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【ヨミ】エスノグラフィー エスノグラフィー

元来は文化人類学、社会学の用語で、集団や社会の行動様式をフィールドワークによって調査・記録する手法およびその記録文書のことを「エスノグラフィー」(ethnography)といいます。エスノ(ethno-)は「民族」を、グラフィー(-graphy)は「記述」を意味し、一般に「民族誌」と訳されます。近年は商品開発やマーケティングに欠かせない調査手法として注目され、さらには人材育成やプロジェクトマネジメントなどの分野でも活用されるケースが増えています。
(2010/8/23掲載)

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エスノグラフィーのケーススタディ

まさに「百聞は一見に如かず」
現場を質的、定性的に把握する方法論

エスノグラフィーの考え方を確立したのは、20世紀前半に活躍したポーランドの文化人類学者、ブロニスロウ・マリノフスキーだといわれています。マリノフスキーは、南海の孤島に数年間滞在し、現地の人々と深く交わりながら特有の制度や価値観を観察、記録にまとめました。彼以前の学者は、実際に現地へ赴くことなく、もっぱら外交官や商社の駐在員などからの伝聞をもとに、その地の文化習俗を西洋的な視点で分析していました。長期間のフィールドワークを実施し、現地の生活に溶け込みながら自らの目で調査対象を観察するマリノフスキーのアプローチは、その後の人類学の規範となりました。

調査手法としては、アンケートなどを通じて統計的に把握する定量分析とは対照的に、観察やインタビューから定性的に調べるのがエスノグラフィーの特徴です。事前に何らかの仮説を立て、それを検証する「仮説検証型」ではなく、定性調査を重ねるなかで、想定していなかった新しい仮説を見つけ出す「仮説発見型」のアプローチともいえるでしょう。

たとえば企業が顧客の動向を探る場合、データベースによる定量分析は顧客を属性ごとに類型化するのに有効ですが、そうした粗い切り口では、多様化・複雑化する現代の消費者ニーズはとらえきれません。そこで注目されるようになったのが“量より質”の定性分析。エスノグラフィーは、人間の本音や深いこだわりといった数値では測れない質的に貴重な情報を発見し、定性的に理解するスキルとして優れています。ちなみに調査対象を1日中尾行し、その実態をつぶさに観察して、記録するような業務を担う専門家を「エスノグラファー」と呼びます。

フィールドワークを通じ、人間の営みとその現場の実態を“量より質”で把握する――エスノグラフィーの発想はマネジメントにおいても、とりわけ人材や組織の問題を考えるうえで重要な示唆を与えてくれます。経営コンサルタントの好川哲人さんが主宰する株式会社プロジェクトマネジメントオフィスでは、プロジェクトマネジメントの支援にエスノグラフィーを取り入れ、成果を上げています。好川さんらは関係者からの情報に頼らず、実際に人々が働いている現場を観察。しかもただ観察するのではなく、マネジャーやスタッフとしてプロジェクトに参加しながら観察し、問題を探っていく「参加観察」の手法をとっています。過去にはある企業で、5ヵ月をかけてのべ18日間もエスノグラフィーを行ったことがあるという好川さんは、「非常に多くのことが分かった。まさに百聞は一見に如かず」とその有効性を指摘します。

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