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【ヨミ】エンパワーメント エンパワーメント

ビジネスにおける「エンパワーメント」は権限委譲の意味を表します。多様化するビジネス環境への対応力を高める考え方として、多くの企業が取り入れていますが、実際にはうまく機能しないといった失敗事例も増えています。ここでは、エンパワーメントのメリット・デメリットをはじめ、失敗要因を解説するとともに、実践のポイントを紹介していきます。

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1. エンパワーメントとは

エンパワーメントとは、empower からきている言葉で、「力を与える」「権限を与える」という意味を持っています。ビジネスにおいては「権限委譲」の意味合いで使われます。これまで上司が持っていた権限を部下に与えることで自律的な行動を促し、組織全体のパフォーマンスを高めることを目的としています。

もともとエンパワーメントは、20世紀のアメリカにおいて市民運動や先住民運動などの社会改革運動の高まりとともに提唱されてきた考え方です。誰もが本来備えている能力を発揮できる社会を目指すという思想のもと発展してきました。のちに教育分野、介護・福祉分野などにも幅広く取り入れられ、個々の意思を尊重しながら潜在能力を引き出す考え方として普及していきます。

ビジネスでは、従業員一人ひとりの能力を引き出し、企業の競争力を持続的に高める方法として注目を集めています。

2. 企業におけるエンパワーメントの意味~成功に導くためには

エンパワーメント経営の意味

近年、企業経営においてエンパワーメントが重視される背景には、顧客ニーズの多様化やグローバル化、技術の進化などビジネス環境の目まぐるしい変化があります。こうした環境下で企業が競争力を維持するには、迅速な意思決定とニーズへの柔軟な対応力が必要不可欠となっています。

しかし、経営層・管理層の指揮命令を待って動く従来型の組織構造では、スピード感ある対応を行うのが難しい現状があります。部下が裁量権を持って自発的に行動するエンパワーメント経営は、機動力のある組織をつくり、顧客対応や商品・サービス提供における機会損失リスクの軽減につながっていきます。

また、従業員が自ら意思決定することで判断力が身につく、決定事項への責任感が生まれるなど育成面においても効果を発揮します。自分の能力を生かせることで、企業へのエンゲージメントが強まるという好循環が生まれやすくなります。

つまり、エンパワーメント経営は、激変するビジネス環境に対応できる人材育成と競争優位性の維持に役立つ経営手法と捉えることができます

エンパワーメントを成功させるために必要な二つの枠組み

エンパワーメントを企業経営に生かすには、二つの枠組みからプロセスを考える必要があります。

一つ目は、「客観的な力を与える(=権限委譲)」ことです。つまり、自らの判断で業務を遂行できる権限を与え、これが機能する環境をつくる必要があります。二つ目は、従業員自身に「権限や能力があると自覚してもらう」ことです

たとえ制度として権限を与えても、従業員自身が自信を持てなかったり意義を見いだせなかったりすれば、自律的な行動をとることはできません。従業員の心理的な障壁を取り除き、前向きな気持ちを引き出す動機付けもエンパワーメントを機能させる重要な要素になります。

エンパワーメントを成功させるには二つの枠組みをとらえ、実践することが必要になります。

3。 エンパワーメントのメリット

エンパワーメントを取り入れるメリットは、次の五つが挙げられます。

(1)意思決定が早くなり業務スピードや生産性が向上

エンパワーメントを行うことで、従業員は与えられた裁量の範囲内で意思決定できます。何か問題が起こっても上司の指示を待つことなく対応できるようになるため、業務スピードが上がり、生産性の向上につながります。

例えば、迅速な対応が売上に直結する営業部門や、つねに改善が求められる製造部門においては効力が発揮されやすいといえるでしょう。

(2)従業員自らの柔軟な対応により顧客満足度が向上

従業員が一定の権限を持つことで、顧客に対してより柔軟な対応ができるようになり、結果として顧客満足度の向上につながります。

例えば、顧客対応が売上や満足度に大きく影響するサービス部門では、顧客の要望に対して現場で柔軟に対応することが求められます。また、トラブルやクレームが起きた場合、現場で迅速かつ的確に対応できれば、顧客満足度の向上やリピーター獲得につながります。

(3)権限を持つことで責任感が生まれる

自分自身で意思決定することは、結果に対する責任を持つ立場にある、ということです。意思決定する過程において当事者意識が生まれるとともに、なぜそれをやる必要があるのか、目的と理由を自分で考える力が身につきます。

