみてくると、彼らをイキイキさせるためには、彼らに安心まではいかなくとも、希望が持てる、期待が持てる状況を生み出すことが重要だとわかります。
基本はあなたを成長させる、そのために厳しいことも言うけれども、それであなたを排除しようとすることはない。一緒にあなたの成長を考え、あなたがこの会社でイキイキと働けるように支援していきたい。こうした考え方をしっかりと示し、実際にそうした人を追い込む行動を会社が取らないことが一番大切です。
事業が短期的に生き残るための社員を切ったり、社員に過剰な労働を強いることは、結果的に人が集まらない組織になる。それが組織の競争力を削いでいく。人を大事にしない企業は存続しない。そのことを企業として共有すること、人事部門として経営に働きかけることは難しくともしっかりとやるべきだと思います。
この土台があった上ですべきことは、彼らが自分と向き合う力をつけ、同時にもっとより良い自分を描き、前進する力をつけることです。この二つの力が、若手をイキイキさせる鍵です。
第一の力とは、彼らが自分と向き合う力、すなわち自分の考え方や価値感、行動を客観視する力です。今は、個々人が自分の担当の仕事に閉じこもって働いている。お互いの忙しさも、苦労も、すばらしさも、本当は見えていません。だから、自分だけが忙しい、自分はこんなに頑張っているのにと思う。ところが、実際には自分のやり方が不十分だったり、もっと他にいいやり方があるのに気づいていなかったり、他の人の方がもっと丁寧に粘り強くやっている。そういう他の人たちの仕事ぶり、こだわりが見えていません。まずは、ここにしっかりと向き合い、他の人から学ぶ姿勢、いろいろな人の良い点を部分的にでも学ぼう、取り入れようとする姿勢を身につけさせることが重要です。
第二の力とは、より良い自分を描き、そこに思いを持って前進できるようにする力です。今の若手社員の中には本当の伸び伸びとした良い教育を受けてきた人たちもたくさんいます。英語やインターネットが当たり前の中で育ち、グローバル感覚も、情報を受け取る感度も高い人たちもたくさんいます。そうした一人ひとりの良さを知る、気づく、そこに自信を持ち、その先の未来を見えるように支援することが大切です。
わたしは今の若い人たちには、多くの潜在能力が備わっていると思っています。
努力が報われないことへの不安があるからこそ、本当の意義を考える、目的や意味を突き詰めようとする姿勢がある。自分を否定されることが怖いから、踏み込む力が弱いけれども、携帯電話やネット社会に育ち、多くの人たちとためらいなく広く結びついていくことができる力がある。さらに、気遣いしすぎたり、受動的のように見えるかもしれないけれども、相手のために何かをしたい、社会の弱い人たちのために何かをしたいという強いやさしさや思いやりもある。
こうした自分たちの良さに気づき、それをどう活かすかを考える。そのために、まずは若手世代が他の世代の良さを知る、自分たちとの違いを知る、その中に自分たちにしかできない、自分たちだからこそできることを見つけていく。そんな支援をしていくことが必要なのだと思います。
では、どうしたら、彼らが自分と向き合い、自分の中にある良いものに気づき、イキイキと自分を描けるようになるのか。ここから、研修事例を通じて、一緒に考えて見てほしいと思います。
4.事例 若手社員をイキイキさせる方法
若手が安心感や期待感を持って働ける土台作り、若手が自分と向き合う力、前進する力をつける取り組みとして、ある企業の事例をご紹介いたします。
■ 取り組みの背景と土台作り
多くの企業同様、A社でも経営環境に応じて社員への負荷も大きくなり、ここ数年現場での上司と部下、同僚同士の関係が希薄になる傾向がありました。以前は、職場の上司や先輩が若手の指導や、相談を受けてアドバイスをしたり、仕事帰りに一緒に飲みに行くなど自然とフォローされていたのですが、そのようなOJTの活動が現場によって温度差が出てきたのです。
「このままではよくない。業務内容が多様化し、社員一人ひとりが多忙になっている時代だからこそ、上司・部下、先輩・後輩がそれぞれ緊密に関わり合い、風通しのよい組織風土を醸成し、育成の風土を根付かせたい。」
このような思いもあって、新たなOJTの仕組みを2010年から導入することになりました。
まずは、2年間をOJTの期間として位置づけ、フォローを徹底することに。1年目は基本を覚える時期でトレーナーがはりついて育てる、2年目は、見守りつつ、自立を促していく時期として、現場の上司やトレーナーを巻き込んで実施。トレーナー役の先輩社員に任せっきりにするのではなく、上司、人事部が一緒になってフォローを行っています。具体的には、1年間で7回の面談を実施。3回は上司、トレーナー、新入社員の3者で、4回は人事部のメンバーを交えて4者で話し合い、成長や課題、悩み、関わり方などを共有しています。
1年目は仕事の実務的な部分を覚えることについて話し合う機会が多いのですが、2年目になると仕事の目的「なぜ、この業務をするのか」や成長課題「将来こんな風になりたい」という風に自立を促すような話し合いに焦点が当てられます。
2年目の目標設定の時期には上司やトレーナーに本人がインタビューを実施。「一緒に仕事をしていて、こんなところがすごいと思う。どうしてできるようになったのか。私はそんなところを身につけたい」と話を聞きながら、自分の課題を見つけていき、1年間の成長目標を設定する。このように、成長目標を意識させること、日々のフォロー、年7回の面談を通じて、自分の成長に責任を持つよう促し、若手がイキイキと働ける土台を作っていくのです。
■ 自分と向き合う力、前進する力を身につける
OJTの仕上げとして、3年目になった時に振り返り研修を実施し、OJTをされる側からする側に変わる節目をつくります。
