情報の粘着性
情報の粘着性とは?
ある場所にひもづいた情報を、他の場所に移動させることが困難なとき、情報の粘着性が高いと表現します。顧客や現場から得られる内容の濃い情報はなかなか共有されず、外部に出回りません。情報が複雑で、量が多く、暗黙知であるほど粘着性が高くて獲得が難しいため、そういった情報は「粘着情報」と呼ばれます。
真のニーズをくみ取れない限り
企業からイノベーションは生まれない
消費者の発想から、世の中を動かす新サービスが生まれることがあります。今や首都圏のほとんどの駅のプラットホームに掲出されている「のりかえ便利マップ(何両目に乗れば、出口や乗り換えに近いかがわかるポスター)」も、株式会社ナビット代表の福井泰代さんが専業主婦だった頃に思いついたアイデアでした。このように、消費者が中心となって新たな価値を生むことを「ユーザー・イノベーション」と呼びます。
商品開発には「技術情報」と「ニーズ情報」の二つが必要です。本来、新たな商品サービスを開発してイノベーション創出を目指すのは、技術を持った企業側です。しかし、情報の粘着性が要因でユーザー側からイノベーションが生まれることもあります。モノ余りの時代において、「ニーズ情報」は容易につかめるものではなく、消費者の生活のニッチなところに粘着しているからです。商品開発のためにユーザーインタビューを行う企業は多いですが、消費者自身がそのニーズを言語化できていないケースも多く、企業はインサイト(消費者の隠れた心理)をなかなか発見できません。
粘着しやすい情報 は、複雑で説明が難しいものです。「形式知」と「暗黙知」で比べると、言語化されていない「暗黙知」のほうが粘着性は高く、さらに情報量が多いほど移動コストがかかるため粘着しやすくなります。また、「ニーズ情報」を入手しても、その情報をきちんと解釈できないと意味がありません。情報から意味を見出し、調理できる人材がいなければ価値を発揮しないのです。
人材領域においても同様で、経営層や人事部が組織改善のためにあれこれと施策を考えても、そもそも正確なニーズを把握できていなかったという事態が起こります。例えば、離職率を下げるために退職予定者へヒアリングを実施しても、角が取れた当たり障りのない情報しか出てこず、「退職の本当の理由」とも言うべき粘着情報はなかなか表に出てこないことがあります。
粘着情報が共有されやすい環境を、どうすればつくることができるのでしょうか。何より、ニーズを持っているメンバーと信頼関係を築き、意見を言いやすく、濃密な相互作用が発生しやすい環境にすることです。ニーズが暗黙知になっている場合は、暗黙知を形式知に変えるべくワークショップやインタビューを実施してもよいでしょう。新しい取り組みを開始するときは、自分たちが本当に粘着情報に迫れているのかを考えてみることが大切です。
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