(4)成功体験が蓄積されモチベーションが向上

上司の指示に従うだけの働き方とは違い、自発的に考えて行動するエンパワーメントは従業員のモチベーションアップにつながります。自身で創意工夫した取り組みが結果につながれば、成功体験が蓄積され、仕事に対する意欲が増します。

(5)マネジメント能力の習得

エンパワーメントには、従業員の成長を促すというメリットもあります。裁量権を与えられることで課題解決力やプロセスを考える力が磨かれ、結果として、マネジメント能力を身につけることができます。有望なリーダーを育成するうえでも、効果を発揮するといえます。

4. エンパワーメントのデメリット

エンパワーメントで懸念されるデメリットは次の三つです。

(1)判断基準にばらつきが生じ、方向性や目的にずれが出る

エンパワーメントのメリットは、従業員が自らの判断で仕事を進められる点にあります。しかし見方を変えると、判断基準にばらつきが生まれやすくなり、事業の方向性や目的がずれてしまう可能性があるといえます。

例えば、ある従業員はスピードを重視し、別の従業員は品質に特化するというように、現場に混乱を生むことが懸念されます。こうした事態を避けるには、判断基準を明確にし、事業方針に対する共通の認識を持てるようにすることが重要です。

(2)トラブルが増加し生産性が低下する可能性がある

与えられた裁量権に対して実践できるスキルが追いついていない場合、現場でトラブルが増える可能性があります。また、従業員の対応にばらつきがあると、顧客に不信感を与えることも懸念されます。このように、権限を与えても適切な判断ができない場合は、生産性の低下につながる恐れがあります。

これを避けるには、従業員の能力開発を行いながら段階的に権限委譲を行うなどの対策が必要です。

(3)経験不足により損失が発生する可能性がある

従業員が裁量権に見合う能力を身につけていない場合、失敗が増え、事業の損失が増大するリスクが高まります。ときには重大なミスにつながり、大きな損失になってしまうこともあります。

これを防ぐには、権限の範囲を適切に設定する必要があります。また、報告義務を守らせるなど、管理者がつねにフォローできる体制を整えるのも有効な方法です。ただし、失敗を恐れて意思決定ができなくなるとエンパワーメントのメリットを享受できません。従業員が成長する過程では、ある程度の損失は発生するものと見込んでおくことも大切です。

5. エンパワーメントの失敗要因

エンパワーメントの有効性が広く認知される一方で、失敗事例も増えています。失敗要因は、「従業員に権限を与える」こと、「従業員に権限や能力があると自覚してもらう」ことの二つの枠組みに分けて整理する必要があります。それぞれにどのような課題が生じているのか見ていきましょう。

(1)「従業員に権限を与える」際の失敗要因

従業員に権限を与えるときの失敗要因には次のことが挙げられます。

  • 経営者や管理職層側に権限委譲へのためらいが生じる
  • 権利を行使する従業員側にためらいが生じる
  • 従業員の学習不足
  • 権限委譲で発生するリスク・損失の想定不足

エンパワーメントのメリットを踏まえて好意的にとらえていた経営層・管理層も、実行に移すなかで権限委譲への不安や不満が募り始める傾向があります。これは権限者に起こりがちな心理的な障壁です。

一方、従業員側は、失敗や責任への恐れから権限委譲に抵抗感を持つことがあります。また、これまでの指示命令型のマネジメントに慣れている場合、制度が導入されても実際にどう動くべきか分からず何も変わらないということが起こります。

この状態では権限委譲は形だけのものになり、実際には機能しなくなります。そのため、導入前に、経営層を始め全従業員がエンパワーメントに対する共通の認識を持てるよう企業風土の確立に取り組む必要があります。

しかし、仮に理解が深まったとしても、エンパワーメントの導入に失敗するケースがあります。それが、権限委譲で発生するリスクや損失の想定不足です。リスクを想定していなかった場合、実際に損失が生じたときの抵抗感が強くなり、エンパワーメントを中止してしまうことがあります。

エンパワーメントを成功させるには、これらの失敗要因を踏まえて、あらかじめ従業員の能力開発や能力に応じた権限の委譲、リスクがあった場合の対処方法についてルール化しておくなどの対策が必要になります。

