障害者雇用促進法
障害者雇用促進法とは?
「障害者雇用促進法」とは、正式名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律」と言い、障がい者の雇用義務に基づく雇用の促進などのための措置、職業リハビリテーションの措置などを通じて、障がい者の職業の安定を図ることを目的とする法律です。同法では、一定規模以上の企業に対し、法定雇用率とよばれる一定比率以上の割合で障がい者を雇用することが義務付けられています。現行の法定雇用率は2.2%。達成していないと、労働局などの指導対象となり、従業員100人超の企業については不足一人あたり月5万円の納付金が課せられる反面、達成していれば、超過一人あたり月2万7000円の調整金を受け取れます。同法は概ね5年ごとに見直され、一部改正が繰り返されてきました。18年4月からは身体・知的障がい者に加え、精神障がい者も雇用義務対象になっています。
1. 障害者雇用促進法とはどのような法律か
「障害者雇用促進法」とは、障がい者の職業安定と労働の自由を図るのを目的に定められた法律です。主に障がい者への「差別の禁止」や、障がい者が働くのに必要な「環境の整備」、また自主的に障がい者からの「苦情を解決すること」などが規定されています。障害者雇用促進法の理念は、全ての人間が平等に活躍できる社会の実現にあります。
障がい者とは?
「障害者雇用促進法」に則って、障がい者を雇用しようとする企業がまず知っておくべきことは障がい者の定義でしょう。「障害者雇用促進法」によると、法律上の障がい者とは、下記のように定められています。
つまり、身体や頭脳、精神に障がいがあり「長期的に」仕事をするのが困難な人のことを指しています。あくまで、長期的にというのがここでのポイントです。また、障がい者は法律上、「身体障がい者」「知的障がい者」「精神障がい者」の三つに分類され、さらに、その他の障がい者として「発達障がい者」や「難病のあるもの」、「高次脳機能障がい者」などが定められています。企業が障がい者かどうかを判断する際は、主に障がい者手帳の有無に頼ることになります。
障害者雇用促進法の改正の歴史
日本の障がい者雇用に関する政策を振り返ってみると、最初に障がい者が法律によって定義されたのが1970年の「心身障害者対策基本法」になります。ただこの段階では、精神疾患に関する理解が乏しく、まだ障がい者とは規定されていませんでした。1993年の改正で障がい者の範囲が精神疾患を持つ人にも広がり、その後も障がい者差別に関する規定や、より包括的な雇用促進の政策を法律に盛り込むことで、障がい者の雇用環境は徐々に整備されてきました。
2019年の改正では、主に中央省庁で発生した障がい者雇用率水増しの問題を受けて行われました。内容をわかりやすくまとめると、障がい者を雇用するとき、障がい者であることの証拠を提出しなければならなくなりました。これまでは、実質上、雇用側の判断にのみ任せられていましたが、今後は障害者手帳などの種類確認が義務付けられ、雇用側でコピーを保存し、さらに障がい者の雇用率を公開しなければならなくなります。
2. 障害者雇用促進法を理解する主要ポイント~基礎から2019年の改正まで~
障がい者雇用率とは
障害者雇用促進法では全ての事業主に対し、障がい者が社会で活躍できる体制を整えることを義務付けています。具体的には「障がい者雇用率」が定められており、これを下回った場合、企業には納付金の支払いの義務が生じます。
※納付金を「罰金」として扱うのは禁止されています
障がい者雇用率は2019年10月現在、民間企業で2.2%、国、地方公共団体などで2.5%、都道府県などの教育委員会で2.4%と定められています。2021年までにはさらに0.1%引き上げられる予定です。
障害者雇用促進法が適応されるのはどんな会社?
これまでは、従業員が50人以上の事業主は、全体の従業員の2%の障がい者を雇用しなければならないというルールでしたが、2018年からは、45.5人以上の事業主が2.2%の障がい者を雇用しなければならない、と基準が広げられています。
障がい者雇用率の確かめ方
障がい者雇用率に関する重要な数字は「45.5」と「100」です。これは、障がい者を雇用しなければならないのは全従業員が「45.5」人以上の企業であることと、雇用率未達成の納付金を徴収されるようになるのが、そのうち「100」人超の企業であることを意味しています。実質上、法定の障がい者雇用率が適用されるのは、これらの企業です。
(1)障がい者雇用人数の数え方――「0.5人」といった小数点以下の表記とは?
厚生労働省のWebサイトによれば、45.5人に含まれる「0.5人」は短時間労働者を指します。そのため、短時間労働者として障がい者を雇用する場合は、フルタイムで雇用する場合の2倍の人数が必要になります。
また、重度身体障がい者もしくは重度知的障がい者と認定されている人を雇用する場合は、一人で二人分としてカウントします。つまり、重度障がい者の場合は、短時間労働の場合は一人、フルタイムの場合は二人とカウントされることになります。
(2)短時間労働やフルタイム勤務の定義――障害者雇用法特有の定義に注意!