この研修では、大きく分けて2つの狙いがあります。1つは、「自分と向き合い、2年間の成長や自分が大切にしている考え方、価値観を見つめる」こと、もう一つは、「より良い自分を描き、そこに思いを持って前進できるようにする」ことです。
全2.5日のプログラムで、初日は求められる能力や意欲についてどのような状態なのかをフィードバックします。事前に上司、周囲、本人にアンケートで答えてもらい、客観的な意見と自分の考えを照らし合わせて、自分の課題を見つめます。
2日目からは、初日のアンケート結果も踏まえ、具体的に自分はどのようなことができるようになったのか、仕事に対する姿勢が身についたのかを振り返り、成長を確かめます。同期の仲間とお互いの成長を共有することで、自分が成長したこと、課題だと思うことがより明確になっていきます。
次は、自分の経験や上司・先輩社員への事前インタビュー(A社らしいよい仕事のエピソードをヒアリング)を共有しながら、この会社で働く意義、意味を改めて確認します。その手段として、5、6名のグループに分かれて、A社にとって、よい仕事をする上で大切にしていることは何か? A社らしさとは何か? を夜遅くまで議論し、自分達が後輩に伝えたいメッセージとしてスライド映像を作成します。3日目に各グループの映像を視聴し、お互いが感じたことを共有するのです。
このプロセスを通じて、よい仕事をするために必要なこと、自分を成長させるために大切なことを掘り下げて、仕事をする上でこれらからも大切にしていきたいことを考えていきます。その上で、自分はこんな存在になりたい、こんな風に成長したいと将来像を描きます。
自分の将来を描き、前向きに頑張る姿勢を生み出すために大事なこと。それは、この会社でよい仕事をしたい、それを通じて自分も成長していこう、など「この会社で働く意味、意義」を感じることです。これがあるから、日々の厳しい仕事の中でも前向きにイキイキと働き、成長することが実現できるのだと思います。
5.若手社員とともに、企業を育てよう!
ジェイフィールでは、若手社員が仕事や会社への思いを取り戻す研修を「会社惚れ直し研修」と呼んでいます。3年目、5年目、10年目といった節目に、それまでの自分の成長を振り返る。でもそれは、能力面での成長を振り返るだけなく、自分の思いの変化と向き合っていく。
この会社に来て、自分は何を見てきたのか、何を感じてきたのか、そこでどんな思いをもてるようになったのか。日々の忙しい業務の中で仕事への目的意識を失い、会社が段々遠い存在なり、この会社で働いていることに意味を感じなくなる。そんな人たちに、今一度、仕事への思い、仲間の大切さ、会社への誇りを取り戻そうという取り組みです。
実際に研修の中で後輩に伝えたい、この会社の「よさ」や「らしさ」を映像化してもらうと、驚くことがあります。それは、小さな出来事の中にしっかりとその背景にある大切な考え方を捉える力があるということです。しっかり考えると、深い議論ができる。背景にある人の心理を考えることもできる。ところが深く考える時間を与えたことがない、むしろ結論を出すことばかり求められてきた。しっかり考えれば、彼らは意味を見出す力があるということです。
改めて自分と会社と向き合ってみる。そうしたら、今まで見えていなかったことが少しだけ見えてきた、上司や先輩たちの仕事への思いが見てきた。そこに自分が共感でき、思いが重なるものが見えてきたとき、目の前にある大きな壁に穴を開けることができるようになります。
最初は上司への不満を言ったり、元気をなくしていた若手社員が、研修が終わる頃に笑顔で語り合い、決意を新たにする姿を見ると、彼らにとって自分や仲間、会社と向き合うことが、彼らの不安という壁を壊してくれるということを痛感します。
同時に、この研修は多くの人たちを巻き込む力があると思っています。彼らの目線でつくった「会社のよさ、らしさ」を伝える映像は、多くの人たちにこの会社で働くことの意味、若手社員への思いの連鎖を起こしていくことにつながります。
A社でも、この研修で作成したスライド映像や研修で話し合われたことを、上司・トレーナーや経営層と共有しています。それは、若手がどのようなことを感じているのかを理解してもらいたい思いと彼らが描いたA社にとって良い仕事、大切にしていることを感じることで、若い人がイキイキ働く組織をつくろうという思いの連鎖を起こしていくためです。
チャレンジングな取り組みでしたが、経営層にスライド映像を見せた時には、感動する人が多く、社長他多くの役員に好評でした。ある経営企画の役員は映像視聴後、人事部に直接やってきて「経営企画部全員で見たいから、映像を貸してほしい。中期経営計画を立てる時に、思いを持って作って欲しいから、事前に見たい」と言ってくれたという話も伺いました。
皆、厳しい環境で大変な状況だと思います。でも、人事部が思いを持って、知恵を出し、工夫をすれば実現可能です。若手が前向きにイキイキと働いている姿を想像してください。それだけでも素晴らしいことだと思いますが、実はその若手の姿が組織全体を元気にする一つの鍵になるのだと思います。
- モチベーション・組織活性化
- 人事考課・目標管理
- キャリア開発
- マネジメント
- チームビルディング
どうしたら「人が育つ組織」をつくれるのか。
このテーマを中心に、様々な組織変革の支援を行っています。
人は仕事や人との関わり合いを通じて現場で成長する。アサヒビール(株)の営業経験などから得たこの考えの元、現場で一人ひとりが成長し続けることができる「場」を創り出し、企業変革を実現することをテーマとして取り組んでいる。
山中 健司(ヤマナカ ケンジ) 株式会社ジェイフィール コンサルタント
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