生理休暇
生理休暇とは?
生理休暇とは、生理日の就業が困難な女性に対する措置であり、労働基準法によって定められています。従業員から請求があった場合、企業は必ず休暇を与えなければなりません。労働基準法第68条には、「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」と定められています。休暇の日数や期間、業務内容に限りはないとされており、半日や時間単位の請求も可能です。また、生理期間や苦痛の程度は人によって異なるため、就業規則などによって生理休暇の日数を限定することはできません。
女性労働者が生理休暇を取得した場合に、休暇分の賃金を付与するかどうかは各事業所の判断とされています。現状では多くの事業所が無給としていますが、有給とする企業の割合は増加傾向にあります。
2020年度の調査によれば、女性労働者がいる事業所のうち、生理休暇を請求する女性がいる事業所の割合は3.3%です。約半数の女性が月経で苦痛を感じるという調査結果もあり、苦痛を感じながら休暇を請求しづらい現状がうかがえます。
1. 生理休暇の有給・無給について
71%が無給であるものの、有給とする企業の割合は増加傾向
女性労働者が生理休暇を取得した場合に、休暇分の賃金を付与するかどうかは各事業所の判断とされています。生理休暇は、実際にはどのように運用されているのでしょうか。
厚生労働省の調査(2020年度)によると、生理休暇中に賃金が発生する事業所の割合は29.0%でした。また、生理休暇中に賃金が発生する事業所のうち65.6%が全期間100%支給としています。生理休暇中は無給としている事業所が71%となっている一方で、有給としている事業所の半数以上は全期間100%支給と、賃金の規定内容は事業所によってさまざまです。
2015年度の調査と比較すると、生理休暇中に賃金が発生する事業所の割合は3.5%増加し、全期間100%支給の事業所の割合も5%増加していますが、現状では多くの事業所が無給としていることがわかります。
2. 生理休暇をめぐるトラブル
労働基準法では生理休暇の申請方法について定めはありません。生理休暇の申請に診断書の提出を求めるケースも見られますが、生理休暇の申請方法は自由であり、診断書の提出を要求することは望ましくありません。
これは、診断書の提出が難しい場合が多々あるためです。生理休暇を取得する場合、仕事に影響するほどの苦痛を抱えているのが前提となりますが、症状には個人差があり、証明するのは困難です。また、企業が診断書の提出を求めると、従業員は症状がつらい中で医療機関に出向くことになるため、負担が大きくなります。
症状のつらさは本人にしかわからず、事業所が月経日や月経期間を把握することもできないため、診断書の提出を義務付けるとトラブルになることもあります。
裁判例:生理休暇中に長距離移動で民謡大会に出場し懲戒休職
これまでに、生理休暇が原因で裁判となるトラブルがいくつか発生しています。実際の裁判では、生理休暇中に旅行していた女性について、生理休暇の取得は不正であると判断された例があります(岩手県交通事件)。
女性は遠方の民謡大会に出場するため、年次有給休暇の取得を請求していました。しかし、業務が立て込んだため企業が就労要請をしたところ、女性はたまたま生理となったので生理休暇を取得しました。生理休暇中の深夜に長距離の移動を含む旅行に出掛け、翌日には民謡大会に出場していたことが発覚。就業が著しく困難な状態ではなく、生理休暇の取得は不正であると判断されました。企業の就労要請については、時季変更権の正当な行使であると判断されています。
生理休暇の取得に証明義務はないものの、不正取得が起きる可能性はゼロではありません。こうしたトラブルを防ぐには、普段から業務に余裕を持つことと、女性が体調について相談しやすい体制を整えるなどの工夫が必要です。
3. 生理休暇の請求はしにくいのが現状
厚生労働省が公表している2020年度の調査によると、女性労働者がいる事業所のうち、生理休暇を請求する女性がいる事業所の割合は3.3%(2015年度2.2%)です。2015年度と比べ請求率は増加しているものの、増加の割合は約1%と伸び率は低くなっています。
生理休暇を取得しない理由
少し古い調査結果にはなりますが、全国労働組合総連合の調査結果によると、生理休暇がとれない(とらない)理由としてもっとも多かった回答は「人員の不足や仕事の多忙で職場の雰囲気としてとりにくい」で44.4%。次に多かったのが「苦痛ではないので必要ない」28.7%でした。続いて「はずかしい、生理であることを知られたくない」が22.5%となっています。
女性の意見を見ると、職場の雰囲気が原因で生理休暇を取得していないことがわかります。しかし、生理休暇は働く女性を支える制度であり、企業には配慮する姿勢が望まれます。
4. 女性の健康問題に理解のある職場へ
全国労働組合総連合の同じ調査によると、月経の苦痛の程度について、「非常に苦痛」との回答は13.9%、「苦痛」との回答が32.0%となっています。ほぼ半数である45.9%の女性が生理で苦痛を感じている結果です。これだけの女性が月経をつらいと感じているのにもかかわらず、生理休暇を取得できずにいる現状が分かります。
月経痛は人によってさまざまで、全くない女性もいれば、何もできないほどに重い女性もいます。期間や周期にも個人差があるほか、生理前に不調になるPMS(月経前症候群)に悩む女性もいます。腹痛や腰痛などの他、睡眠障害や食欲不振、情緒不安定といった精神的な症状もあります。
男性はこの苦痛を経験できず、女性の間でも症状に個人差があることから、生理休暇の取得に不公平感を覚える人もいるでしょう。しかし、月経痛の辛さを職場全体で理解し、女性が働きやすい環境を作ることは、人材の流出防止や企業のイメージアップにつながり、企業の成長を後押しします。
社会的に生理休暇の取得率が低い状況を踏まえ、自社の課題はどこにあるのか、企業としてどのような対策をとるべきか、一度見直してみてはいかがでしょうか。
- 【参考】
- 月経前症候群|日本産科婦人科学会
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