OFF-JT
OFF-JTとは?
「OFF-JT(Off The Job Training)」とは、通常の業務から一時的に離れて行なう社外・組織外研修のこと。「職場外研修」とも呼ばれ、社内の担当部署が考案したメニューや外部の研修機関が作成したプログラムを、セミナーやeラーニング、通信教育などを通じて受講し、ビジネスにおいて必要な知識やスキルの習得を図ることを目的にしています。ここ数年は企業の人手不足やオンライン化の動きもあり、OFF-JTによる育成方法をあらためて考える企業が増えています。
1.OFF-JTとは
厚生労働省では、OFF-JTを下記のように定義をしています。
引用:「能力開発基本調査(令和2年度)」P.62|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/104-02b.pdf
厚生労働省の「能力開発基本調査」によると、OFF-JTを受講して「役に立った」「どちらかというと役に立った」と回答している割合は正社員で94.8%、正社員以外で94.5%と、ポジティブな反応を示しています。このことからOFF-JTは企業が教育訓練を行うにあたって、有効な施策であると言えます。
OFF-JTの種類
OFF-JTには、新入社員や管理職などの階層別研修、各担当業務に関わるスキルや技術を学ぶ研修、コンプライアンスやマナー、マインドといったビジネス全般に関わる研修など、さまざまな種類があります。
■OFF-JTの主な種類- 階層別研修:新人研修、管理職研修、役員研修、リーダー研修など
- 職能別・課題別研修:営業研修、ロジカルシンキング研修、コミュニケーション研修など
- 専門的研修:DX研修、資格取得のための研修など
- 目的別研修:個人情報保護法に関する研修、情報セキュリティ研修、ハラスメント研修など
「能力開発基本調査(令和2年度)」によると、企業が実施したOFF-JTの種類は「新規採用者など初任層を対象とする研修」が76.2%と最も高く、以降は「新たに中堅社員となった者を対象とする研修」(48.0%)、「マネジメント(管理・監督能力を高める基礎知識)」(45.3%)、「新たに管理職となった者を対象とする研修」(44.9%)が続いています。このように、OFF-JTでは階層別研修が多く実施されていることがわかります。
2.OFF-JTとOJTとの違い
「OJT(On-the-Job Training:職場内訓練)」とは、先輩や上司などが教育担当(トレーナー)になり、実務を通じて指導を行い、必要な知識やスキルを学ばせる人材育成方法です。OJTを通じてさまざまな経験を積むことは、より実践的なノウハウの獲得につながるため、即戦力育成において効果が期待されています。「能力開発基本調査(令和2年度)」によると、正社員または正社員以外に対して計画的なOJTを実施した企業の割合は約60%でした。
OFF-JTとOJTとは、人材育成に対する手法や内容が異なります。OFF-JTは職場以外で実施されますが、OJTは職場で実施されます。研修方法は、OFF-JTはビジネスに対しての知識を体系的に学ぶ集合研修が一般的ですが、OJTは個人ごとに実務の中で指導を受ける研修スタイルです。研修期間にも違いがあり、OFF-JTは1〜3日程度であるのに対して、OJTは2週間から3ヵ月など長期的に行われます。
OFF-JT | OJT | |
内容 | 体系的・基礎的な知識・スキルの習得 | 業務に直結した知識・スキルの習得 |
実施場所 | 職場以外 | 職場 |
期間 | 短期的 | 長期的 |
指導者 | 外部講師や委託会社が行うことが多い | 職場の上司や先輩がメンターとなる |
OFF-JTとOJTは対比されやすい研修手法ですが、どちらか一方を行えばいいわけではありません。OFF-JTで学んだ知識やスキルをOJTで実践する。OJTで不足している部分をOFF-JTで補い、また現場で経験を積むというサイクルを回すことで、相乗効果があるとされています。現場の課題や状況によって臨機応変に取り入れることが重要です。
- 【参考】
- OJTとは|日本の人事部
OFF-JTとSD(自己啓発)との違い
OFF-JTやOJTと同じ教育訓練手法として注目されているものに、「SD(Self Development:自己啓発)」があります。SDとは、従業員個人の意思によって、自発的に能力向上を目指す方法で、社外のセミナーに参加したり、書籍を購入して勉強したりとその手法はさまざまです。
OFF-JTやOJTは、企業側がスケジュールや内容などを計画して推進していきますが、SDは企業に強制力はなく、学習に対する意思や内容は個人に委ねられています。
最近では、従業員の主体的な学ぶ意欲を高めるために「自己啓発支援制度」を設ける企業も増えています。「SDS(Self Development System)」とも呼ばれ、企業が自己啓発の費用や時間、場所・設備などを支援することを指します。例えば、資格取得に関する費用補助、学習スペースの提供、業務時間の一部を自己啓発の時間に充てることなどが挙げられます。
