ストレッチ
ストレッチとは?
「ストレッチ」とは、「引き伸ばし」という意味で、個人や組織の成長を促進するために、手を伸ばせば届くレベルではなく、背伸びをしないと届かない高い目標をあえて設定し、その実現に取り組むことをいいます。ストレッチによる人材育成では、現状と目標の間のギャップを意図的に拡大し、従来の手法の延長で改善や努力を重ねるだけではとても達成できない目標を与えます。そうすることで社員はおのずと最大限の能力を発揮し、新しいやり方や革新的な発想を生み出して、劇的な成果を上げると考えられています。
成長への支援か、過大な要求か
育成上手は目標の引き上げ方に配慮
「ストレッチ」は、ジャック・ウェルチ氏がGE(米ゼネラル・エレクトリック)に導入し、目覚ましい効果をあげたマネジメント手法としても知られています。一般的に経営課題の設定にあたっては、組織のもつ能力やキャパシティとの整合性が考慮されますが、GEのCLO(最高人材育成責任者)を務めたスティーブ・カーらの著書によると、同社では、組織の現状での能力水準をゆうに超える課題やゴールをストレッチと呼び、その達成への取り組みを奨励しています。一筋縄ではいかない困難と向き合うことで、これまでの自分たちの成功体験や問題解決の手法の限界を認めざるをえなくなり、業務の抜本的な改革が促進されると見込めるからです。
個人と組織の成長に資する一方で、ストレッチの設定は“両刃の剣”であるともいわれます。事前のアドバイスもフォローアップも乏しく、社員にあまりに高すぎる目標だけを課して突き放すなど、対応を誤ると組織のモチベーションが一気に失われかねないからです。
さらに、パワーハラスメントと紙一重であることにも留意しなければなりません。2012年1月に厚生労働省が明文化し、発表した職場の“パワハラ”の定義によると、パワハラの行為類型には「暴行・傷害」(身体的な攻撃)や「脅迫・名誉毀損・侮辱・暴言」(精神的な攻撃)など6種類があり、「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害」(過大な要求)もパワハラにあたる行為として定義されています。ということは、上司が部下に対して能力を超える課題を与えた場合、上司は部下を成長させようというつもりでも、部下がそれを「遂行不可能なことの強制」と感じて主張すれば、パワハラと見なされる可能性もあるのです。
では、どうすればいいのか――高い目標に挑むことの大切さは自明ですが、OJTや経験学習に詳しい神戸大学大学院の松尾睦教授によると、若手人材を育てるのがうまい上司は、ストレッチの仕方、つまり目標の引き上げ方に工夫を凝らしているといいます。
共通するポイントは、(1)成長のイメージをもたせる(2)懸命に手を伸ばせば届きそうな目標を立てさせる(3)成長への期待を伝える、の三つ。若手のモチベーション高めるためには、自分が将来どういう人材に成長したいかを明確化させた上で、適度に困難な仕事や役割を与え、さらに「きみならこの目標を乗り越えられるはずだ」といった表現で期待を込めて励ますことが大切だと、松尾教授は述べています(ダイヤモンド・オンライン「若手『育て上手』なOJT担当者の秘密」より)。ストレッチとパワハラを分けるのは、日頃から部下に積極的に関わろうとする姿勢の有無なのかもしれません。
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