キャリア自律と組織環境の実態に関する調査結果
人的資本経営は「働きやすさ」から「挑戦を生む環境」へ。
キャリア自律度と組織の成長支援環境を分析。安心して働ける環境は整う一方、主体的な挑戦につながらない実態が明らかに。
■調査結果の概要
キャリア開発診断の全60設問・19,154件の回答データを分析した結果、個人の主体性を示す「キャリア自律度」と、その発揮を支える「組織の成長支援環境」の双方において、日本企業に共通する特徴的な傾向として下記3つが明らかになりました。
- 職場関係性への満足度は高いのに、挑戦しない。欧米型「静かな退職」とは異なる「日本型キャリア停滞」が明らかに。
- 現在の仕事には満足。一方で、将来のキャリア像は描きにくい実態が明らかに。
- 年齢とともに自己理解は深まる一方、キャリア目標は全世代で伸び悩み。将来像を描くことが共通課題に。
一般社団法人プロティアン・キャリア協会(東京都新宿区、代表理事:田中研之輔・有山徹、以下「当協会」)と4designs株式会社(東京都中央区、代表取締役CEO:有山徹、CSO:田中研之輔)が提供する「キャリア開発診断」に蓄積された19,154件の回答データを分析し、日本企業におけるキャリア自律と組織環境の実態に関する調査結果を発表しました。本調査では、こうした結果をもとに、日本企業が次に向き合うべき「キャリア目標の形成」と「主体的実践を促す組織づくり」の課題について解説します。
■調査結果の詳細
1.職場関係性への満足度は高いのに、挑戦しない。欧米型「静かな退職」とは異なる「日本型キャリア停滞」が明らかに。
職場における職場関係性への満足度は77.4ptsと全項目で最も高いスコアとなりました。一方で、実際の行動や挑戦につながる「主体的実践」は60.39ptsにとどまり、両者には17.01ptsのギャップが見られました。
働き方改革やハラスメント防止施策の浸透により、「安心して働ける環境」は整いつつあります。しかし、将来に向けた「キャリア目標(60.7pts)」も低水準にとどまっており、安心感が必ずしも主体的な挑戦や成長につながっていない実態が浮き彫りとなりました。この傾向は、欧米で注目される「静かな退職(Quiet Quitting)」とは異なり、会社への愛着や働きがいは保たれている一方で、主体的な挑戦や将来に向けた行動にはつながっていない、日本企業特有の“静かな停滞”とも言える状態が見られました。
2.現在の仕事には満足。一方で、将来のキャリア像は描きにくい実態が明らかに。
職場への愛着や働きがいを示すエンゲージメントは76.4ptsと高水準である一方、将来に向けたキャリア目標は60.7ptsにとどまり、15.7ptsのギャップが見られました。
また、個人のキャリア自律度と組織の成長支援環境を掛け合わせた分析では、「組織環境に満足しているが主体的な行動にはつながっていない層」が34.3%と最も多い結果となりました。
働きやすさや職場関係性への満足度の向上は進んでいる一方で、未来の目標設定や主体的な挑戦を促す仕組みづくりには課題が残っています。この背景には、日本企業で広く活用されている「WILL・CAN・MUST」のフレームワークが、未来設計よりも現在の役割や能力に焦点を当てやすいという側面も考えられます。今後の人的資本経営では、曖昧な「WILL」を具体的な「キャリア目標」へと転換し、主体的な行動につなげる支援が重要になると考えられます。
3.年齢とともに自己理解は深まる一方、キャリア目標は全世代で伸び悩み。将来像を描くことが共通課題に。
年齢を重ねるにつれて自己理解力は向上する一方、キャリア目標は全年代で低水準にとどまることが明らかになりました。
また、「個人の自律」は年齢とともに高まる傾向が見られた一方で、「組織環境への満足度」は若年層ほど高く、年齢とともに緩やかに低下する傾向が確認されました。「上司からの支援・関わり」に対する評価は、全世代で大きな差は見られませんでした。
■各専門家よりコメント
▼キャリア自律研究の第一人者よりコメント:
