大学設置基準の改正
大学設置基準の改正とは?
「大学設置基準」とは、1956年(昭和31年)に旧文部省が学校教育法に基づいて制定した省令で、大学を設置する上で必要な最低の基準――教育研究上の基本組織や教員の資格、収容定員、卒業の要件などを、全10章にわたって規定しています。文部科学省は2010年にこれを改正。11年度からすべての大学に対し、「社会的・職業的自立に関する指導等」(キャリア教育)を大学教育の一環として実施するよう義務付けました。
「大学全入時代」到来で学生の進路意識が希薄化
実社会への円滑な移行が大学の役割に
電通総研が10年12月に発表した高校生へのアンケート調査の結果によると、現役の高校生が最も不安に思っていることは「将来の就職」が80%とトップで、「大学受験」の69%を大きく上回っていることが明らかになりました。彼らの未来に影を落としている“超氷河期”の現状は、昨今の世界的不況がその一因であり、景気が上向けば多少は改善されるでしょう。しかし識者や企業の人事担当者の間では、「バブル期のような大量採用時代はもう来ない」という見方が一般的。大学生が直面する就職難は、決して一時的なものではなく、構造的な問題になりつつあるといわれています。
その背景にあるのが、高校生2人に1人が4年制大学に進学する「大学全入時代」の到来にともなう、大学生全体の“質”の低下です。社会に供給される人材のレベルが下がれば、企業は採用にあたって、さらに厳選せざるを得ません。結果として、一部の優秀な学生を奪い合うことになります。「就職難」は裏を返せば空前の「採用難」でもあり、採用の現場からは国内で高いレベルの人材を採用できないのなら、海外に目を向けてもいいのではないかという声も挙がっています。
旧文部省は91年にも大学設置基準の全面改正を行い、一般教養と専門教育の単位数の枠を撤廃するなど、各大学が自由で多様な発展を遂げられるよう従来の大学教育の枠組みを大幅に緩和しました。93年以降、進学人口が減少に転じたにもかかわらず、この規制緩和を機に大学や短大の新設・増設ラッシュが起こり、大学全入時代の到来を早めたともいわれています。
大学全入時代にあっては、学生の基本的な学力が低下していること、また将来設計や進路意識に乏しい大学生が増えていることなどが問題視されています。高校生の大半が4年制大学をはじめとする高等教育機関に“とりあえず”進めるため、高校までの段階で学生を社会へ送り出すための準備がほとんど行われていないのです。代わって、その役割――「実社会への円滑な移行」を大学に求めたのが、キャリア教育の実施を義務付けた11年度施行の新しい大学設置基準の実態であるといっていいでしょう。
今回の改正では、キャリア教育の取り組みについて一律に規定せず、具体的な教育方法やカリキュラムの内容を各大学の判断に任せています。文部科学省が実施している大学の改革状況に関する定期調査によると、08年度の時点ですでに全大学の93%が何らかのキャリア教育を実施していると答えていますが、これには面接のノウハウや就職活動の進め方など、たんに学生を職に就かせるための技術指導も数多く含まれていました。新しい設置基準では、学生が社会的・職業的自立を図るために必要な能力を「就業力」と位置付け、正課教育の中でこれを体系的・組織的に養成する教育プログラムが求められています。
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