組織市民行動
組織市民行動とは?
「組織市民行動」とは、企業や団体の従業員が自分の職務の範囲外の仕事をする「役割外行動」の一種で、英語ではOCB(Organizational Citizenship Behavior)と呼ばれます。
この概念を提唱した米・インディアナ大学のデニス・オーガン教授らによると、組織市民行動は「従業員の行動のうち、彼らにとって正式な職務の必要条件ではない行動で、それによって組織の効果的機能を促進する行動。しかもその行動は強制的に任されたものではなく、正式な給与体系によって保証されるものでもない」と定義されています。具体例としては、病気で休んでいた人の仕事を支援する、職場に散らかったゴミを掃除する、間違った手続きを見つけたらいち早く忠告する、などが挙げられます。
見返りを求めない自発的な組織への貢献
本来、日本の職場には根付いていたが……
「組織市民行動」の理論では、その要件として(1)任意の行動であること(2)公式の報酬システムによって直接または明確に承認されているものではないこと(3)集合的に組織の効率を促進するものであること、の三点が挙げられます。任意なので、制度や指示に規定された職務として実行しなければならないものではありません。個々の職務の範囲外の、いわば自発的な「役割外行動」の一種ですが、その行動によって組織や職場がスムーズに回り、それでいて給与体系による補償や支払いを受ける対象にはならない。つまり各自の意思で組織に貢献しながら、見返りを期待しないという点が組織市民行動の特徴です。
うまく回っている組織には、こうした行動を担っている個人が必ず一定程度は存在しているのではないでしょうか。そもそもあらゆる組織や職場はたえず、誰にも割り当てられていない職務をたくさん内在しています。最近は欧米式の職務記述書(job description)で個人の仕事の中身を明文化し、厳格に規定する動きもありますが、そうして規定してもなお、職場では“想定外”の事態が起こるのが日常茶飯であり、事前に予測できなかった新しい仕事や、誰の役割にも属さないけれど誰かが担わなければならない役割が、次から次へと生じるものです。問題はそれらを誰が引き受けるか。トップや上司が「あの仕事は誰それの担当で、その業務は別の人に」というように、フォーマルな組織図や分掌規定ですべてを割り振り、指示することなど到底できません。そこにこそ、自発的な「組織市民行動」を担う人々が、組織や職場の潤滑剤として機能する余地があるのです。
「組織市民行動」の研究は、その重要性にいち早く着目した米国の研究者を中心に、1980年代末から進められ、数多くの学術的成果がもたらされました。日本の組織心理学や組織行動論の研究に組織市民行動の概念が登場するのは,それから後れること約10年。90年代末のことです。バブル崩壊以前の日本の職場においては、組織のためによかれと自発的に働くことが大切なのは自明であり、誰もがそれとなく気を利かせ、お互いに助け合っていました。それを「組織市民行動」などとあえて称して、研究の対象にするまでもなかったのでしょう。本来、日本の職場風土には暗黙のうちに組織市民行動が根付いていた、といえるかもしれません。しかし、中途半端な形で成果主義が導入された結果、誰もが自分の仕事や業績のことで一杯になり、職場からいつの間にか“気の利いた行動”が失われていった、という指摘もあります。日本で組織市民行動の研究が本格化し始めた時期と、成果主義の弊害が指摘され始めた時期が重なるのは、けっして偶然ではないでしょう。
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