「居心地の良さ」の裏に潜む日本の危機。人事は今すぐ『未来の目標』への投資に着手すべき
一般社団法人 プロティアン・キャリア協会 代表理事/4designs株式会社 CSO/法政大学キャリアデザイン学部教授
田中 研之輔
今回の調査結果から見えてきたのは、日本企業において「働きやすさ」は着実に向上している一方で、「自分の未来を描く力」の育成が十分に進んでいないという現実です。
特に注目すべきは、キャリア目標のスコアが全年代を通じて低い水準にとどまっている点です。これは個人の意欲や能力の問題ではありません。多くの人が、自らの未来について考え、言葉にし、対話する機会を十分に持てていないことの表れだと考えています。
AI時代のキャリア開発において重要なのは、「何に向いているか」を探すことではなく、「変化の中で何度でも学び直し、自分の可能性を更新できるか」という視点です。そのためには、キャリア自律を個人の責任として捉えるのではなく、組織が主体となって支援する仕組みづくりが欠かせません。
社員が安心して未来を語り、新たな挑戦に踏み出せる環境をいかに設計できるか。今回の調査は、人的資本経営の次のステージに向けた重要な示唆を与えていると考えています。
▼人的資本経営・キャリア自律支援の専門家よりコメント:
データによる可視化こそが、人事の投資対効果(ROI)を最大化させる。
4designs株式会社代表取締役社長CEO/一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事
有山 徹
今回の調査で最も注目すべき結果は、「職場関係性への満足度」と「エンゲージメント」が高いにもかかわらず、「主体的実践」と「キャリア目標」が低いという点です。
これまで多くの企業は、エンゲージメントを高めれば従業員の主体性も高まると考えてきました。しかし今回の2万人規模の分析からは、「働きやすい職場」と「自ら挑戦する組織」は必ずしも一致しないことが見えてきました。
言い換えれば、日本企業は『働きやすさの向上』には成功しつつある一方で、『挑戦したくなる環境づくり』という次のステージに直面しています。
また、キャリア目標の低さが全年代共通の課題として見られたことも重要な示唆です。自己理解は年齢とともに深まる一方、自分の未来を描く力は自然には育たないことがデータから読み取れます。
人的資本経営の本質は、従業員満足度を高めることではありません。一人ひとりが変化に適応し、自ら学び、挑戦できる状態をつくることです。今回の調査結果は、そのために企業が次に向き合うべき課題を示していると考えています。
■調査背景:個人と組織の関係性を「キャリア開発診断」で可視化
これまでのキャリア開発は、個人の適性や強みを測る「適性診断」が中心でした。しかし、AIやDXの進展によって仕事や求められるスキルが大きく変化する時代においては、個人の能力だけでなく、その能力が発揮される組織環境にも目を向ける必要があります。
そこで今回、当協会と4designs株式会社が提供する「キャリア開発診断」の診断データを活用し、個人の主体性を示す「キャリア自律度」と、その発揮を支える「組織の成長支援環境」の実態を分析しました。人的資本経営への注目が高まる中、企業が優先的に取り組むべき課題を明らかにするとともに、日本企業におけるキャリア開発と組織環境の現状を把握することを目的として、本調査を実施しました。
【本調査概要】
- 調査名称:「キャリア開発診断」データの大規模AI解析調査
- 調査主体:一般社団法人プロティアン・キャリア協会、4designs株式会社
- 調査方法:WEB診断ツール「キャリア開発診断(個人60項目・組織環境30項目)」を通じたアンケート回答データの解析
- 有効回答数:19,154名
◆本調査の詳細は、こちらをご覧ください。
(一般社団法人プロティアン・キャリア協会 /8月4日発表・同社プレスリリースより転載)
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