防衛的悲観主義
防衛的悲観主義とは?
「防衛的悲観主義」とは、物事を悪いほうに考えることで、悪い状況を回避しようと努力し、その結果成功につながるという考え方。1980年代から心理学領域で使用されている概念です。アメリカの心理学者ジュリー・K・ノレム氏の著書「The Positive Power of Negative Thinking」で注目されました。日本では、東京2020オリンピックにて柔道男子73キロ級に出場した大野将平選手が防衛的悲観主義を掲げ、自分を疑いながら稽古に励み、大会2連覇を果たしたことで話題になりました。
防衛的悲観主義者にポジティブ思考を強いると
かえってパフォーマンスを下げる結果に
一般的に、悲観主義より楽観主義のほうが成果を上げやすいと思われています。心理学の分野においても、ネガティブ思考に比べてポジティブ思考のほうが美徳であるという考え方が主流でした。どうすればポジティブな考え方を実践できるかといったノウハウが、世の中には数多くあります。
しかし近年、物事を悪いほうへ考えることで成功している人たちの存在が明らかになっています。ジュリー・K・ノレム氏は、戦略的楽観主義者と防衛的悲観主義者の実験と研究を行い、悲観主義者が必ずしも失敗するわけではないことを明らかにしました。
レノム氏は、過去のパフォーマンスに対する認知と将来のパフォーマンスに対する見込みによって、認知パターンを四つに分類しました。一つ目は、過去のパフォーマンスをポジティブに認知し、将来のパフォーマンスにも見込みが高い「一般的楽観主義」。二つ目は、過去のパフォーマンスをポジティブに認知しているが、将来の見込みは低い「防衛的悲観主義」。三つ目は、過去のパフォーマンスを低く評価しているが、将来の見込みは高い「非現実的楽観主義」。四つ目は、さらにネガティブな結果を想像する「一般的悲観主義」。
ノレム氏は「一般的楽観主義」と「防衛的悲観主義」の人々に課題を与えて比較しました。課題前に気晴らしさせると前者の成績は上がり、後者は下がりました。一方、課題について事前に熟考させると前者の成績は下がり、後者の成績は上がりました。一般的楽観主義者はリラックスして課題について考えないようにすることでパフォーマンスを発揮するのに対し、防衛的悲観主義者は起こりうる可能性を検討することでパフォーマンスを発揮することがわかったのです。
仕事においても、同僚や部下が慎重であったり悲観的であったりすると、ポジティブに考えるよう促すことは珍しくありません。しかし、リラックスすることがかえって悪い結果につながる人や、物事を悲観しているからこそ念入りな準備をして成功を収める人もいます。状況への適応方法は人それぞれ。ポジティブ思考がいつも万能というわけではないのです。
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