3.OFF-JTのメリット・デメリット
人材育成に効果的とされるOFF-JTですが、メリット・デメリットをきちんと理解した上で導入する必要があります。
OFF-JTのメリット
- 効果を均一化できる(指導者によるばらつきがない)
- 体系的な知識を習得できる
- 実務から離れることで知識の習得に専念できる
- 教育にかかる現場負担を減らす
- 横とのつながりや新しい出会いを創出できる
OFF-JTは、集合研修やeラーニングが主流です。教育担当による教え方のばらつきがなく、仕事をする上で必要とされる基礎知識やノウハウを体系的に学ぶことができます。今後のキャリアップを想定し、育成フェーズごとに計画的な研修を実施すると効果的です。
「能力開発基本調査(令和2年度)」によると、能力開発や人材育成に関する問題点として「指導する人材が不足している」(54.9%)、「人材育成を行う時間がない」(49.5%)をあげる割合が高い結果となっています。社内で教育担当をアサインする必要のあるOJTとは異なり、OFF-JTは外部研修会社に委託したり、eラーニングを活用したりすることで現場負担が軽減される点もメリットの一つです。一度に大人数を指導することができるため、職場負担を減らすことも可能です。
そのほか、集合研修の場合は他部署の参加者と交流できることから、コミュニケーションの機会が増加します。情報交換など親交を深めることができれば、企業活性化にもつながるでしょう。
OFF-JTのデメリット
- 実践的ではない可能性もある(実務とかけ離れる)
- 参加者のモチベーション醸成が難しい
- コスト(工数・費用)がかかる
OFF-JTで実施する研修には、ビジネスで役立つ基礎的な内容のものもあるため、OJTのように実践的ではなく、即時的な効果が期待できない場合もあります。企業側がOFF-JTの重要性を認識していても、従業員が業務を中断してまで参加する必要が感じられず、「忙しい」「必要な知識ではない」とモチベーションが低いまま受講し、研修の成果につながらないことも考えられます。
OFF-JTは外部機関や講師に依頼することも多いため、研修プログラム企画費や会場費、講師への謝礼など、OJTよりも費用がかかります。また、業務を中断したことによって発生する人件費も考慮しなければなりません。
4.OFF-JTで効果を出すポイント〜OJTの使い分け〜
OFF-JTの重要性は理解していても、依然としてOJTを重視している企業は多い傾向にあります。厚生労働省の「人材開発政策関係資料集」によると、「OJTを重視する」「OJTを重視するに近い」を合計した回答割合は70%を超えています。
成功させるためには「4・2・4の法則(ロバート・ブリンカーホフ教授)」
企業が人材育成の効果を出すために、OFF-JTをどのように活用すればいいのでしょうか。そのヒントとなる考え方が、ウエストミシガン大学のロバート・ブリンカーホフ教授が発表した、研修効果に影響を与える要素の割合を示す「4:2:4の法則」です。
研修前の意識・動機付け | 4割 |
研修自体 | 2割 |
研修後のレビュー | 4割 |
この法則では、研修内容自体が効果に与える影響は2割であり、研修前のモチベーション向上と研修後のフィードバックが重要であることを示しています。つまり、OFF-JTを運用する際は、「受講者がOFF-JTの目的を理解・納得している状態」をつくった上で、「業務にどう活用するのか、実践方法をイメージさせる」ことが重要です。
そのため、OFF-JTの運用担当者は、最初に研修を行う目的を事前に説明する機会を設け、興味関心の醸成や目標の明確化、アクションの設定を行うようにすると良いでしょう。研修実施後には、研修を踏まえてどのようにPDCAサイクルを進めていくのか、上司や先輩によるフォロー・アドバイスを行うことが大切です。
OFF-JTやOJTを組み合わせ、繰り返し実行する
OFF-JTを行う上で重要なのは、OJTと組み合わせることです。例えば現場負担を軽減したいあまり、OFF-JTにばかり注力していると、基礎的なビジネススキルは身についても、実務スキルは向上しないかもしれません。
また、コスト削減のためにOJTのみを行っていると、教育内容にばらつきが発生して能力に差が出る可能性もあります。OFF-JTとOJTには、それぞれにメリット・デメリットがありますが、お互いに補い合う関係性があるとも言えます。OFF-JTで学んだ知識をOJTで実践する、また、OJTでの学びを深めるためにOFF-JTで業務内容をおさらいするなど、サイクルを回すことでより効果を発揮できるでしょう。
実施後アンケートや理解度測定などで効果を測定する
OFF-JTを継続していく上で大切なのは、実施した施策を受講者がきちんと理解できたかを確認し、より良い内容へとブラッシュアップすることです。OJTとは異なり、OFF-JTでは受講者が本当に理解しているのか、理解できていないのはどの部分なのかがすぐにはわかりません。理解度を数値化すれば、受講者へのフォローを行ったり、今後のOFF-JT に生かしたりすることが可能になり、教育効果をより高めることができます。
