人材獲得施策にはさまざまなものがありますが、最近注目されているツールが「給与前払いサービス」です。アルバイト、パート、派遣ワーカーには、働いた当日や、必要なタイミングで受け取るなど、給与受取におけるタイミングの自由度が応募のトリガーになることもあります。なかでもヒューマントラストの現場のニーズから生まれた給与前払いサービス「キュリカ」は、導入前と導入後で応募者数が6倍になった企業もあるほど。「キュリカ」の導入メリットと、キャッシュレス社会に向けたサービスの展望について、株式会社キュリカ取締役・尾崎亘さんにお話をうかがいました。
- 尾崎亘(おざき・わたる)氏
- 株式会社キュリカ 取締役執行役員
1998年に大手人材サービス会社に入社。その後、電子決済/電子マネー業界にて新規事業の立上げ、事業開発を経験。2014年より共通ポイントのリーディング企業にて外食/小売り業界に対するマーケティング分野での営業を担当。営業先企業の各店舗では顧客の維持/開拓よりも店舗運営にかかわる人材不足の解決が優先課題である事を実感。2018年より現職、給与前払いサービスの「キャッシュレス化推進」と「キュリカ導入企業の採用課題の解決」に取り組む。
「給与前払い」という付加価値が人手不足を解消する
近年は給与前払いサービスをよく耳にするようになりましたが、改めてどのようなサービスなのでしょうか。
実際の給与支払い日から繰り上げて、従業員が給与を受け取ることができるサービスです。給料日前でも、従業員はその時点までに働いた分の給与の中から一定額を受け取れる仕組みです。ときどき貸金やキャッシングサービスと間違われることもあるのですが、自分が実際に働いた分の給与を前倒しで受け取るだけです。お金を借りるわけではありませんので、企業もユーザーも安心して利用することができます。
給与前払いサービスが広まってきている理由とは何でしょうか。
「キュリカ」のようなサービスが広く受け入れられるようになってきた根本的な理由は、労働力人口の減少です。高齢化が進んだことで、現場では圧倒的に人が足りなくなっています。雇用問題を語るときには、非正規労働者や外国人労働者の増加が取りざたされることが多いように思いますが、それらは本質的な議論ではありません。「非正規雇用が増えてきて、日本がおかしくなってしまっている」という論調は、まるで「アルバイト・パート・派遣=悪い働き方」と言っているようなもので、現場のニーズをまったく理解していません。働き方が多様化している今の時代には、もう時代遅れな考え方だと思います。
非正規労働者や外国人労働者が増えている中で、現場ではどのようなことが発生しているのでしょうか。
身近な例をお話します。20年ほど前を思い返すと、コンビニも居酒屋もスタッフはほとんどが日本人でした。しかし今では、コンビニや居酒屋チェーンで日本人スタッフを見つける方が難しいくらいで、ほぼ外国人スタッフの方で占められています。非正規雇用の増加は、働き方の多様化とも言うことができますが、外国人労働者に関しては、実際に何かしらの困難を抱えながら働いていることが多いです。例えば、言語の壁があります。日本で働くなら日本語を話せることが絶対条件になっています。また、外為法の規制により外国人労働者は、長期滞在ビザを持っていて、かつ日本での滞在期間が6ヵ月以上にならないと銀行口座をつくれません。裏を返せば、銀行口座を作ることができないその半年間は、銀行口座を介して給与を受け取ることができない、ということです。
プロセスが多少煩雑になっても、外国人労働者の力を借りばければならないほど、現場の人手不足は逼迫しているということですね。
そもそも、なぜ日本の若者がそういった場所で働かなくなったのでしょうか。理由の一つは、アルバイトを単なるお金稼ぎではなく、自己実現の場としてとらえるようになってきたことです。また、お金の稼ぎ方も一昔前と比べると多様化しています。一昔前は「時給1000円、週3日」といった数字的な情報だけで人が集まっていましたが、今は職場環境やメンバー紹介といった「付加価値」を提示しなければ人が集まりません。逆にネガティブな情報があれば、あっという間にオープンになってしまいます。「時給が高いということは、何か裏があるのでは……」などと考えるなど、ユーザーの情報リテラシーも向上しています。
付加価値の一つとして、給与前払いサービスを使うこともできるということですね。
その通りです。日本では、ほとんどの企業が月給制です。25日を給与支払い日に設定しているところが多いようですが、その日が来るまで賃金を受け取ることができません。私たちは月給に慣れていて「給料は月に一度もらえるもの」と刷り込まれていますが、給与は毎日支払われたっていいんです。労働債権ですから、自分が今日働いた分をその日に受け取っても、何の問題もありません。しかし、企業側に資金繰りの問題や煩雑な事務作業が生じるため、月に一度の支払いが浸透していったのです。この習慣を変えることで、もっとフレキシブルに労働力を動かすことができないかと考えたことで、「キュリカ」というサービスが生まれました。
