高齢者雇用
高齢者雇用とは?
「高齢者雇用」は、労働への意欲と能力のある高齢者を雇用することで、少子高齢化や労働人口の減少といった問題に対応する取り組みです。世界保健機構(WHO)では、65歳以上の人を高齢者と定義しています。しかし、内閣府の「高齢社会対策大綱」では、65歳以上の人を一律に高齢者と捉えるのはもはや現実的ではないと述べており、今後は年齢による区別をなくし、意欲や能力に応じて活躍できるエイジレス社会を目指すとしています。
1.高齢者雇用が求められる背景
~少子高齢化による人手不足が深刻化~
高齢者の活用や雇用が求められる背景には、少子高齢化による労働力の減少があります。日本の総人口は2008年の1億2,808万人をピークに減り続けています。2021年9月時点で日本の総人口は1億2,522万人、うち65歳以上の高齢者が占める割合(高齢化率)は29.1%。2065年には総人口が8,808万人まで減少し、高齢化率は38.4%まで上昇することが予測されています。
厚生労働省による就業者数シミュレーションでは、経済成長・労働参加が進まない場合、2040年には就業者数が1,285万人減少(2017年の実績比)すると見込まれています。これに対して、経済成長・労働参加がうまく進んだ場合、就業者数は506万人の減少にとどまります。ここでキーとなるのが高齢者です。後者は前者よりも就業者数が779万人多くなっていますが、うち476万人を高齢者が占めるという試算です。
人口減少や少子高齢化に歯止めがかからない現状を踏まえると、これまでのように若年層の労働力に頼るだけでは立ち行かない状況となるのは明らかです。人手不足を補うには、知識や経験が豊かな高齢者の雇用が鍵となるのです。
2.高齢者雇用の実態
~高齢者は就労意欲が高く、就業者数・就業率ともに過去最高~
内閣府の調査によると、65歳を超えても働きたいと希望する高齢者は回答者全体の3分の2(65.9%)の割合まで達しています。そのうち、「働けるうちはいつまでも」と回答した人の割合は約3割(29.5%)に上っており、高齢者の就労意欲は高いことがうかがえます。
実際の高齢就業者数においても、2020年時点で906万人と過去最高を記録し17年連続して前年比で増加しています。高齢者就業率も25.1%と9年連続して前年比で増加、主要国と比較しても韓国の34.1%に次いで2位と高い水準にあります。さらに、15歳以上の就業者総数のうち高齢就業者が占める割合も13.6%と過去最高です。
企業側の受け入れ体制に関しては、2012年の高年齢者雇用安定法の改正により、定年制の廃止や65歳までの定年引き上げ、継続雇用制度の導入といった措置(高年齢者雇用確保措置)のいずれかの対応が義務付けられました。厚生労働省が行った「令和2年高齢者の雇用状況」調査によると、65歳までを対象とする高年齢者雇用確保措置を設けている企業の割合は99.9%と、ほぼ全ての企業で高年齢者雇用確保措置が導入済みです。
65歳を定年とする企業は18.4%(大企業11.9%・中小企業19.2%)、66歳以上の高齢者が働ける制度のある企業は33.4%(大企業28.2%・中小企業34.0%)、70歳以上では31.5%(大企業26.1%・中小企業32.1%)となっています。約3割の企業で66歳以上でも働ける制度が導入されており、大企業よりも中小企業で高齢者雇用が進んでいるといえます。
2021年4月に施行となった高年齢者雇用安定法の改正では、70歳までの就業確保が努力義務となり、企業が対応すべき高年齢者就業確保措置が追加されています。企業側は今後さらに高齢者雇用について検討することが求められています。
3.企業における高齢者雇用の事例
~高齢者の活用や雇用では、周囲が高齢者に向き合い関心を示すことがカギ~
高齢者の活用や雇用における企業事例を紹介します。
(※取り組み内容、経歴は取材当時のものです)
ソニー株式会社:「キャリア・カンバス・プログラム」でベテラン社員のキャリアを支援
ソニーでは、ベテラン社員のキャリアを支援するための施策として「キャリア・カンバス・プログラム」に取り組んでいます。目的は大きく次の二つで、各目的を達成するために設けた複数の施策の総称が「キャリア・カンバス・プログラム」です。
目的1:新しい分野への挑戦を促進
- キャリアプラス:現在の部署に籍を置きながら、業務時間の2~3割ほどの時間で別の仕事を兼務できる
- Re-Creationファンド:50歳以上の社員がスキル獲得のために行う自己投資に対して、上限10万円まで会社が費用を補助
目的2:キャリア形成の支援
- ワークショップ型研修:50~53歳が対象の「エクスプローラー」と、57歳が対象の「ネクストステージ」の2種類。前者はキャリアを考えるのは楽しいと感じることが目標、後者は定年後を踏まえたお金の計算や再雇用の検討など
- キャリアメンター制度:研修後、メンターによるフォローアップを全員に実施
- ボトムアップ活動:キャリアを考える社員たちが自主的に勉強会などを企画・実施
「キャリアプラス」では、ベテラン社員が果たす役割は大きく次の三つのパターンに分かれています。
- 若手社員が出すアイデアを具現化する上でのサポート的役割
- 趣味を仕事に生かす
- 全社プロジェクトの運営
ベテラン社員は発想力などが若手に劣る傾向はあります。一方、若手社員はアイデアの具現化に必要なビジネススキームの確立などの経験が不足しています。その点を高齢者が補う形で互いの得意分野を生かしている「キャリアプラス」の事例は高齢者活用の参考になるでしょう。
高齢者の長所を引き出せるような活用や雇用を考えよう
高齢者は就労意欲が高く、現状では就業者数・就業率ともに過去最高レベルで年々増加し、企業側も受け入れ体制を整備しています。
高齢者の活用や雇用では、周囲が高齢者に向き合って期待や関心を表すことも一つのポイントです。高齢者が苦手な部分をクローズアップするのではなく、若年社員と補完しあう関係性を築けるよう、豊富な知識や経験を生かせる配置を考えるなど、長所を引き出せる施策を検討する必要があるといえるでしょう。
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