ここで注意が必要なのが、障がい者雇用における短時間労働やフルタイム勤務の定義です。一般に、短時間労働者とは「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」、つまりフルタイムの人と比べて短い労働時間で働いている人のことをいいます。
ただし、障がい者雇用に関しては「20時間以上30時間未満」の労働者を短時間労働者、「30時間以上」の労働者をフルタイム勤務の労働者と定義づけています。例えば、1日6時間の週5勤務の場合でもフルタイム労働者として扱われることになります。また、2019年の法改正では、「10時間以上20時間未満」の労働者を特定短時間労働者と呼び、特例給付金も出ることになりました。障がい者の労働時間をまとめると、次のようになります。
短時間労働者:20時間以上30時間未満
特定短時間労働者:10時間以上20時間未満
(3)法定雇用率の計算式
法定雇用率の正確な計算式は、次のようなものです。計算する際は、上記の短時間労働者の数え方と、重度障がい者の数え方に注意しましょう。
納付金とは
次に、助成金と納付金の金額について解説します。従業員が100人を超える企業には、納付金の支払い義務が発生しますが、定められた障がい者雇用率に基づき、「不足している人数×50,000円」を毎月支払うことになります。なお、従業員が100人以下の場合は対象になりません。
調整金(報奨金)とは
調整金、つまり一般的にいう助成金に関しては、従業員が100人を超える企業の場合、規定された障がい者雇用率を超える労働者一人につき27,000円が毎月支給されることになります。
また、従業員が100人以下の場合は、障がい者雇用率4%または6人のどちらか多い方を超えた場合に、21,000円の調整金が支払われます(正確には100人以下の場合の調整金は「報奨金」と別の名前で呼びます)。例えば、従業員60人の場合、フルタイムの障がい者を3人雇えば4%を超えますが、6人未満であるため受給の対象にはなりません。これは、4%と6人では6人の方が多いため、6人が基準になるためです。
ただし、この6人という数字は、年度の合計72人÷12ヵ月という計算に基づいており、報奨金を受け取るための障がい者雇用率の計算方法はより複雑であり、あくまで目安の数字だということを覚えておいてください。
2019年6月の改正ポイント
2019年6月に行われた改正のポイントも押さえておきましょう。今回の改正内容分は2020年4月1日からの施行になります。改正のポイントは、次の三つです。
- 障がい者の確認に関する書類を保存する必要がある
- 特定短時間労働者に対して、特例給付金を支給する制度が設けられた
- 障がい者を雇用する事業主の認定制度を設置、マークが交付される
(1) 障がい者の確認に関する書類を保存する必要がある
これまでは書類の保管義務がなく、障がい者雇用率が操作される危険がありました。この改正では、障がい者である証拠の書類を確認し、それを保管する義務が定められました。
(2) 特定短時間労働者に対して、特例給付金を支給する制度が設けられた
これまでは、20時間未満の特定短時間労働者に関しては、支援金がありませんでした。しかし障がい者の中には20時間未満であれば働ける人も多く、今回の改正ではこの特定短時間労働者に対しても特例給付金が支給されるようになりました。
(3) 障がい者を雇用する事業主の認定制度を設置、マークが交付される
中小企業では、障がい者をまったく雇用していない企業などが多かったため、これを促進するために認定制度が創設されました。障がい者に優しい仕組みを作り、多様性を考慮している先進的な中小企業に対し、国が認定マークを付与することで、宣伝効果があるとされています。
障がい者雇用の現状
厚生労働省の発表によると現在、企業で働いている障がい者の数は、2020年6月段階で民間企業において57万8,292.0人であり、前年よりも3.2%増加しました。しかし法定雇用率を達成している民間企業は48.6%にとどまり、半数強が未達成の状況です。
3. 障害者雇用促進法を守り、多様性のある職場にしよう!障害者雇用のメリットとは?
障がい者の場合、一般的な採用市場に頼るだけでは仕事を得ることが困難になります。この問題を解決し、障がい者も仕事につけるように定めたのが障害者雇用促進法です。
しかし、いざ障がい者を雇用しようと検討したとき、「どういった仕事をしてもらえればいいのか」という課題が出てくるかもしれません。その場合、まず何ができるのかをヒアリングし、お互いに調整することからはじめましょう。
障がい者雇用のメリットとして、先進的な企業では、経営トップが福祉を強く意識していることが多く、障がい者を雇用することで、自社が先進的であることを広くアピールできるという点が挙げられます。また、従業居の多様性に基づくダイバーシティ経営を行うことによって、新しい発想が生まれやすくなる、イノベーションが起こりやすくなるというメリットもあります。さらに、多様な人材が能力を発揮できる職場にすることでコミュニケーションが活性化され、顧客や市場以外にも、労働者自身からの評価を上げることもできます。
現在、障がい者雇用率を満たしている企業は50%以下と低い数値ですが、今後は多様性を考慮し、誰もが活躍できる会社が増えていくことが期待されます。
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