本格外販から2年で成長。求人応募者数2倍、定着率3倍を実現する「キュリカ」
キュリカが誕生した経緯をお聞かせください。
総合人材サービスのヒューマントラストが、自社の現場従業員のニーズに応えるために始めた取り組みがキュリカでした。同社の人材派遣事業部の中に短期単発型のマーケットを担当する部署があったのですが、バレンタイン商戦やクリスマス商戦になると、「1日に数十人が欲しい」というオーダーが入ります。しかし短期単発の仕事の場合、1ヵ月後に給料が振り込まれるという形ではなかなか人が集まりません。そのため、当時は給与を現金で日払い支給していました。就業後に事務所まで現金を取りに来てもらうのですが、従業員にはそのための手間暇がかかり、一方で当社では事前に現金を用意して夜遅くまで事務所を開ける必要がありました。そのような状況の中、就業後に近所のコンビニATMで給与を受け取れるサービスはニーズが高いと判断し、2007年に給与前払いサービス「キュリカ」が誕生しました。自社で運用する中でサービスをブラッシュアップ。続けてビジネス特許を取得し、2016年より社外向けに販売を開始し、2018年にキュリカの別会社化を経て、外販を本格化させました。
さまざまなサービスがある中で、「キュリカ」の特長とは何でしょうか。
キュリカは、給料日を待たずに、かつ銀行口座を持たなくても、給与を直接ATMから引き出すことができる“日本初の給与前払いサービス”なのですが(キュリカ調べ)、少し実績のお話しをさせていただきます。実はキュリカは「導入企業において、効果不満による解約はゼロ社」なんです。本格的な外販を開始して2年程ですが、導入社数は現在100社以上で、夏以降は利用が前年対比40%増のペースで増えています。キュリカカードの保有者もすでに11万人を超え、急速に拡大成長しています。
この成長の要因のひとつが、利用者の利便性の高さです。キュリカは、銀行口座振込を利用した給与前払いサービスと比較して圧倒的に利用回数が多いのが特徴で、他サービスでは利用回数の平均は1~2回/月ですが、キュリカは月平均6回を超えています。また、導入企業で働いている会員の内60~70%の方が利用していますが、これは、前払い給与は働いた分の引出であり、借入ではないので金利もありません。利用者が安心して使えるサービスであることに加え、利用者のコストがATM利用料の400円(税抜)で業界最安水準、利用時の事前申請も不要という手軽さ・利便性の高さの結果だと考えています。前述の通り、キュリカを導入した企業は求人応募者数が平均約2倍に増加、中には6倍に増加した企業もあります。スタッフ定着率向上にも効果があり、キュリカカード保持者の定着率は、非保持者より3倍高いのです(すべてキュリカ調べ)。これらの応募率・定着率の効果は、前述の利用率が高いことに起因しています。
法律を遵守している点も特長の一つです。労働基準法では「給与」について、「通貨で直接労働者に全額を毎月1回以上、一定の期日を定めて支払うもの」と定義しています。直接払いの原則の最もポピュラーな例外となっているのが、銀行ですね。銀行は給与支払いを代行していますが、現状の法律では、銀行以外に代替できるところはありません。しかし、唯一そこに幅を持たせているのが資金移動業という法律です。資金移動業を持っていると、1回につき100万円という上限こそありますが、それ以外はほぼ銀行と同じ役割を果たすことができます。弊社はそこに着目し、企業から預託金として給与となる原資を預かる仕組みを考えました。そうすることで銀行のように直接払いの原則をクリアできないかと厚生労働省などと協議を重ねた結果、「キュリカ」が誕生したのです。また、サービス利用手数料においては、『%』でとっているサービスも存在します。しかし専門家によると、利息制限法へ抵触する可能性も考えられるといいます。一方でキュリカは、手数料は一律固定料金でこれに相当しません。こういったコンプライアンス遵守を決め手として弊社サービスをお選びいただくケースも多いです。
法律に則っている安心感が「キュリカ」の伸長につながっているのですね。では、実際に企業が「キュリカ」を導入する場合、どれくらいのコストがかかるのでしょうか。
導入企業には、月額5万円をお支払いいただいています。私たちはさほど高くない価格設定だと考えていますが、「5万円も取るの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。企業は採用のためにWeb広告や紙媒体に募集広告を出していますが、そのコストは小さな企業でも年間にすると数百万円、大手になると数億円をかけることもあります。そのようなコストを考えると、「キュリカ」を導入することで月に4回出していた広告が月に1回で間に合うようになれば、トータルで大幅にコストを削減することができます。
キャッシュレス化の動きにどう対応するのか?