オンラインでのOFF-JTにも対応できるように整備
以前は集合研修が一般的でしたが、テレワークの増加やコロナウィルス感染症流行の影響によって、OFF-JTのオンライン化が進んでいます。eラーニングシステムによる研修に加え、Web会議システムを用いてオンラインによる集合研修を行っている企業も増えています。
パーソル総合研究所の「コロナ禍における研修のオンライン化に関する調査」によれば、2020年にオンライン集合研修を増やした企業は75.0%。大手企業だけではなく、100名以上300名未満の企業でも61.0%増加していることがわかりました。また、受講者に研修が成果につながったかどうかを聞いたところ、対面による集合研修とオンライン集合研修では成果の有無に大きな差は見られませんでした。
オンライン研修は場所を選ばずに開催できるほか、受講者は匿名で質問ができ、研修の様子を録画して見返すことができるなど、さまざまなメリットがあります。今後ますますオンラインによるOFF-JTが定着していくと考えられます。
5.OFF-JTやOJTの助成金制度
企業が従業員へのOFF-JTを実施する場合、「人材開発支援助成金制度(2016年4月にキャリア形成促進助成金から変更)」を利用することができます。ここでは厚生労働省のページを参考にしながら、Off-JTやOJTの際の助成金について紹介します。
- 【参考】
- 人材開発支援助成金|厚生労働省
人材開発支援助成金とは
人材開発支援助成金は、従業員に対して計画的に職業訓練を実施した企業に対して、費用が一部助成される制度です。OFF-JTやOJTを行った際に申請できるのは、以下の三つのコースです。
特定訓練コース(OJT・OFF-JT対象)
生産性向上や若年者の技術支援などを対象にしたコースです。対象となる訓練は限られていますが、中小企業だけではなく大企業や事業主団体も支給対象になります。
<支給対象の訓練内容>- 労働生産性向上訓練(生産性向上に向けた教育訓練)
- 若年人材育成訓練(若年労働者が対象の教育訓練)
- 熟練技能育成・承継訓練(熟練技能者の指導力強化や技能承継のための訓練)
- 認定実習併用職業訓練(雇用型訓練)※雇用型訓練:OJTとOFF-JTを組み合わせて行う訓練
<支給額>
OFF-JTの経費助成率:中小企業45%(それ以外30%)
OFF-JTの賃金助成額(1人1時間あたり):中小企業760円(それ以外380円)
OJT実施助成(1人1コースあたり):中小企業20万円(それ以外11万円)
※生産要件を満たす場合は、当該割増分が追加で支給されます。
※時間や企業規模によって、支給限度額が設定されています。
一般訓練コース(OFF-JTのみ対象)
特定訓練コース以外で、職務に関連した知識や技術を習得させるために行った職業訓練を助成するコースです。申請条件は、(1)OFF-JTにより実施される訓練であること、(2)訓練時間が20時間以上であることです。
<支給額>
OFF-JTの経費助成率: 30%
OFF-JTの賃金助成額(1人1時間あたり): 380円
※生産要件を満たす場合は、当該割増分が追加で支給されます。
※時間や企業規模によって、支給限度額が設定されています。
特別育成訓練コース(OJT・OFF-JT対象)
正社員経験の少ない有期契約労働者が対象になり、正規雇用労働者への転換もしくは処遇を改善が目的となります。
<支給対象の訓練内容>- 一般職業訓練
- 有期実習型訓練
<支給額>
OFF-JTの経費助成率:正社員化した場合70%(非正規雇用を維持した場合60%)
OFF-JTの賃金助成額(1人1時間あたり):中小企業760円(それ以外475円)
OJT実施助成(1人1コースあたり ※有期実習型訓練):中小企業10万円(大企業9万円)
※生産要件を満たす場合は、当該割増分が追加で支給されます。
※時間や企業規模によって、支給限度額が設定されています。
助成金の申請方法
人材開発支援助成金の申請から受給までの流れは以下の通りです。申請してから受給するまでに数ヵ月かかるため、あらかじめスケジュールに余裕を持って申請することが必要です。
- 訓練計画書を 作成し、OFF-JT(OJT)開始1ヵ月前までに労働局へ提出 ※認定実習併用職業訓練コースの場合は、事前に厚生労働大臣の認定が必要です。
- 1.で提出した訓練計画書に沿って、実施する
- OFF-JT終了後2ヵ月以内に事業主支給申請書と必要な書類を労働局へ提出
- 労働局による審査が通れば助成金を受給
※有期実習型訓練(キャリアアップ型)の場合は、キャリアコンサルティングを実施します。
OFF-JTをうまく教育に組み込むことは、従業員のスキル向上や生産性向上につながります。その効果を最大限発揮するには、OJTや自己啓発などそれぞれの強みを活かしながら、適切に組み合わせることが重要です。OFF-JTなど企業が従業員の学ぶ環境を提供することは、採用において有利になる可能性もあるため、企業における積極的な活用が期待されます。
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