ソーシャル・キャピタル
ソーシャル・キャピタルとは?
「ソーシャル・キャピタル」とは、信頼や規範、ネットワークなど、社会や地域コミュニティにおける人々の相互関係や結びつきを支える仕組みの重要性を説く考え方のことです。物的資本(フィジカル・キャピタル)や人的資本(ヒューマン・キャピタル)などに並ぶ新しい概念で、日本語では「社会的資本」「社会関係資本」と訳されます。ソーシャル・キャピタルは、人々の協調行動を活性化することによって培われるもので、それが豊かに蓄積されるほど、社会や組織の効率性が高まるのが特徴とされます。
HRMにも有効な「関係性の中に在る資源」
人事異動やジョブロテで意図的な強化も可能
「ソーシャル・キャピタル」の概念は、もともと政治学や社会学といった分野で使われていたものです。ソーシャル・キャピタルが蓄積された社会では、相互の信頼や協力が得られるため、他人への警戒が少なく、治安・経済・教育・健康・幸福感などに良い影響があり、社会の効率性が高まるとされます。これを説明するのによく使われるのが「窓割れ理論」。一つでも窓が壊れている建物があるのを放置すると、その地域は誰も環境に注意を払っていないと見なされ、治安が急速に悪化していくという考え方です。建物の窓割れを無くし、街の美観を維持していくためには、地域の共同体としての質を上げなければなりません。健全な共同体を形成するひとつの要素として、住民同士の交流や豊かな信頼関係といったソーシャル・キャピタルが求められる、というわけです。
もう少しかみくだいていうと、ソーシャル・キャピタルは「関係性の中に存在する資源」「他者から自発的な支援が得られる関係性」と定義されます。つまり、個人が単独で所有しているものではなく、個人と個人との間にある関係性の中で育まれていくもの。実務の世界の概念に置き換えるならば、「人脈」というと分かりやすいかもしれません。実際、経営学や組織論の分野においても、ヒューマン・キャピタルの考え方を活かした人材マネジメントのあり方などを議論する動きが、15年ほど前から広がりつつあります。今後、経営や人事の実務面でも市民権を得て、浸透していく可能性は大いにあるでしょう。
たとえば、日本の企業が避けては通れない高齢者雇用の問題においても、誰を継続雇用あるいは再雇用するかという議論になったとき、選択の条件として、仕事のスキルや知識だけでなく、その人が会社の中でいかに有効な人脈や関係性を築いてきたか、つまり他の人のサポートを得ながら、自分の仕事を周囲との関係の中で上手に進めていけるような、人間力を重視する企業が少なくありません。
HRM分野におけるヒューマン・キャピタルについてくわしい首都大学東京大学院社会科学研究科の西村孝史准教授によると、ヒューマン・キャピタルは、「他の人から自発的に手助けが得られる関係」「職場内で自身の状況を正しく理解してもらえる関係」「職場のルールを共有できている関係」といった要素を下位概念として含み、組織を円滑に運営するためのインフラとしてもプラスに機能します。また、そうした有効な人脈や関係性といったヒューマン・キャピタルは、人事異動やジョブローテーションを通じて意図的に強化していくことができるとも述べています。
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