先日、厚生労働省がデジタルマネーで給与を支払えるように規制を見直す方針を固めた、という報道がありました。この規制緩和は、「キュリカ」にとってどう影響してくるのでしょうか。
実はこの動きは、私たちがもともと見込んでいた流れなのですが、日本の現状はというと、相変わらず現金への依存度が高い。しかし、時代は確実にキャッシュレスへと移りつつあります。それを見越して、現金主義の今のうちからデジタルサービスに触れておいてほしいですね。その落としどころが今の「キュリカ」のビジネスモデルで、「将来的に広く使ってもらうために、現段階では現金を扱ったサービスにしておこう」というのが私たちの着眼点です。
日本では、多くの人がキャッシュレスのメリットを理解できていないのではないかと思います。キャッシュレス社会は、私たちの生活をどう豊かにしてくれるのでしょうか。
まずは消費者側の利便性で申し上げると、時間の短縮になります。コンビニの列に並んでいると、現金派の方は財布を開けて千円札を出して、百円玉を出して、十円玉を出して……と大変な作業をされていますが、これが3人くらい続くと、キャッシュレス派の私にとってはものすごくフラストレーションがたまってしまいます。デジタルマネーであれば、1秒で終わりますからね。
消費者側だけでなく、コンビニなどのサービス提供側にも、もちろんメリットがあります。デジタルマネーでピッとするだけで決済できるとなると、まず金額の過不足が無くなります。入力した数字さえ間違えなければ、自動的にその金額が引き落とされ、売上に加算されます。人為的なミスが大幅に軽減されることは、大きなメリットです。もう一つは、時間の短縮。レジに掛かる時間が圧倒的に短縮されるので、その分の労働力を別のサービスに充てることができます。すると、コンビニの作業効率が高まるので、より良いサービスにつながったり、時給を上げたりするなど、結果的にお客さまや従業員のためにリソースを使えることになります。日本がキャッシュレス社会になったら、どれくらいの経済効果があるかを多くのシンクタンクが研究していますが、かなりの経済効果があると考えて間違いないでしょう。
現状は給与前払いサービスのみですが、今後キャッシュレス化を見込んだ事業展開はお考えでしょうか。
現状、「キュリカ」は給与の即時払いに対してストレートなサービスを提供するにとどまっていますが、今後は給与のデジタルマネー対応も含めて、さまざまな支払いニーズに横展開していくことの方に主眼を置いていきたいと考えています。給与を引き出すだけでなく、例えば、従業員が自分の立て替えた経費の精算にこのシステムが応用できれば、社内での煩雑なプロセスを経ることなく、立替金を即日で現金化できるようになります。飛行機代や宿泊費などが重なると、経費の精算が高額になってしまうこともあります。領収書を無くす心配におびえながら過ごすよりも、すぐに現金化してしまった方が気持ち的にも楽になるはずです。
ありがとうございます。最後に、「キュリカ」に対する思いをお聞かせください。
社会に広く受け入れられるサービスとは、利用した人たちに「便利だな」「得だよね」と本当に思われているものです。その思想を常に忘れず、顧客視点でサービスの中に一つひとつ折り込んでいけば、多くの人に愛されるサービスをきっと作れるはず。多くのサービスの中から「キュリカ」を選んでくださった方々が「やっぱりキュリカだよね」と選び続けていただけるようなサービスにしていきたいですね。「キュリカ」が受け入れられ、ずっと成長して来られているのは、やはり、導入した企業の方々が良いと思ってくださっているからだと思います。サービスが悪ければ、この広がりはありません。私たちが絶対的な自信を持って提供する「キュリカ」を、ぜひ多くの企業に活用していただきたいと考えています。そのために引き続き、利用者の利便性向上を一層追求し続けていきます。
株式会社キュリカは、“いつでも、どこでも、だれでも”給与を自由に受け取れる社会を目指しています。
人材不足は業界や企業規模を問わず深刻化しており、人材獲得や定着は重要な経営課題の一つでもあります。日本初の給与前払いサービス「キュリカ」を提供することで、企業においては人材獲得・定着課題の解決、利用者においては生活の利便性向上に繋げます。