キャリアクライシス
キャリアクライシスとは?
「キャリアクライシス」とは、ビジネスパーソンがそれまでに培ってきたキャリアを失いかねない危機、あるいはそうした危機に直面することを意味します。長いキャリアライフでは、年齢によって誰もがキャリアクライシスに陥りやすい時期があるといわれ、特に20歳代後半から30代前半にかけては、仕事や将来への不安、組織との葛藤、私生活の環境変化など、さまざまな要因から自身の現状に疑問や迷いが生じがち。焦りから安易な転身に走り、かえって評価や待遇レベルを低下させるなど、キャリア価値を自ら損なってしまうのがキャリアクライシスの典型例です。
キャリアの確立期だからこそ陥る落とし穴
組織の一員としての実感や貢献意欲が減退
個人がどの程度自社に愛着を感じ、自己を会社と同一視しているか――組織心理学では、こうした従業員の会社に対する心理的な関わりを「組織コミットメント」と呼びます。
早稲田大学ビジネススクールの竹内規彦准教授は、2010年に全国の民間企業に勤務する大卒ホワイトカラー社員約1000人を対象にアンケート調査を行い、この組織コミットメントの度合いを測定しました。具体的には、「私はこの会社に愛情を感じていると思う」「私は自分の会社の一員なのだ、と強く感じることがある」といった複数の項目について、「まったく違う」から「まったくそのとおり」までの7段階の選択肢でそれぞれ回答を求め、自社に対する愛着度や自己と会社の同一視傾向の強さを数値化しています。
このビジネスパーソンの組織コミットメントの程度を、年齢別にみるとどのように推移するのかを分析したところ、興味深い結果が浮かび上がりました。組織コミットメントは入社後、徐々に低下し、20代後半で一度“底”に達します。それからいったん上昇するものの、30代前半でふたたび落ち込み、低迷するのです。しかもこの2度目に見られる落ち込みのほうが、その程度が大きく、期間も長いことがわかっています。
このように組織コミットメントが落ち込み、組織の一員であるという実感も、そこから来る積極的な貢献意欲も強く持てない心理状態の時期にこそ、「キャリアクライシス」の落とし穴が口を大きく開けて、迷えるビジネスパーソンを待っているのかもしれません。
竹内准教授によると、この調査結果は、キャリア研究の権威である米・コロンビア大学名誉教授の故ドナルド・スーパー氏が提唱したキャリア段階の理論とも一致しています。スーパー氏が理論づけたライフ・ステージモデルでは、上記の“二つの危機”が見られる20代後半から30前半までの年代は、まさにキャリアの「確立段階の試行期」。個人や職種によって多少の差はあるにせよ、大半のビジネスパーソンにとっては、数多くの試行錯誤を経験しながら、成功体験を重ねるたびに仕事への自信や自らのキャリアのよりどころをつかんでいく時期にあたるのです。その一方で、何かしら失敗や逆境に遭遇すると、「このままで本当にいいのか」「自分にはもっと別の可能性があるのでは」といった考えが頭をよぎる――そういう不安定な時期でもあります。実際、この時期の組織コミットメントの落ち込みをきっかけに、不本意な転職を重ねて、自らキャリア価値を損ねてしまうジョブホッパーの例も少なくありません。
逆に言えば、こうしたキャリアクライシスを経験し、それを乗り越えてこそ、ビジネスパーソンは真の職業人として成長でき、自己のキャリアを確立することができると言えるのではないでしょうか。
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