(2)「従業員に権限や能力があると自覚してもらう」際の失敗要因

従業員自身が権限や能力を自覚するという意味合いにおいて、失敗してしまう要因には次のことが挙げられます。

  • 宣言されていることと内実が違いすぎる
  • 動機付けができていない

エンパワーメントの導入には、企業風土の確立や全社を挙げた意思統一が必要です。しかし、実際には宣言だけが横行し、これに見合う客観的な権限を十分に与えられていないケースが見受けられます。こうしたギャップが発生すると従業員側に抵抗感が生まれ、エンパワーメントはうまくいきません。

また、従業員側にエンパワーメントへの動機付けが十分に行われていない場合も導入に失敗します。エンパワーメントは従業員に一定の裁量権を与えますが、それは従業員に一定の責任を負わせるということです。当初は会社から必要とされている充実感や責任感からモチベーションが生まれても、長く維持できるとは限りません。また、権限を与えることが意欲につながらない従業員も存在します。

エンパワーメントでは、モチベーションを維持できるようにするための取り組みも求められます。具体的には、自律的な行動を奨励する風土づくりや評価制度の整備など、人事施策を講じる必要があります。

6. エンパワーメントの実践手順と注意点

ここでは、実践する際の手順と注意点を整理していきます。

エンパワーメントの実践手順

(1)エンパワーメントの企業風土の構築

エンパワーメントは、全社を挙げて取り組まなければなりません。経営者や人事担当者がエンパワーメントを推し進めたくても、従業員や管理層に同意していない人がいればうまくいきません。企業の方針を明確に宣言し、全従業員が共通認識を持てるよう企業風土の構築に努めます。

(2)目標設定

次に目標を設定します。エンパワーメントでは高めの目標を置いて、権限を生かしながら達成するプロセスを経験させることが大切です。なぜその目標を設定したのか期待値を説明し、従業員の共感を得ることも意欲を維持するうえで重要です。

(3)権限委譲

目標を達成するために必要となる権限を委譲します。裁量の範囲を明確にし、認識のずれが起きないように注意しましょう。

(4)上司による定期的な確認

上司は、部下が目標達成に向けて自発的に自主的に行動しているかを定期的に確認します。部下の自主性を損なわないように、上司はあくまで寄り添う姿勢で支援します。

(5)評価と改善

目標達成に向けてどのような取り組みを行ったか、プロセスと結果を評価します。改善につなげるフィードバックも行います。

エンパワーメント実践における注意点

エンパワーメントの実践にあたっては、次の注意点があります。

(1)従業員の能力開発や情報・知識・スキルが必要

権限委譲しても、従業員に実践できるスキルがなければ効果はありません。実践にあたっては、従業員に情報・知識・スキルが必要であることを事前に伝え、そのための能力開発を行うことが必要です。

(2)ビジョンや戦略方向性の理解

エンパワーメントは、全社を挙げて行わないと成功しません。実践する前に、ビジョンや戦略の方向性について十分に理解を深めておくことが必要です。

(3)エンパワーメントのルールの明確化

エンパワーメントでは、してはいけないこと・守るべきこと(倫理とルール)があいまいになっていると、従業員が個別の判断をしてしまい、企業にマイナスを与える可能性があります。ルールの策定は、エンパワーメントの成功において非常に重要になります。

(4)支援環境の構築

権限委譲を行っても、慣れていない従業員は不安が大きく、力を十分に発揮できない可能性があります。そのため、気軽に相談できる制度をつくるなど環境の整備も必要です。

(5)経営層・管理層と従業員の信頼関係をつくる

そもそも、経営層・管理層と従業員の間に信頼関係が成り立っていないと、エンパワーメントは実践できません。権限を委譲したら必要以上に介入せず、部下を信頼して任せる姿勢を持つことが大切です。そのうえで、部下が困難な状態に陥っているときは適切に支援し、信頼関係を構築していきます。

7. エンパワーメントの本質は、従業員の可能性を信じ支援すること

エンパワーメントは、スピードと対応力が求められる現代にマッチする考え方といえます。しかし、たんに権限委譲するだけでは業務や責任の「丸投げ」となってしまい、組織全体のパフォーマンス向上につなげることはできません

エンパワーメントの本質は、第一に従業員の可能性を信じること、第二に従業員を十分支援することにあります。そのためには制度の構築だけでなく、従来のやり方・考え方に引きずられない意識を強く持つことが重要です。まずは経営層・管理層がエンパワーメントの本質を理解し、変革に取り組む必要があるといえるでしょう。

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